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#25「真っ暗」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 酷い有様だった。

 検査の次の日に起こったのなんて、前代未聞だった。
 これだから病気の身体というものは油断がならない。
 今日調子が良くても、明日はお陀仏かもしれない。

 世界は、決して安定していない。
 いつでもひび割れ、そして今にも崩れ去ってしまうかもしれない。
 それを知ったら、その日いちにちをおざなりに生きるだなんて、出来るわけがない。

 出来るわけがない。

「……っ、ぐ、う……?」

「! 先生、クランケ意識を取り戻しました!」

 遠くで誰かが、叫んでいる。

「よし、田島君鎮静剤投与! 峰君はクランケの汗を拭いてっ!」

「はいっ!」

 誰かが、なにかをしている。

「先生、心拍数低下! クランケの様子がまた――」

「電気ショック! 1,2,3! 反応ありません! もう一度だ!」

 そのどこにも、ぼくはいなかった。

 無数の言葉が、ぼくとは関係なくやり取りされている。
 それをぼくは、遠いところから見ていた。
 そんな心地だった。
 ぼくの身体を弄っているはずなのに、ぼくの意思とは関係なしだなんて、お笑い草だった。

 笑えない類の。
 いわゆるブラックジョーク。

 ハハハ。
 誰かが笑った、気がする。

 気づいた時、既に病室に戻っていた。
 当然のように全身に無数の管が繋がれている。

 まるで自分がロボットにでもなったような気分。
 指一本動かせない。
 唯一自由になる瞳を、横に向ける。

 ぴこーん、ぴこーん、と心電図が、ぼくの心臓の鼓動を伝えていた。
 一応生きていると、ぼくに確認させてくれた。

 真っ暗だ。
 いま何時だろうと思った。





 たぶんここは、ICU――集中治療室だろう。
 他に誰もいない。

 それは、困る。
 彼女が、来てくれないかもしれない。

 それは困る。
 誰もぼくの意思を伝えてくれない。

 誰もぼくを、連れ出してくれない。
 ぼくが生きる理由が、失われてしまう。

 こんな気分では、心電図が止まってもいいと思ってしまうじゃないか。

「…………」

 ため息すらつけない自分を、恨めしく思う。

 なにも出来ない。
 みの虫か、ぼくは。
 いやみの虫の方がよほどましだろう。

 こんな痛みに、苦しみに、さいなまれることはないのだから。

 ああ、生きるのは辛いなあ。
 本当に、辛いなあ。
 ままならないなあ。
 僅かな、楽しみだっていうのに。
 ささやかな、願いだっていうのに。
 それすら、叶わないだなんて。

 もう死にたいなあ、なんて考えた。

 その瞬間、世界はその色を変えた。

「――――」

 それは形容しがたい体験だった。
 世界は無数の色に満ちているし、明かりを落とせば黒一色に塗りつぶされる。
 だから世界が色を変えるというのは、言葉としてはおかしい。

 だからそれは色というよりは、在り方を変えたというべきだろうか。

 まるで、薄っぺらくなったような。
 立体感を失ったというか。
 元々の本質がさらけ出された――映画のセットが張りぼてだと、看破した時のような。

 それは、そんな感覚だった。

 死はほとんど物心ついた時から、傍にあった。
 だからそれは畏怖の対象ではなく、あたり前のものだった。

 生きているのだから、死ぬこともある。
 ずっとそう思っていた。
 だって昨日まで一緒に話していた病室の友達が、次の日にはいなくなっているなんてことしょっちゅうだったから。

 だからそれが普通じゃないと知ったのは、テレビや物語に触れてから、だった。
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