“桶狭間の織田信長”豊田宜邦 無敵の黒澤浩樹沈めた二段飛膝!新人類カラテと呼ばれた組手の妙、全日本軽量級3位となった本部期待の星!

2024年4月9日

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“格闘マシーン"黒澤浩樹

第16回全日本大会において初出場初優勝、さらには最年少記録という金字塔を打ち立て、翌年の準優勝、同時期に活躍した松井章圭、増田章とともに三強と称えられ、世界大会においては6位、3位、6位と、さらには後半の2大会においては優勝者に惜しくも敗れるという、世界の頂きまであと1歩と迫った、極真を代表するともいえる空手家の1人。

必殺の下段廻し蹴りを武器に骨が飛び出しても止めないという凄まじい戦いぶりを繰り広げ、1本勝ちの山を築き、先に述べたように記録にも、そして観衆の記憶にも深く刻まれている男。

そんな黒澤浩樹が、しかし残念ながら無差別の全日本の舞台で、2連続のそれ以来、決勝まで進出することが叶わなくなった、ある種契機ともいえる戦いが存在する。

第18回全日本空手道選手権大会。

前年の全日本大会で、全日本大会2連覇、及び世界大会優勝を果たす松井章圭と極真史に残るともいえる死闘を繰り広げた決勝の末、準優勝に終わり、今年こそ2度目の優勝期待されていたその大会において、1回戦、凄まじい気合入れて迎えた吉野選手の攻撃に一時バランスを崩すも、そこから右の下段回し蹴り、しかしそれを見せ技にして視線を下に向けておいてのスイッチしての左上段回し蹴り1戦!

正しく秒殺、抜いた刀を見せない凄まじさで2回戦に向かったそこに待ち受けていた男。

豊田宜邦。

誰もが1回戦、そして前2大会と同様に圧倒的強さで黒澤浩樹が相手を蹂躙すると信じていたその戦いにおいて、豊田選手はまるで反復横跳びのような独特のステップを披露。

この豊田選手、この約5ヶ月前に行われた第二回全日本ウェイト生大会においても軽量級で緑健児、三明広幸という名だたる選手に続いての大3位に入賞しており、無差別の第16回大会の出場、第17回大会では3回戦まで進出し、そこで準優勝に輝く増田章に敗れているようだったが、本体会においても社会人1年生、本部の豊田が一風変わった型の新人類カラテを披露、対戦相手を全く寄せ付けず5対0の判定勝ちと紹介されていた。

さらに逆方向に反復横跳び、黒澤浩樹が迫ってくるところに前蹴り、ローキックを飛び上がるような脛受けで外し、回り込んで前蹴り、脛受けというか膝受け、そして飛び上がるような飛び回し蹴りを披露。

追撃の左下段廻し蹴りを弾け飛ぶように威力を殺し、飛び込んでくるところに前蹴り、すね受け、それを徹底している。

対策は完璧といったところだろうか。

追い込んで内股を狙うが、それも自ら飛んで威力を殺し、黒澤浩樹自身もそれに対抗意識を燃やしているのか突きが出ない、出さない。

そして再開後、再び黒澤浩樹が追い立てて前蹴り、脛受けきの流れかと思ったその直後。

豊田選手が開始線から中央にまるで走り幅跳びのように踏み切り、右足を前に出してそちらが来ると思わせておいての二段の左膝蹴り!

何というアクロバティックな技!

それが黒澤浩樹の右の頬を捉え、しかし黒澤浩樹は前に出る勢いするままに豊田選手を投げ飛ばす。

しかしそれに豊田選手も巴投げのようにして、双方転がって再びマット中央へ。

果たして今の蹴りのダメージは――

そんなことをゆっくり思っている暇もなかった。

奇跡の二段膝蹴り

なんと豊田選手は再び、今度は思いっきり駆け出し、今度は前方というより真下から、突き上げるように、いやむしろ突き上げて、その二段の膝蹴りを顔面に、ぶち当てていた。

カコン、という極真の大会ではあまり聞かれないような硬い音がした。

黒澤浩樹は今度は取り打って後方に倒れ込み、その瞳は焦点が合っていない。

豊田選手はどうだというような残心を取り、主審ですら戸惑うような状況の中豊田選手の1本勝ちが宣告され、右手を掲げてそれに応える。

まさしく大番狂わせ。

それは極真史に残る大金星と称えられ、

これまで相撲の往年の大横綱、大鵬をもしのぐ驚異的な勝率を全日本選手権の舞台で残してきた黒沢。

彼が相手の攻撃を受けてマットにヒザをつくなどということは過去、一度としてなかった。

ところが──

鼻を押さえ、必死に立ちあがろうとする黒沢は、立ちあがりざまヨロケ、その瞬間、一本負けとなった。

ほとんどじられないシーンだった。

場内騒然。

大殊勲を演じたのは、本部期待の星・豊田宜邦だった。

彼の実力は本部内では高く評価され、第2回ウェイト制大会軽量級の部で3位になっだ実績もあるが、正直いって全国的にはまだ無名に近い存在といえた。

控え室に戻った豊田は興奮さめやらぬといった面持ちで、なお何度も拳を握りしめ、開口一番、

「やった!感動した!」

隣りで本部の同僚・七戸康博選手が「すごい!すごい!」を連発。

七戸まで興奮気味だった。

と綴られている。

さらに

しばしの興奮がおさまったあと豊田にインタビューすると

「空手をやってきて今までで一番うれしい勝利です。

黒沢選手の戦いぶりは、何度もビデオを見て研究しました。

彼はワザ師なので、研究すれば何か対策が得られると思いました。

飛びヒザ蹴りは、大会前よく稽占しました。

でも、ああうまく決まるとは・・・・ボ口負けだけはすまいという気持ちだったんですが」

と語ったという。

社会人1年生として四苦八苦しつつも出勤前に自主トレ、退社後本部で2時間づつの合計4時間の稽古を欠かさなかった努力の成果と称えられており、

3回戦では後に第20回全日本大会8位、第5回全日本ウェイト制大会中量級優勝を果たす柴田選手と戦い、そのステップワークからの前蹴り、後蹴りなどを見せるものの、柴田選手もまた前蹴りからの突きで追い込みに追い込み、それを捌ききれず、飛び二段蹴りを繰り出そうとするも前蹴りで止められ、後ろ回し切れなどが後頭部を捉えたりもするもその強烈なパンチの連打で後退を余儀なくされ、敗れるも、技能賞を獲得し、最高審判長である大山倍達にこういわしめたという。

豊田に桶狭間の織田信長を見た。

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