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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 神薙家の遙の部屋では、兄妹(きょうだい)会議が行われていた。

「……なんなのよ、あの男」

「わかんないよ、俺にそんなこと聞かれても……」

 遥は自分の勉強机に向かって、宿題しながら答える。

 それに妹は、

「だって、わたし……見えなかったのよっ!」

 遥のベッドで仰向けに漫画を読みながら、地団太を踏んだ。

 妹は、名前を神薙朱鳥(かんなぎ あすか)といった。
 兄妹ともに女とも男とも取れる名前で、よく混同されることが多かった。それに性格的にも、朱鳥の方が姉だと誤解される場合が多い。それもまた、朱鳥には面白くない事実だった。

 朱鳥はベッドの上で上半身を起して、脇からお気に入りのゴリラのぬいぐるみを取り出して、胸に抱く。

「真後ろにいたのよっ。あの時、あの馬鹿ゴリラが遥のこと殴ろうとしてる時……わたしももうホンっっっトあったまきたから、引っぱたいてやろう駆けつけた時、あの襟足長い男が現れて、わちゃわちゃ言ってたら――なんかあのゴリラ、いきなりひっくりかえっちゃったのよねぇ……」

 ぼふっ、と仰向けにベッドに倒れた。

 それに遥はペンを回し、

「そんなこといったって、こっちはこっちで背中側にいた油ゴリラに起こったことなんてわかるわけもないし……」

「遥って、なにげに口悪いよね」

「え? そ、そうかな……」

「そのくせ、家族にはなんか丁寧だよね」

「えっ? そ、そうか、なぁ……?」

 朱鳥は仰向けのままゴリラのぬいぐるみを掲げて、遥を横目で盗み見る。
 遥は少し困った顔で勉強を続けていた。まったく、くそ真面目な性格だと思う。

「……ま、いいや。そういや遥は、もうダンスは――」

「しないよ」

 即座に否定された。それに少し、気持ちが落ち込む。
 残念だ、というのが正直なところだった。

「――よし」

 そんな遥の様子を見て、朱鳥は明日の予定を決めていた。

 天寺は、喧騒漂う廊下を歩いていた。

 昼休み時間。そこには男女さまざまな生徒たちが入り乱れている。
 その間を縫うように歩く天寺のあとを――それらの影に紛れるように、朱鳥は尾けていた。

「…………ふぅ」

 柱の陰に移動し、一息つく。

 両者の距離は、教室ひとつ分――約十メートルほど。

 注意深く天寺の様子を観察し、正面を向くタイミングを見計らって飛び出し、次の柱の陰に身を隠して、を繰り返していた。

「なんで僕まで、こんなこと……」

 隣でつづられる不満に、朱鳥は肩をすくめる。
「何言ってんの?    大体、遥が悪いのよ。あんたがあの大島ってやつにいいようにやられるし、助けてもらったのに天寺が何したのかわからないっていうから、こうしてわたしがその原因を突き止めることになったんだから」

「頼んでない……」

「何か言った?」

「何でもない……」

「よし」

 いつものように理不尽気味に満足した朱鳥を尻目に、遥は密かに柱の影から頭を出し、天寺の様子を窺う。

 天寺は、振り返らない。

「――――」

 ただ真っ直ぐ、脇目も振らず歩みを進めていく。

「――たいくつ」

 変化が起こらないこの尾行も既に二十分が経過、朱鳥は既に辟易しているようだった。
 自分から計画しておいて、彼女らしいといえばそうだと遥は思う。
 一瞬苦笑して、遥はひとり昨日のあの時に想いを馳せる。

 あの時。

 遥が天寺の方を振り向き、俯いたその時に起こった、"なにか"。
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