Ⅷ/ベトの離脱②

2019年11月20日

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「…………」

 しばらく考え、ベトは山を下りる足を止め、祈りを捧げた。

 目を閉じ、手を合わせる。
 それ以上の所作を、ベトは知らなかった。
 今度神父に正式に習ってみるかなどと、ベトは考えていた。

 エルシナに行く理由が増えるのは嬉しかった。
 なんでも用事は、まとめて済ませるに限る。

 早朝の山の空気ほど、澄み渡っているものはなかった。
 一呼吸ごとに、白く自己主張する。

 そして生命の躍動が、胸を叩く。
 夜とはまったく姿を変える。まるで、

 ――わたしたちは、死んだ世界の次の日神からの日差しという光により、再生します。
 だからみんな、死んで生まれ変わってるんです。

「……どうかしてるな」

 彼女の言葉の意味を、こうして実感するなんて。
 だけど一概には言えないか、とベトは足元のつるを愛剣で薙ぎ払いながら進む。
 毎晩自分たちが死んでいる、という言葉は笑い飛ばしたかったが出来なかったというか、正直言葉に出来ないような想いを自分に与えていた。

 死。

 それは常に――というより生まれた時から、ベトの傍にあった。

 生まれた場所が戦場の真っただ中。
 そしてずっとその場暮らしの傭兵生活。

 殺さなければ、死ぬ。
 死を作らなければ、死が訪れる。

 だから死を振りはらうために、死をあがなっていたようなものだった。
 だから死は常に自分と背中合わせに存在し、そして決して振り返り顔を合わせてはいけないものと認識していた。

 死そのものは、常にこちらの心臓に手を伸ばそうとしているが。
 しかしアレは、死は毎晩訪れているという。

 相変わらず――何度言ったかわからないが、わけがわからない。
 そこでベトは思う。

 そうだ、これも神父に聞いてみよう。
 死生観は、教会お得意の分野だろう。

 自分が死生観?

「……く、くく」

 思わずベトは、笑ってしまった。
 そんなものを考える日がこようとは思ってもいなかった。

 ただ、生きてきた。
 ただ、殺してきた。

 シンプルなそれを信条にしてきた自分が、まさかだった。

「世界はどうか知らないが、とりあえず俺は少しは変えたみたいだぜ、あんた……」

 揶揄とも感心ともつかない言葉を残し、ベトは山から街へと、降り立った。


 アレはその日、100回剣を振ることに成功した。

 嬉しかった。
 達成感で、体中が満ち満ちていた。
 まあ、三時間もかけてのことだったが。

「う、うぅ……でき、たぁ」

 へたり込む。
 全身、汗でびっしょりだった。
 というかむしろ汗のなかに自分がいるように錯覚するぐらいだった。

 軽く手を振るだけでも、べちゃ、べちょ、という奇妙な音と、信じられないぐらいの重みを感じる。
 いやもうまったく動けないけど。

 お日様が、真上にあがっていた。
 お昼。
 ご飯の時間だ。

 ご飯は一日二回食べるものだということを、アレはここに来るまで知らなかった。
 そしてお肉というものがあんなに、美味しいということを。

「おーう嬢ちゃん頑張ってるなー」
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