Ⅵ/急襲④

2019年11月22日

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 豪快に肩に担いだ大剣を横薙ぎにされた大男は、這いつくばった体勢から戦斧を構えることはおろか立ち上がることすら叶わず、その首を――遥か彼方に、飛ばされた。

 同時にものすごい血の噴水が、ベトの全身を真っ赤に染め上げる。

「ひっ……!」

 その悪魔のような所業に、辺りから恐怖の声があげられる。
 事実戦場において倒されるといえば得物でなぎ倒されるか、槍や矢で刺し貫かれるかのどちらかだ。
 このように生首が飛ばされるような残酷な絵図は、士気を大いに下げるところだった。

 それはベトの狙い通りだった。

「さぁ、て……次は誰の首を、飛ばそうかねぇ?」

 ギョロ目で、辺りを睥睨する。
 その容貌は、もはや赤い悪魔のそれだった。
 その異常さ、狂気に、敵兵は後ずさる。まるで悪魔でも見たような顔つきだ。いい。
 悪魔でも何でも、人より優れていればいい。

 さて、殺すか。

「いくぞオラァ――――っ!」

『オォ――――――――ッ!!』

 ベトの号令に、一気呵成に仲間たちが雪崩れ込む。
 それに敵兵は態勢を立て直すことができず、総崩れになる。

「ふっ……」

 それをベトは、表情を元に戻して肩の力を抜いて、見送る。
 自分が命を懸ける時は、終わった。
 あとは皆が勢い攻め込むのを見守るだけで済む。

 これがベトに――先陣を切る切り込み隊の一番隊隊長となった自分の、役割だった。
 誰よりも早くベト率いる隊が先行し、一気に中央突破、敵をかき乱す。
 そしてベトが敵の指揮官を発見し、出来る限りむごたらしく惨殺し、敵の士気を一気に下げる。

 首を、刎ね飛ばすことによって。

 ついたあだ名が、首刎ね公だった。
 公だなんて、上等な身分でもないってのに。

「だがこれで、のんびり出来るな……」

 あとは僅か10名足らずの弓兵で構成された二番隊と、本隊であり部隊長であるスバルが指揮する三番隊に任せればいい。
 ここまで我が身省みず殺しに殺したのだ。
 少しばかりは息を整えるぐらいの余裕を持ってもいい身分だろう――



「ベト……」







 我が耳を、疑った。

 ベトはその時、この時この場所ではまず聞いてはならない声を、聞いた。

「……嘘だろ?」

 呟き、振り返る。

 そこに――胸を押さえ、苦しそうにして喘ぎながらもこちらを必死に見つめる銀髪の少女が、立っていた。

 怒りが、先にきた。

「……なんで、来たんだ」

 声が低くなるのが、自分でもわかる。
 理解が出来ない。
 なんで、ここに来た?
 奥に隠れていろと、何度も言いつけたはずだ。

 こんな戦場にお前みたいなお嬢さんが来ても邪魔にこそなれなんの役にも立たないことが、わからないわけでもないだろう?
 意味が、わからない。

 思えば最初から、この娘の行動は理解に苦しむものだった。

「答えろ。なぜだ」

 お前の在り方は、今までの俺の人生を否定するものだ。

 もはや質問ではなく、それは詰問へと変わっていた。
 納得できる答えが聞けなければ、許さない。
 重苦しい声は、暗にそう訴えていた。

 アレはベトの、感情が欠落した冷たい瞳にさらされながら、それでもまともに立つことが出来ない身体を杖で必死に支え、気丈にも視線を逸らすことなく、

「――わたしは、逃げたくない」

 一瞬意味も何も頭から喪失していた。

「……逃げたくない、だと?」
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