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第41話「黒く昏い、底が見えない濁った瞳」

2020年10月8日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

『――それはどっちの意味?』

 再びそう訊くより早く彼女が突然、でも自然にスクッと立ち上がって、僕を覗き込んだ。

 悪寒に、全身が包まれた。

 怒りではない。
 憎しみでもない。
 哀しみや憐れみですらない。

 その覗き込む瞳には、一切の感情が灯っていなかった。
 それはただ無機質に、僕を"眺めている"だけだった。

 ――はっ、はっ、はっ。
 動悸が速くなる。
 胸を破られ、心臓を直接鷲掴みにされているよう。

 黒く昏(くら)い、底が見えない濁った瞳。

 人の瞳(め)じゃない。
 人の目じゃない。
 人の眼じゃない。

 人が人を見る時、こんな眼をしない。
 相手の人としての権利や存在を、その眼はまるで認めていない。
 まるで僕を、人を、物を見るかのような眼で――

 どこかでこんな眼をする生き物を見たことがあるような気がした。
 考えて、思い出した。

 ……ああ、これは、捕食者の眼だ。
 テレビのドキュメント番組で見た、捕食者が餌を前にした時にする眼なのだ。


 そう理解した時、体が急に震えだした。
 今この瞬間、僕の生殺与奪の権利は目の前にいるこの人間にある。
 ふと気紛れに食べようと思われれば、すぐに殺される。

 その事実が実感として体中に染み渡っていき、背骨に氷柱を差し込まれたような強烈な寒気を感じた。
 冷たい汗が体中を流れ始める。

 ……怖い。
 恐ろしい。

 今目の前にいるこの人間が、恐ろしくてたまらない。
 いやきっと、これは人間じゃない。

 人間が、こんな目をするわけがない。
 こんな眼を、出来るわけが――

 それは時間にしてみれば、一秒にも満たないような刹那だったに違いない。

 僕を値踏みというか空腹具合と餌の味を吟味してというか、そういう視線を送っていた彼女は立ち上がった時と同じ自然な仕草で僕に背を向け、まるで何事もなかったかのように去っていってしまった。

 僕はその、あまりの展開の早さと呆気なさについていけず、ただ呆然とその背中を見送った。
 そのあとたっぷり五分も硬直し続けたあと、ようやく僕は自分が空手をやっていることを思い出した。

 今日もあの夢を見てしまうような気がした。
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