Ⅶ/月が世界を食べる夜⑤

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 い、いったい――?

「……スバルのおっさんッ!!」

「おふはっ!?」

 いきなり、唐突に。
 なんの前触れなく直接鼓膜に大音量をブチ込まれた衝撃に、スバルは跳ね起きた。

 耳がぐわんぐわん、心臓ばくんばくんするなか、スバルは憤る。
 なんだやぶからぼうにこっちは大事なことを考える最中だってんだ!

「だ、誰だゴルァこっちは大事なことを考えてる最中だってんだやぶからぼうにィ!!」

 と、気づけば。

 そこは、自室のベッドだった。

「…………は?」

 かなり久しい感覚だった。
 呆気に取られ、みっともない間抜け声をあげるだなんて。
 しかしこの状況はそれに値するぐらいに、奇怪な状況だった。

 ベッドの上だ。自分はそこにいる。
 そこに、一人立って乗っている。

 後ろからはチチチ、と小鳥が鳴く声が聞こえる。
 既に日は昇り、明るい日差しが部屋に入り込んできている。

 広く、そして向かいには大きな机が置かれ反対側の壁にはいくつもの本棚が並べられいる。
 まごうことなく、ベトの部屋ではない。

 そこは部隊長である、自分の部屋だった。

 そして目の前には、そのベトが立っていた。
 自分を、見下ろしていた。

 わけがわからない。

「なーにやってんだおっさんよ? いよいよボケたか?」

 混乱して黙っていると、ベトはいつもの軽口を叩く。
 それが間違いなく現実であると、告げているかのようだった。

 スバルは思い悩み、頭を抱える。

「……夢、だったのか? いやしかし確かにわしは、今まで……?」


「おいおい、大丈夫かよおっさん? 冗談じゃなく、ホントにボケたか?」

 かなり本気で心配というかこっちの様子を訝しむベトにスバルはかぶりを振って、

「いや……だ、大丈夫だ」

 悪い夢でも見たようにぶつぶつ言いながら立ち上がり、ヨロヨロとおぼつかない足取りで部屋から出ていった。
 予定は、詰まっている。
 これが現実であるのなら、のんびりベッドで座っている暇はなかった。

 それをベトは笑顔で手を振り見送ってから――静かに、呟いた。

「……あんだけデケー声で話してて、聞こえねーわけねーだろ」

 昨晩のすべてのやり取りは、ベトの耳に聞こえ目にも映っていた。
 気づかないわけがなかった。

 今まで奇襲を決して許さなかったベトは徹夜明けだろうが襲撃があった日が重なろうが、物音ひとつで意識はバッチリだった。
 それは呪わしくも、思われる時もあった。

 結果としてこうして、知りたくもなかったことを知る羽目にもなる。
 そういうことは、別の場所でやって欲しいくらいだってのに。

「……どうすっかな」

 頭をかく。
 ボリボリと、ふけが床に落ちる。
 構わない、スバルだって同じようなもん――のわけねーか、あのハゲじじいが。

 窓から、鍛錬場を見下ろした。既に仲間たちは集まり、朝の鍛錬に勤しんでいた。

 その中央には、アレの姿も見えた。
 剣の振りは、昨日よりもさらに上達しているようだった。

 10秒弱だったのが、10秒ジャストにもう少し、というところだろうか? 
 傍目にはわからないが、長年剣を振り続けてきたベトにはその違いと、そしてそこに至る大変さがよくわかった。
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