第34話「『対可愛い女の子戦に於ける如何に自然に出会いの場を演出するかという分野の戦術』の専門家」
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本編
緊張感が、部屋を支配する。
待つ間の時間は十秒が十分にも一時間にも感じられた。
その間様々なことを考えた。
あの女の子と話すことなんて、果たして可能なのだろうか?
可能だとして、僕にもそれは出来るのだろうか?
もし万が一それが叶ったとして、それは一体どんな様子に
がちゃ、
という硬い音が耳に響いた。
相手が電話に出たのだ。
それに僕は注意深い声で「……もしもし」と声を出す。
それに相手は、
『もしもーし? どした?』
「あ、切間? 今、大丈夫?」
僕は『対可愛い女の子戦に於ける如何に自然に出会いの場を演出するかという分野の戦術』の専門家、切間敦とコンタクトを取ることに成功した。
電話に出た切間に――骨の事だけは未確認の情報の上、引かれる可能性があるので伏せた上で――事の顛末(てんまつ)を話して、どうすべきか聞いてみた。
すると一言、
「じゃ、今日俺お前ん家泊まるから、一晩ゆっくり話そうぜ」
という話になった。
切間とは、大学の二年の後期から始まるゼミからの付き合いだ。
最初切間はその煌びやかな格好とあまりのノリのよさのため、ゼミの中でも浮いていた。
僕のゼミはパソコンを主に使う技術系のゼミなので、基本的にみんな地味な格好をしたおとなしい奴が多いのだ。
僕は僕で、このゼミが生涯で初めての課外活動だった。
部活動にも一切入らず委員会も適当にこなして空手に邁進(まいしん)してきた僕はその独特な空気に馴染めず、右往左往していた。
そんなあまりもの同士がつるむのは、ある種必然ともいえた。
僕も当初、切間に対しては周りが思っているのと同じように、凄い軽いやつだなぁ……と若干引いていた。
だけどしばらく話すうちに、意外と芯がある、しっかりしたヤツだと考えを改めさせられた。
聞く話によると、実は切間の家は代々剣道場をやっており、切間自身も子供の頃から親にみっちりとしごかれ、高校までは絵に書いたような質実剛健な剣道少年だったそうだ。
しかし大学に入って合コン、夜遊びを覚えて、今のようなノリになったらしい。
まさに今の切間はノリで生きる男だった。
僕の家は学校から歩いて僅か二十分くらいの、ごく近い場所にある。
立地的に溜(た)まるのに便利だからと、知り合ってからの切間は何かにつけて僕の家に泊まっては朝まで飲み明かすようになった。
今回も玄関に現れた切間の両手にはビニール袋がぶら下げられており、中には大量の酎ハイ、ビール、そして各種つまみが入っていた。
「お前にもやっと春が来たか……」
部屋に入るなり、切間は僕の肩を叩きながらしみじみ言った。
その芝居がかった仕草がちょっとむかつく。
「春じゃない。気が早い。話してみたいだけだってば」
僕の抗議も何処吹く風で、切間はにやにや笑いながら、
「まぁまぁ……今日はとことん話聞いてやるよ」
そんな風にして、今回の相談兼宅飲みはスタートした。
相談の焦点はなんといっても、『弱気でヘタレで不器用な僕がいかにスマートに声をかけるか?』という一点に絞られた。
様々なアイディアが出た。
「いきなり跪いて、『第一印象から決めてました』と手を差し伸べる」
と切間が言い出した時は僕も、
「こいつ追い出してやろうか?」
と本気で思ったりもしたし、
「バラの花束を持って『想いの数だけ包ませました』と言って渡す」
と言われてその発想のカッコよさに素直に感心してたら言った本人の切間に爆笑されたり、
「友達からつきあってくださいとかどうかな?」
と提案したら
「重い」
の一言で片付けられたりしながら、酒も消費しつつ作戦を練り上げていった。
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