“デンマークの彗星”ニコラスぺタス 内弟子で全日本を席巻、欧州大会初出場優勝、世界大会でベルギー、アフリカチャンピオンを撃破し軽重量世界王者高久昌義も粉砕し南米王者フランシスコフィリオと激突！
大山倍達最後の内弟子
ニコラス・ぺタス。
日本では極真空手、そしてK-1ファイターとしておなじみで、VTRでは大山増達最後の内弟子と紹介され、その熱い魂の戦いで見るものの印象に強く残っているファイターといえるだろう。
そんな彼はデンマーク出身にして、1991年からそのキャッチフレーズ通りの、東京池袋の極真会館本部道場若獅子寮に入寮し、内弟子生活をスタート。
そこを卒業した1ヵ月後に大山倍達が逝去されたという形から、最後のという形容詞が付けられることになったという。
そんな彼は1993年10月29日から30日にかけて行われた、第25回全日本空手道選手権大会に出場。
1回戦で、その前年および21回の優勝者である田村悦宏と相対し、ずんずんずんずん詰めてその重たいパンチ、時折ローキックで攻めてくる田村悦宏に対して、的確に体重を預けて距離をとってのローキックで反撃。
さらに間合いが開いたら左右の中段廻し蹴りの速射砲。
特にその左ローキックが強烈で、やや田村悦宏が足を引きずっているような雰囲気もあり、後ろ蹴りも鮮やか見事。
前蹴りもタイミングよく放ち、ハイキックも強烈で、上段膝蹴りも顔面をかすめる。
かかと落としのヒヤリとさせる切れ味を有しており、本戦を引き分けとし、延長でも的確に蹴りをヒットさせるが、さすがに田村悦宏は110キロを誇るそのパンチ力は迫力抜群。
戦いは再延長までもつれ、右の廻し蹴りを連発してその巨体を揺るがすが、もつれた際につかみが2回注意を取られ減点となり、最後は後ろ回し蹴りまで二度も魅せるものの、おそらくはそのポイント差が響き破れてしまうが、見ているもので強烈なインパクトを残した事は間違いないだろう。
その後ニコラスペタスはほぼ半年後の1994年6月17から月19日に行われた、第11回全日本ウェイト制空手道選手権大会に出場。
当時出場していたロシアのコチキンユーリ、空手革命児塚本徳臣とともにハイライトに取り上げられ、右内股蹴りから左中段廻し蹴りの鮮やかなコンビネーションを披露、相手を完全に悶絶してさせている様子を見せつけ、左右のパンチから左ローキック、さらに強烈な右ローキックからの再びの左中段廻し蹴りでの1本！
正しく格の違い、それを証明しているかのようだった。
そんなニコラスぺタスは1回戦、吉岡選手との戦いでは強烈な左下段、右内股のコンビネーションで右足を徹底的に狙い抜き、そこから後ろ蹴りを見せ、右上段膝からのかかと落とし気味の後ろ回し蹴りでマットに叩きつける！
最後は膝で押して押して押しまくり勝利を掴み、準々決勝では増井選手を開いてに中間距離からの強烈な左中段廻し、ここからの今度は右下段、左内股の左足へのコンビネーション。
そこから左中段廻し蹴りを連発、レバーを効かせ、さらに右中段に繋げ、場外に押し出し圧倒。
準決勝では後に全日本大会3度の優勝、世界大会優勝を果たすことになる野武士、鈴木国博と対戦。
接近して胸へのパンチを狙ってくる鈴木国博に対して内股のカウンター、さらに上段回し蹴り、かかと落としで振り払い、前蹴り、左中段廻し蹴りと見事なコンビネーション。
うまく距離をとって戦うニコラスぺタスと、構わず距離を詰めて胸へのパンチから右下段につなげる鈴木国博。
そんな中放たれたニコラスの右中断廻し蹴りで、あの鈴木国博の体がくの字に曲がる！
どんな破壊力持ってんだ、棍棒かなにかかよ！？
