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十五話「演舞」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikukose

本編

 呼びかけに、遥は慌てて視線を肉体から顔に移す。
 一瞬、意識がどこかに飛んでいたようだ。

 だが再び衝撃が遥を襲う。

 なぜならその顔もまた、太いつくりをしていたからだ。アゴの肉が厚く、首が盛り上がっている。
 反して髪の毛はビジネスマンのようにまとめられ、表情も柔和で、そのギャップが男に大人の落ち着きのようなものを醸し出しているようだった。

「あ──はい、あの、俺――じゃなくて僕、その、天寺君と、同じ学校で……」

「神薙遥。それでわたしは、神薙朱鳥っていいます」

 すっかり気後れした遥に代わって、朱鳥が一歩前に出た。

 それに男は笑みを作り、

「ほぅ、遥くんと朱鳥ちゃんか。私は煉仁会空手県西東京支部支部長、橘哲侍(たちばな てつじ)という」



 道場では、組み手と呼ばれる試合形式の稽古が行われていた。

 三、四十人ほどの道場生が二列に向かい合った状態で並び、叩き、蹴り合いを行っている。
 練習用のサポーターのパン、パン、と小気味いい音が継続的に響き、気合いが耳朶を打つ。

 それを遥と朱鳥は、見学者用のソファーから眺めていた。
 入口からすぐ横にある、全体を見渡せる位置だ。

 その中で遥は、天寺の動きを追っていた。

「…………」

 その闘い方は、初めて見る格闘技の動きの中にあってなお、変則的なものだった。

 まず、構えから違う。
 道場生のほとんどが拳をアゴの高さまで上げてしっかり構えているのに対し、天寺は両手をだらりと下げていた。

 これには遥も素人考えながら、危険だと感じていた。
 なにしろここの空手のルールでは、顔面へのパンチこそ禁止しているようだったが、蹴りは認めているようだったからだ。

 事実、先ほどから天寺の対戦相手は、そのがら空きの顔面目がけて何発も蹴りを放っていた。
 しかし、それが当たらない。

 他の選手がどっしりと構えて摺(す)り足で移動しているのに対し、天寺は前後にリズムを刻んでいた。

 相手の蹴りが来るとそれに合わせてまるで滑るように板敷きの上を移動し、間合いを外す。
 長い後ろ髪が、そのたび尻尾のように主の後をついていった。



 相手が飛び込んでパンチを打つと、肘を支点に掌を回転させ、右に左に華麗に流す。

 そして絶妙なタイミングで矢のような蹴りや、フラッシュのようなパンチの連射が放たれる。

 それはまるで、相手とダンスを踊っているようだった。
 それほどの優雅さを、天寺の動きは秘めていた。

 思わず口から漏れる。

「……すごい」

「司かね?」

 そこで不意に、朱鳥がいる方とは反対側から、声を掛けられた。
 顔を回すとそこには、腕組みして立つ空手家を絵に描いたような男――橘哲侍がいた。

 改めて見てもその立派な体格に、筋肉に興味がない遥ですら目を奪われてしまう。

「あ、はい、その……」

「きみは、司が空手をやっていることを知らなかったんだってな?」

「あ、は、はい」

 落ち着いた、しかし深みがある声。
 それに遥は、やはり少し気後れしてしまう。

 しかし哲侍は気にした様子もなく、

「そうか。だとしたら、あれの動きに驚くのも無理ないな。なにしろ司はな――チャンピオンなんだよ」

「…………は?」

 突然聞かされた事実に、遥は耳を疑った。
 確かに強いと、上級者だとは思っていたが、いくらなんでもチャンピオンだなんて──

「都大会の、高校生部門でだがね。それでも我が西東京支部が誇る逸材で、私の愛弟子である事は間違いない。まぁせっかくだから、じっくり見ていきなさい」
「あ、はい。ありがとうございます」
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