Ⅵ/急襲⑧

2019年10月23日

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「おいおいおいおいお嬢ちゃん平気かい怪我はないかい可哀想になァいきなり矢が飛んできて血は出ちゃいないだろうねぇ?」

 と、みなのけん制の輪を突きぬけてアレに殺到したスバルの声が、それを遮った。

 その声のでかさとばかでかいというか太い身体をアレに覆いかぶさるように広げるその蛮行に、みなの注意が殺到する。

「あー、なにやってんすか部隊長!」
「どさくさ紛れにセクハラとか最低っすよ、恥を知ってください!」
「なんだとてめぇらセクハラとはなんだわしはただ可愛いこの子の身の安全をだなァ――」
「そうやってどこ触ろうとしてんだ離れろジジィ!」
「いまジジィって言った奴ァ誰だ! 表出ろ!」
「た、隊長オレじゃないっす、レックスじゃないっすっていうか既に表……」

 どんちゃん騒ぎだった。
 すっかりアレはみんなのアイドル化していた。

 というか狙われたのは俺であって、心配されるのも俺の筈だが――まぁ、無理だよな。
 ベトは仕方なく矢を拾い、胸元にしまい込んだ。
 自分の戦での役目は果たしたし、今度こそ長居は無用。
 戻って飯食って寝るべし。

「じゃあ、あんた。俺は先に帰って飯くっとくか、ら……」

 軽い気持ちだった。
 一応その前に声かけて行こうくらいの、どうせ当人はスバルとかに気を配られてニコニコ笑ってるだろうと思ってて。

 だから、ギョッとした。

「ベト……ベトぉ……っ」

 アレは、泣いていた。

「あ、あんた……」

 既に周りは、水を打ったように静まり返っている。
 というかまさにバケツの水でもぶちまけられたかのように、面喰っている。

 初めて見る。
 こいつらがなにかに見入って、黙るなんてことを。





 それくらいアレは、涙をぼろぼろと零して、両手を縋るように前に出し、心配する周りなんて見向きもせずに動かない足を引きずるようにして、ベトへと歩を進めていた。

「ベト、ベト……ベト、ベトォ……!」

 繰り返されるぐずり声に顔を見て、再度ベトはギョッとした。

 アレの顔はぐっちゃぐちゃになっていて、涎や鼻水まで垂らしていた。
 心に加えて身体も、引く。
 そんな汚いので、こっちくんな!

 こんな血まみれの、殺人鬼の元に。

「うぇ……と、お、おいあんた俺はいま血まみれ――!」

「ベト、ベトぉ……よかったぁ、よかったよぉ……!」

「――え?」

「ベトぉ……!」

 逃げようと後ろに引きずった身体が、一瞬止まる。

 その隙をつくようにアレはベトに組みつき、そのままべちゃ、と崩れ落ちた。
 そして上からのしかかりベトの胸に顔を埋めて、

「うぅ、うぅ……ベトぉ、ベトぉ」

 ベトの名を呼び、泣きじゃくる。

 それにベトは抵抗もせず、ただされるがままになっていた。どろどろの自分抱きついたため、アレまで血まみれになっていた。

 美しい銀髪が、白い肌が、汚らわしい赤に染まる。
 だけどただ泣き続ける自分の上に絡みつく生き物を、ベトは不思議そうに見つめていた。

 その光景をしばらく仲間たちは眺めていたがスバルが、

「――ハッ。や、やいてめぇら矢が飛んでくるぞ! こっちも弓隊、準備だ!」

『お、おう!』

 散開、再び戦闘配置につく。
 それを見送り、スバルは地面にへたり込む二人に再び視線を移した。

 既にアレは力尽きたのか、健やかな寝息を立てていた。




 アレは、ずっと眠り続けていた。

 戦闘終了から、既に七時間が過ぎていた。
 しかしベトが弓で狙われた直後からずっと、アレが目を覚ますことはなかった。
 ただ瞳を閉じて、寝息も立てずに掌をお腹の前で組み、横たわり続けている。

 その姿を、ベトはじっと見つめ続けていた。

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