#16「神様の、領域」
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目次
本編
要点がわからない。
意味がわからない。
この会話はなんなんだ?
この相手はなにが言いたくて、この会話を始めたんだ?
意味がわからない。
この会話はなんなんだ?
この相手はなにが言いたくて、この会話を始めたんだ?
「言いたいことですかい? そうさな。今日は、いい天気ですな」
会話がループしていた。
参る。
苦手なタイプだった。
やはり半分ボケているのだろうか?
となると、これ以上相手にするのは時間の無駄ということになるだろうか?
「はぁ、まぁ、そうですね……ぼくはそんなに、好きじゃないですけどね」
「じゃあ成海さん、あなたはどんな天気が好きなんですかな?」
聞かれ、考える。
話してる最中に考えるなんて、レアなことだった。
他には――そう、マヤと話してる時ぐらいのものだった。
「そうですね……雨」
考えてみて、出た答えがそれだった。
その事実にぼく自身、少し驚いた。
ぼくに天気の嗜好だなんてものが、あったことに。
「雨……雨が、好きです。もっといえば、嵐だとか激しいモノとか逆にぽつぽつしたささやかなものとかより、ただ真っ直ぐにザァ、と降るような雨がいいですね。カーテンのように、世界を覆い尽くすような……」
「カーテン、ですか。それは成海さん、あなたはなかなかに詩人のようですなぁ」
その言葉に、バカにしたような響きはなかった。
ただ思ったことを呟いているような。
それにぼくも駆け引きを忘れ、ただ会話に埋没しようと思った。
どうせ彼とどんな会話を交わしたとしても、そこに意味などなにもないのだから。
「詩人だなんて、そんな深い意味なんてないですよ。ただ、思ったんですよ。世の中――というよりぼくにとっての世界は、ままならないことばかりです。だから、というか、そのせいで……いや意味一緒ですね。ただ単に、ぼくはカーテンで覆って欲しいと……欲しかった、だけです」
「カーテンで、ですかね?」
「カーテンで、です。雨という、人間ではどうしようもない天災で……は言い過ぎですね、天候で。それに覆い尽くされて、動けなくなるなら、それはそれで、仕方ないかな、と」
「ほう……仕方ない、ですか?」
「仕方ないでしょう?」
そう。仕方ない。
それは誰にも責めようのない事象だ。
天候はコントロールできない。それは何びとにも、不可能な事柄だ。
神様の、領域だ。
だから神様の決めたことなら、仕方ないと諦めるしかないだろう。
「それでなにもかも見えなくなってしまうんなら……みんな曖昧に、平等になるんなら、それはありかなって」
「平等ですかね?」
問われ、我に返る。
喋りすぎた。
思わずそう思った。
言葉としては実に狂っているが。
相手の気持ちや、空気も読まず。
ぼくらしくなかった。
また、罵倒される。
否定される。
諌められる。
そんな考え方をしてはダメだ、と。
そう、身を固くした。
けど――
「どうしましたかな? もう少し、成海さんの話をお聞きしたいんですがね?」
「あ……え、と?」
やはり、意図が読めない。
こんなぼくの話を聞いて、なにか楽しめているんだろうか?
そんなわけがない。
今までそんな相手、見たことがない。
「……あの、」
「どうかしましたかね? もしかして、喉でも渇いていらっしゃいますかな? ちょうど水戸の良いところを集めたとっておきの煎茶がございますが?」
そういい、本当にゆったりとした動作で立ち上がり、棚多さんはお茶の準備を始めた。
それをぼくは、ただ呆然と見ているしかなかった。
意図がわからなければ、狙いもわからず、するとぼくの行動も決めかねてしまう。
どうしたら――
「ほんとぅに、今日は、よい天気ですなあ」
反射的だった。
ぼくは、窓を見ていた。当然彼の視線を追う形でだが。
風が、頬を包んだ気がした。
優しく。
「……棚多さん」
「ほぅら、出来ましたぞ」
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