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2020年10月9日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

「ほォ……いいのか、マテロフ」

「はい、いいです。すごくいいです。わたしマテロフさん、大好きです」

「そんなにか……」

 そこまで言われると、少しマテロフのいいところに興味がわいてきた。

「ちなみにマテロフの、どんなところが大好きなんだい?」

「言えません」

「は……?」

 前のめりになる。
 ここまできて、いきなりそれか?

 アレは微動だにせず口を真一文字に結び、頑くなだった。
 むぅ……とスバルは頭を抱え、

「参った……正直わしには、嬢ちゃんの考えてることがよくわからんわ」

 初めてアレが、反応した。
 ぴくん、という感じで顔を上げて、こっちを見た。

 それにスバルの方も、お? と眉を上げる。

「なんだい? どうしたんだい、嬢ちゃん?」

「…………いえ」

 黙っている、というよりも感情を持て余しているような反応だった。
 それにスバルは、糸口を見つけたような感覚になる。

 だがうまくしなければ簡単に千切れてしまう、細っそい釣り糸だ。
 しばしその髭を撫でて、

「……嬢ちゃんは、わしのことが嫌いかい?」

 ふるふる、と否定を意味する首振り。
 それにスバルは安堵の意味を密かに吐き、

「なら……なんで、しゃべ――いや。ちょっとタンマ」

 言いかけて、ストップを意味する掌を突き出し、反対の掌で頭を抱える。
 違う、間違いだ、ちょっと待った、今の無し、今正解をなんとか捻りだすから――

「――ぷっ」

 意外な、音。
 それにスバルは、指の間からアレを盗み見た。

 アレは口元を抑えて、笑っていた。
 歳、相応に。

「……嬢ちゃん」

「あ、いえ……」

 視線に気づき、アレは元の体勢あんど無表情に戻る。

 その姿に、誰かの姿がダブる。
 とたん一気に、目の前にかかっていた雲が晴れるような心地がした。

「…………嬢ちゃん」

 優しく、声をかける。
 だが当然、反応は薄い。

 予想済みだ。
 さらにスバルはゆっくりと、

「……外の世界は、怖かったかい?」

 まだ無反応。
 スバルは悩む。

 どう言えばいいか……というより、どう言ったかを思い出そうとする。
 そう、確か――

「わしも敵に、見えるかい?」

 ハッと気づいたように、こちらを見るアレ。
 それに目を閉じ、息を吸い、出来るだけゆっくりと、

「……少しでいいから、嬢ちゃんのことを、話してくれないかい?」

 アレは自分を、まるで初めて見る人間のような目で見つめていた。

 スバルは聞いた。

 祖母が殺されてから、ベトに出会い、ここまでやってきて、ベトに言われ、マテロフと街に行った時までの経緯(いきさつ)を。相変わらず要領を得ない、感情入り過ぎの把握しづらい話し方ではあったが、そこには必死で、こちらの胸に訴えかけてくるものがあった。

 そのあとしばらく、アレは息を整えるのに集中していた。
 それをスバルは、見守るように待っていた。

 時間はまるで、夜に吸い込まれるように過ぎていった。

「ハァ、ハァ……あの、」

「なんだい?」

「スバルさんは……なんでわたしに、優しくしてくれるんですか?」

 その一言に、すべてが集約されていた。

 敵が、アレにとっては当たり前だったのだ。
 だからそれへの対応なら手慣れていたが、しかし理由なく優しくされる方がより警戒を強くされる一因になっていたのだ。

 マテロフが手早く仲良くなれた理由が、今ならわかる。
 マテロフはそれこそ敵意の塊で、だからアレはそれこそすんなり心の扉を開かせ、そうして二人は仲良くなれたのだ。
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