それに鈴木国博も気合を入れて応える。
おそらくは相当な衝撃を伴ったのだろう。
その後は接近戦となり、ニコラスぺタスが左、鈴木国広が右の下段廻し蹴りを狙う。
しかしパンチの破壊力ではやや鈴木国博に分があるようだった。
戦いは再延長までもつれ、回りながら右下段右下段、膝膝膝蹴り後ろ回し蹴りとくり出し、それに鈴木国博は体を預けての下段、パンチで応える。
いやほんと5分だなぁと思っていたらやっぱりそうで、最終的に試し割り判定一枚の差で、本当に惜しくもここで敗れることになるが、反対ブロックの塚本徳臣が準決勝で新保智に一本負けで敗れるほど足にダメージを被っていたことも相まってか、3位に入賞を果たしている。
岡本徹との死闘
ついでニコラスぺタスは同年10月30、31日に行われた、第6回全世界空手道選手権大会の選抜戦となる、第26回全日本空手道選手権大会に出場。
3回戦を蹴りの名手佐伯健徳を相手に左下段左下段左下段で足を潰し、かかと落としを顔面に当てての右左下段、それで持ち味を発揮させずに完封しての勝利。
そして4回戦、ここを勝利すれば入賞、そして世界大会への切符を手に入れることができる、大一番。
相対するは昨年、そして一昨年、連続での全日本大会ベスト4入賞を果たしており、さらに後に4年連続全日本大会ベスト4入賞の快挙、第30回全日本大会優勝、第7回の世界大会優勝を果たす、足掛け下段付をはじめとした武道空手の体験者ともいえる、岡本徹。
左のかかと落としをさばき、内、外下段という得意のコンビネーション。
低く構える岡本徹を飛び後ろ蹴りでまさかの吹き飛ばす！
安定感抜群でバランス感抜群でむしろ相手の軸を崩すことに定評のある岡本徹のこんな姿ほとんど見たことないぞ！？
左中段廻し蹴りで体をずらす。
あまりにも鮮烈にして強烈なコンビネーション。
しかしそれに岡本徹も左下段を返す。
ここまでは一発でニコラス、手数で岡本徹という所か。
戦いは延長戦に続き、戦いの焦点は下段に移ったかと思いきや、かかと落とし気味の外回しを岡本徹の顔面へ。
こんないい上段もらいまくる岡本徹とかほんと珍しいんだが！
下段をこらえて膝蹴りで返し、前蹴りで突き話し、岡本徹は左、ニコラスぺタスは右の下段に活路を見出し、凄絶ともいえる戦いは体重判定でも決着つがず、試し割り判定まさかの21枚で同数、最終延長戦へ。
拍手を打ち気合を入れて、開始早々いきなりの上段前蹴りで岡本徹の顔面がのけぞる。
道着はもはや真っ赤、しかしそれでも岡本徹はダメージを見せようとしない。
気迫と、意地の激突。
岡本徹はほぼ左下段一本槍、それにニコラスぺタスは左下段、飛び膝蹴り、内股の波状攻撃。
前蹴り前蹴りと押し込み、攻勢をとろうとするが岡本徹のあまりの出血のために試合は一時中断。
再開後は岡本徹がラッシュを敢行、ニコラスぺタスも全く同じ勢いで応え、手数、破壊力ともに5分のように思われた。
そう、五分。
だとするならば、引き分けがつけられない最終延長だとするならば、その差を認めるとするならば-
もはやどちらが押し込んでいるか、いや押し込んでいなくてもをしているか、それぐらいしかないのではないだろうか――ニコラスぺタスがたとえそれで距離をとり破壊力を増すための戦法だとしても。
それを物語るかのように、判定は副審赤二本白二本ときれいに分かれ、実際自分が判定をしたとしたら頭が痛くなるように思われ、そして主審が白を取り、ニコラスぺタスは本当に全く差がないようなところで差をつけられ、敗れることになった。
かつてないほどの技の応酬、凄絶なる闘い、その見た目だけをいうのならばダメージの多寡は岡本徹にあるといえ、壇上を去って控え室に向かう彼は一言、あー、チキショーと小さくつぶやいていた。
