第72話「立ち合い」
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本編
月曜の学校はサボった。
昨日の緊張と驚きの連続で心身ともに疲れてきったのか、朝起きると既に時計の短針は一を回っていた。唖然とした。
走り込みと柔軟と骨を鍛えるために普段は六時半には起きているのに、それを六時間以上寝過ごしてしまったのだ。
こんなの初めてに近いことだった。
練習はさぼりたくない。
それに昼休みを過ぎてしまってるから、彼女には会えない。
一気に登校する気をなくし、すぐさま布団を跳ね除け、普段の朝練のメニューを消化することにした。
昼ご飯を食べてすぐにジャージに着替え、走り込みから始めた。
練習メニューを終えて、シャワーを浴びて部屋でくつろぎ、あとは適当にレポートや課題などをやって過ごした。
六時を過ぎたので道着に着替えて道場の夜練に向かった。
八時半を過ぎて一般稽古が終わり、初級から中級の道場生たちが帰っていく。
残るは黒帯のみ。
いつものように十分前後の中休みが取られ、とうさんが道場奥の一段高くなっている壇上にあぐらをかき、その手前に道場生たちが列を作る。
横三列に縦三列。
一般道場生が帰ったので道場が一気に広く感じられる。
皆正座をし、拳を帯の横につけている。
とうさんはあぐらの上に頬杖をついている。
すっかり禿げ上がってしまった頭をもう一方の手でぽりぽりとかき、今日の訓話が始まった。
「立ち合いは、実戦は、数をこなしておくことが何より必要じゃ」
皆、真っ直ぐにとうさんを見つめて真剣に聞いている。
黒帯ともなるとその瞳にはどこか一線を画したようなところがあり、その体つきも気配も武道家のそれをまとっていた。
「要は、慣れ。甘い、ぬるい環境で練習してきたことが如何に役に立たないか、理解しておく必要がある。そしてどの技こそがそういう状況でも咄嗟に出るのか、体に染み込んでいるのか、把握しておく必要がある」
こうして話している間もとうさんの体からはぴん、と張り詰めた緊張感が途絶えない。
あぐらをかき、頬杖をついてまるで無防備なのに、隙が無い。
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