Ⅵ/ありふれた傭兵③
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本編
どさっ、と物のようにベッドの上に投げる。
それでもなお、アレは起きない。
ひとつ息を吐き、鼻をつまんでみる。
なお起きない。
離れて、少し上から見下ろす。
改めて思う。
可愛い。
半端じゃなく。
その銀糸のような髪に、柔らかいラインの瞳に、ぷにぷにした頬に、真っ白い肌に、折れそうな腰に、小鹿のような太腿は、半端な上玉じゃない。
今すぐ手をつけたくなる、掛け値なしに。
ただ、あの獣のような激しさ。
かと思えば、赤子のような脆さ。
そして、信じがたい人生の在り方。
「…………」
なかなか、今までの女のように簡単に手を出す気になれなかった。
そんな少女を、今までのように単なる欲望の吐き出し口にする気が起きなかった。
どう扱ったらいいのか?
ベトは、孤児として戦場で産声をあげたらしい。
らしいというのは、それは現部隊長スバルにあとから子供の頃に聞いた話だからだ。
そしてベトを拾ったのも、スバルではないらしい。
もっといえば、ベトは拾われたわけでもないらしいのだ。
その頃この傭兵隊の部隊長をやっていた男が、愛人を作っていた。
その愛人が子供を産めない身体らしく、その愛人のためにたまたま敵から奪い返した村の廃屋の奥の物陰でひっそりとビービー泣いていたベトを、これ幸いと"持って帰って"愛人への手土産とした、というのが真相らしい。
心底酷い話だ。
しかしベト自身は周りにそう言われても、あまり実感が湧かなかった。
なぜなら赤子だった自分には力もなく、そして庇護してくれる親もいなかった。
だからそんな人間がどう扱われても、文句など言えないからだ。
それがベトが行動基準としている、唯一のものだった。
そして話の続き。
持って帰ったはいいが愛人は既に行方をくらましており、その時の部隊長は子供など育てる気なく、談話室に放置。
それを見かねたスバルがちょいちょい乳などやって、今に至る。
結果ベトは生まれた時から、傭兵として生きてきた。
それに関しても、何の疑問も不満もない。
なぜなら親がおらず他の職に関する技術もないから、唯一持ちうる傭兵仲間に殺し方を学び、そしてそれを振るってきた。
それは当たり前の在り方だと思っていた。
その力で得た金で、女も買ってきた。
三大欲求に衣食住足りている。
そしてベトには、他人に心を許す、という概念そのものがありえなかった。
他人は殺すか、ヤルか、金を貰うか、共闘するためだけのもの。
それ以外生まれてからこの方、選択肢がなかった。
というか、知らなかった。
だから、困っていた。
「……んー?」
腕を組む。
首をひねる。
考える。
だけど、わからない。
襲いたくないわけでもない。
だけどそうした時点で、この女は自分の中でモノへと変わってしまう。
すると今までの様々な一面が、意味をなさなくなってしまう。
「……むー?」
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