Ⅶ/月が世界を食べる夜④

2019年11月8日

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 もう、その台詞は聞きたくなかった。

 その響き、口調、声量、文句は嫌だった。
 変な気にさせるから。
 怖い気持ちにさせるから。

 だからとにかく、なにか喋って言葉を遮ろうと思った。
 最初に口に着いたものを、そのまま吐き出す。

「ど、どうやって立ってるんだい?」

 いきなり、核心を突いてしまった。
 それにスバルは自分で自分の発言に慌てたが、

「どうイウ意味デスか?」

 天然なのかしらばっくれたのか、とにかく事なきを得たようだった。
 胸を撫で下ろして、

「いや、気にしないでくれ……いやしかし、いい夜だよな?」

 いつもの口癖を、口にしていた。

 今日は、満月。
 気温も適度で生ぬるい風が吹く、スバルの好きな夜だった。

 こんな日は、出て行った女房を思い出した。
 よく外に出て、無駄な話をしながら無駄な散歩に勤しんだもんだった。
 夜風に当たりながら、一杯やりたい気分だった。

「いい夜、デスか?」

 しかしアレの返答は、つれないものだった。
 それにスバルは眉をひそめ、

「ん? 嬢ちゃんは、こんな夜は苦手かい?」

「苦手というか……夜に違いが、あるんですか?」

 思わず、といった答え。
 それにスバルは恐怖に逸らしていた顔を、窓に向ける。

 いつの間にかアレは、ベッドの上に腰掛けていた。

「……嬢ちゃんにとっては、夜はみんなおんなじものなのかい?」

 それにスバルは、とりあえず考えないことにした。
 長年生きるか死ぬかの極限の稼業に身を置いてきた上での、経験則だった。
 あまり深いことを考えても、解決しないこともある。
 その場では優先順位を決めて、他のことを考えないようにする器の広さも重要だったりする。

 アレは物憂げな表情でこちらを見上げ、


「夜は、わたしを包みます。そして世界を包みます。その中で人々は眠りにつき、そしてその日いちにちが、死んでいきます」

「……ほぅ」

 当初の目的も忘れ、スバルはアレの話に引き込まれていた。
 この子には何かあると思っていたが、実際その世界観はいやはやなかなか――

「わたしたちは、死んだ世界の次の日神からの日差しという光により、再生します。だからみんな、死んで生まれ変わってるんです。だからその夜に、違いというものが存在するんでしょうか? いつもわたしにとって夜は、優しく包み殺してくれるものだと思っていたのですけど……」

「優しく、包み殺す? 殺すのに、優しいも何もあるのかい?」

 傭兵である自分たちには、決してあり得ない意見。
 他の仲間たちなら、笑って相手にもしないような話だろう。

 だがスバルは、話に乗っていった。
 アレは――底冷えのする笑みを浮かべ、

「ありますよ、それは。剣で刺し殺すのなんて、野蛮じゃないですか? どうせ死ぬなら――相手も気づかないくらいに、そっ、と殺してあげるのが、優しさでではないですか?」

「ほぅ……それが神の思し召し、ってやつかい?」

「そうです。それを私は、行使する者です」

「まるで嬢ちゃん、自分が天使さまみたいな言い方するなァ」

「――――」

 その言葉に、アレは答えなかった。
 ただ妖艶に微笑み、そしてそのままベッドに横になった。
 毛布をかけず、無防備な美しい肢体をさらして。

 その挑発的な態度にスバルは目を細め、

「……もう、眠いのかな嬢ちゃん?」

「今夜は、月が綺麗ですね」

 さっきと言動が、180°変わっている。
 それに背中に、そら寒いモノを感じる。

「ああ、世界が食べられていく……あなたも、どうか安らかに」

 この子は――

「お……おっさ……」
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