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Ⅺ/月が世界を食べる夜④

2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 もう、その台詞は聞きたくなかった。

 その響き、口調、声量、文句は嫌だった。
 変な気にさせるから。
 怖い気持ちにさせるから。

 だからとにかく、なにか喋って言葉を遮ろうと思った。
 最初に口に着いたものを、そのまま吐き出す。

「ど、どうやって立ってるんだい?」

 いきなり、核心を突いてしまった。
 それにスバルは自分で自分の発言に慌てたが、

「どうイウ意味デスか?」

 天然なのかしらばっくれたのか、とにかく事なきを得たようだった。
 胸を撫で下ろして、

「いや、気にしないでくれ……いやしかし、いい夜だよな?」

 いつもの口癖を、口にしていた。

 今日は、満月。
 気温も適度で生ぬるい風が吹く、スバルの好きな夜だった。

 こんな日は、出て行った女房を思い出した。
 よく外に出て、無駄な話をしながら無駄な散歩に勤しんだもんだった。
 夜風に当たりながら、一杯やりたい気分だった。

「いい夜、デスか?」

 しかしアレの返答は、つれないものだった。
 それにスバルは眉をひそめ、

「ん? 嬢ちゃんは、こんな夜は苦手かい?」

「苦手というか……夜に違いが、あるんですか?」

 思わず、といった答え。
 それにスバルは恐怖に逸らしていた顔を、窓に向ける。

 いつの間にかアレは、ベッドの上に腰掛けていた。

「……嬢ちゃんにとっては、夜はみんなおんなじものなのかい?」

 それにスバルは、とりあえず考えないことにした。
 長年生きるか死ぬかの極限の稼業に身を置いてきた上での、経験則だった。
 あまり深いことを考えても、解決しないこともある。
 その場では優先順位を決めて、他のことを考えないようにする器の広さも重要だったりする。

 アレは物憂げな表情でこちらを見上げ、


「夜は、わたしを包みます。そして世界を包みます。その中で人々は眠りにつき、そしてその日いちにちが、死んでいきます」

「……ほぅ」

 当初の目的も忘れ、スバルはアレの話に引き込まれていた。
 この子には何かあると思っていたが、実際その世界観はいやはやなかなか――

「わたしたちは、死んだ世界の次の日神からの日差しという光により、再生します。だからみんな、死んで生まれ変わってるんです。だからその夜に、違いというものが存在するんでしょうか? いつもわたしにとって夜は、優しく包み殺してくれるものだと思っていたのですけど……」

「優しく、包み殺す? 殺すのに、優しいも何もあるのかい?」

 傭兵である自分たちには、決してあり得ない意見。
 他の仲間たちなら、笑って相手にもしないような話だろう。

 だがスバルは、話に乗っていった。
 アレは――底冷えのする笑みを浮かべ、

「ありますよ、それは。剣で刺し殺すのなんて、野蛮じゃないですか? どうせ死ぬなら――相手も気づかないくらいに、そっ、と殺してあげるのが、優しさでではないですか?」

「ほぅ……それが神の思し召し、ってやつかい?」

「そうです。それを私は、行使する者です」

「まるで嬢ちゃん、自分が天使さまみたいな言い方するなァ」

「――――」

 その言葉に、アレは答えなかった。
 ただ妖艶に微笑み、そしてそのままベッドに横になった。
 毛布をかけず、無防備な美しい肢体をさらして。

 その挑発的な態度にスバルは目を細め、

「……もう、眠いのかな嬢ちゃん?」

「今夜は、月が綺麗ですね」

 さっきと言動が、180°変わっている。
 それに背中に、そら寒いモノを感じる。

「ああ、世界が食べられていく……あなたも、どうか安らかに」

 この子は――

「お……おっさ……」
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