棍棒のような廻し蹴り、鮮やかなコンビネーション、スピード・パワーに加えて尽きることのないスタミナ、根性。
それらを持ち合わせていながら、組み合わせ、運、それにより決定的な実績を作ることが叶わなかった。
しかしそれがふとしたきっかけから一気に花開き、そしてスター選手への道をかけ上っていくことになるとは、まさしく巡り合わせとしかいいようがないだろ。
ニコラスぺタスは続いて翌年1995年4月1日に開催される予定であったデンマーク大会に出るために、本部で知り合ったルーマニア人とともに3月にルーマニアを訪れた。
そこで様々な人間と稽古をしようとキャンプを計画していたが、デンマーク大会は中止となり、しかし自分を試したい一心で偶然当地で開催されることとなっていたヨーロッパ選手権の出場を決意。
それから3カ月、彼は初めて自分の計画通りの、短い時間に徹底して集中するという稽古を実行したという。
そのニコラスぺタスの根本を支えていたのは、内弟子時代に効いた大山総裁の、やればできるヨという言葉だったという。
稽古の時にいわれた、君はチャンピオンになるんだろ、やればできるよ。
総裁内弟子として、今が恩返しをチャンスだと思い、会場でイタリアの脇内支部長と握手したときにいわれた言葉。
君の後ろには総裁が見える。
ヨーロッパ選手権初出場初優勝
初出場となるというヨーロッパ大会においても気負うような様子はなくそれまでと同じような猛烈な廻し蹴りを中心に攻め込み、飛び後ろ蹴り、かかと落としも披露。
そこからなさで叩き割るような下段廻し蹴り一発で仕留める！
凄みがある、そして下段廻し蹴りの1本は私が知る限り初めてではないだろうか。
さらに続く戦いでは豪快なかかと落としから攻め込み、それは外してちょっと転んでしまっているようだが笑
内股を合わせ、再び内回しかかと落とし、軽やかなステップ、強烈な左右のパンチからの中段廻し蹴りという得意のコンビネーションを見せていた。
結果的に初戦の1回戦以外は技あり、合わせ1本合わせ1本と、当時の誌面によるとダントツ、群を抜いた強さを見せており、当時有力視されていたブラジルのフランシスコ・フィリオ、カナダのジャン・リビエールについで、第3の男として注目されることになったという。
そんな彼は極真空手をやっていて良かった事はというインタビューに対して、
チャンピオンになれたこと。
チャンピオンになると自信がついてくる。
これは総裁が作って、操作がいた極真だから意味がある。
何でもやればできるという自信がついたという事は素晴らしいですよ。
本部は僕にとっての第ニの我が家です。
この素晴らしい本部をアピールするためにも、もっと強くならなくてはいけないと思っています。
そしてそんな思いを胸に、ニコラスぺタスはヨーロッパ王者と
して、世界大会出陣を果たす。
第6回世界大会
合わせ技の練習を入念にこなして迎えた2回戦、早速相対するは前回の世界大会にて4回戦で日本の川本英児を衝撃の膝蹴り一本で下し、五回戦で黒澤浩樹と死闘を繰り広げベスト16人入っている、ベルギーチャンピオンのラウルストリッカー。
どのように戦うのか注目のところ、ニコラスぺタスはいきなり大胆な前蹴りで踏み込み、そこからものすごい左下段廻し蹴り一発で効かせる！
合わせのパンチも強烈で、右ローキック、後ろ蹴りも加えてこの強敵を難なく退けてしまう。
3回戦はウクライナのラブコアレクサンダーと戦い、やはり左ローキックが炸裂！
