ⅩⅣ/悪魔憑き③

2020年4月4日

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 質問が、当初のものとは切り替わっていた。

 だがベトにはそれは、よくあることだった。
 順序立てした思考を持つ機会は、結局幼少期には失われていた。
 だから人と話そう、とする時はなにかしらの目的を持って挑むのだが、いざその人物を目の前にすると気分によって話す内容を決めてしまう。

 オレアンはそんなベトに、親しみを込めた視線を――同じように自らの杯に向けた。

「まぁ、復興の手伝いだな。普通にみなに混じって瓦礫をどけ、とんかちを叩き、家を作ったり飯炊きしたりして、必死になって街を作ってたよ。苦しいって人がいれば祈りを捧げたりもした。家が無い人には聖堂も解放したしな。それがここまで復旧できれば、まぁ御の字だなあ」

 ゆっくりとしたその言葉には、じんわりとした実感があった。

 二年前、予期していたが結局は防ぎきれなかった敵国からの侵攻に街中は破壊され、ただ唯一サミオール大聖堂だけが残った状態で救援部隊が到着した。
 その中に、ベトの姿もあった。
 夢中で戦い、彼も生き残った。

 その時ベトは、オレアンに出会った。
 まるで最近の出来事の、焼き増しのようだ。
 嫌この場合逆なのだが、ベトはそれには頓着しなかった。

「せんせいは、どうでした?」

 明白な指定語がないその疑問に、オレアンは今度はゆっくりと杯を傾け答える。

「なんと考える暇などなかったなぁ、だけど、まぁ、楽しかったさ。生きているんだから、それだけで人は楽しいものだよ。死することに比べる……までもないなあ。ただひとは――いや説教臭くなるな」

 そこまで話しておいてアハハ、とオレアンは底抜けに笑った。
 それにベトはつられて笑う。
 そこには年相応の笑みがあった。
 ベトが真に信頼し、心開けるのは、このオレアン神父だけだった。

 生みの親でも、育ての親でもない。
 心通わせた期間も僅かにふた月程度のもの。
 だけどそこに期間も事実も関係ないことを、ベトは無意識のうちに悟っていた。

「いいっすよ、せんせいの説教なら、聞いてもいい。だって説教じゃないから。せんせいの説教は説教じゃなくてただ……れれ、ンだっけ?」

「相変わらず酒には弱いんだな、ベト」

 かか、と今度は豪快に笑う。
 それにベトは、弱り目の笑みを浮かべる。
 
 勝てないな、この人には。
 なんとなくぼやける意識のなかで思った。
 それは剣や腕力や色々な理屈ある勝負ではなく、直感的に感じた事だった。


「面目ないっす、酒なんて飲んでるひまなくて……って、あれこれ聖水なんじゃ?」

「聖水が酒じゃないなんて誰が決めたんだ?」

「違いないっすね……まだまだオレは、未熟っすわ。それで俺、聞きたいことがあったんですよ」

「なんだ?」

 くい、とオレアンは一気に杯を傾け、三杯目を手酌でつぐ。
 丸っきり、外見と合っていない。
 そういうのはスバルの方がよく似合っていた。

 彼に教えられた。
 外見でものを判断することほど、愚かなことはないと。
 その在り方は、自身で決めろ。

 その本質は、心を開いて見つめろ。
 未だ、出来てはいないのだが。

「なんでひとはひとを、殺せるんですか?」

 またも当初の予定を飛び越して、現在の疑問が口をついて出た。
 それにベトは、当然頓着しない。
 当初の疑問は最終的に出るなら御の字、くらいにしか考えてはいない――というか純粋に、考えていないのだ。

 その、在り方すらひっくり返すような問いの意味に。

「……ひとは、ねえ。ベトは、どう思う?」

「またっすか? 聞いてるのは、俺なんですけどね」

 揺らしていた杯に、ゆっくりと口をつける。
 酒は嫌いだった。
 意識をぼんやりとさせる。
 シンプルな考え方が出来なくなる。
 どうでもいいことを考えさせる。

 今の生き方以外のやり方が、あったんじゃないかなんて無意味なことを考えてしまう。
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