中段廻し蹴り中心から路戦変更したようで、壱発よりも確実にダメージを積み重ねる戦法で相手に付け入る隙を与えずに技あり二つで合わせ一本！
さらに続いて当たったのは南アフリカの星ともいえる名選手、前回大会でイギリスの黒豹マイケル・トンプソンに勝利している阿部清文を破って勝ち上がってきた、ベン・シドワバ。
そんな相手をニコラスぺタスはいきなり後ろ蹴りでどてっ腹を打ち抜き、インロー一発で効かせ、さらに飛び膝蹴りであっという間にアドバンテージを奪ってしまう。
相手の攻撃も円の動きでさばき、奥足ロー奥足ロー奥足ローと、緩急の付け方が凄まじい。
ここまで、繰り返しになってしまうが全く付け入る隙がないといえるだろう。
そして5回戦で対戦するのか、第13回全日本ウェイト制重量級優勝、第28回全日本大会3位、そして何よりも1997年に開催される全世界ウェイト制大会軽重量級優勝、つまりは体重別とはいえ世界王者に輝くことになる、恐るべき戦闘IDを持ち、的確に分析、その状況に合った技を打ち込むスナイパーのような空手家、高久昌義。
さすがに警戒してニコラスぺタスもいきなりは入っていかず、相手の攻撃を受けながら少し下がってのローキック。
それに高久昌義も返し、お互いがお互い相手の攻撃を的確にさばき、合わせ、クリーンヒットを貰わない。
恐るべきハイレベルなやりとり中間距離では中段廻し蹴り、前蹴り、入ったら突き、下段廻し蹴り、教科書に載せたいような的確な技の応酬。
ニコラスぺタスのパンチが高久昌義の顔面を捉え、それに高久昌義の拳が2度ほどニコラスぺタスの顔面をとらえるがその辺はフェアプレイで親指を立て、鼻をかき、気にしないというような騎士道精神のようなものも見せる。
そんな中、ニコラスぺタスの右の下段が高久昌義の足を捉え、返しで放った高久昌義の左下段が、脛弱いところに当たったのか足首で蹴ってしまったのか腰が引け、ひっくり返ってしまいそのまま技あり！
その後ラッシュを仕掛け、足が効いてしまっている高久昌義はそれを捌ききれるはずもなく、堂々のベスト8進出。
そしてそこでついに、フランシスコフィリオとの、南米とヨーロッパのチャンピオン対決が実現する。
事実上の決勝戦とさえ謳われたこの戦いは、躍動するニコラスぺタスに対して、フランシスコフィリオはまさしく不動泰山という面持ちで、まさしく対照的な始まりといえた。
ニコラスぺタスの右ハイキック、そして得意の左ミドル。
そして右インローで飛び込んだところに、フィリオの全く動じない正拳突き三連打。
それで崩されてしまう、恐るべき破壊力。
警戒心を高めたニコラスぺタスは飛び跳ね、そこにフィリオが右ローキックを加えていき、同じ技が交錯したところに、フィリオがスイッチしての左ブラジリアンキック一閃！
前回の世界大会でアンディフグ葬ったその蹴りで、ニコラスぺタスは眼球から鼻っ柱あたりを貫かれ、早々に技ありを奪われてしまう。
顔を真っ赤にされながらも、ニコラスぺタスは後ろ廻し蹴り、かかと落とし、左中段廻し蹴りという得意の1本勝ちを奪えるコンビネーションで襲いかかる。
しかしフランシスコフィリオは蹴りからパンチのフォローが凄まじく、何度も場外に出されてしまう。
最後の戦いは残念ながら力負けという間が否めなかったが、しかしそれまでの戦いは文句1つつけようがないものであり、ヨーロッパ王者としての誇りを胸に数々のチャンピオンたちを破って世界で最も強い8人の一人に入ったニコラスペタスのその名前は、存在感が、まるで彗星の如き輝きで文字通り世界を照らし上げた事は間違いないだろう。
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