第37話「女の子に声をかけるぜ!②」
最初から読みたい方はこちらへ! → 初めから読む
___________________
本編
――よし!
ずんずんと大股で一気に近づいて一息で、
「ねぇねぇあのさジュース飲まない!」
――身構える一瞬、
彼女からの反応は、なかった。
――どころか、僕に"視線すら"向けられることはなかった。
……これは、単に話し掛けてる相手が自分のことだと思ってないだけなんじゃ?
そう考えて、僕はもう一度ゆっくり深呼吸して心を落ち着かせてから、彼女の左肩を叩いて気づかせようと右手を近づけ、
物凄い勢いで彼女は振り返った。
一瞬、時が止まった。
今まで人形のように微動だにしなかった彼女が、まるでバネ仕掛けの人形のように振り返ったのだ。
いや、それもある意味同じ人形かなどとまとまらない思考で、更に混乱する。
彼女は感情の宿らない瞳で、じっとこちらを見つめていた。
それに、はっと我に返り、右手を突き出した姿勢のまま僕は用意しておいた言葉を発した。
「ね、ねぇねぇ」
初めて正面から顔を見る。
黒目がちのあどけなさを感じるその瞳はどこか虚ろで、微かに見開かれていた。
驚いている。
こちらの言葉を待っている。
……落ち着け。
自分に言い聞かせる。
もう一度心の中で三つ数えてから、
「――あのさ! ジュース飲まない?」
言いながら、あらかじめさらに奥に入った自販機で買っておいたオレンジジュースを差し出す。
女の子に炭酸は選り好みがあるし、お茶じゃジュースとはいえない、と熟考した末での選択だ。
アップルジュースとどっちがいいかな、とは思ったが、そこまで考え出したらキリがない。
彼女は――呆けたような顔をしていた。
――と思っていたら、僅かに――だが確かに、斜め前方に頭を傾けた。
見ようによっては頷いているともとれるような気がする。
…………YES?
「ど、どーぞ!」
そう判断して僕は、無理矢理テンションを上げてジュースを手渡す。
指先が触れた。
少し、冷たかった。
――えーと……次、は……。
彼女は貰ったジュースをしげしげと興味深げに見つめている。
おかしいな、切間。
普通はここで断るんじゃなかったっけ?
気づけば僕の膝は笑っていた。
沈黙は緊張感を増す。
だめだ。
突っ走れ。
体が急激にだるくなる。
このままだとここにいられなくなる。
逃げ出したくなる。
『じゃあ、これで』とか言って逃げ出したくなる。
その前に突っ走れ。
突っ走れ。
突っ走れ――
「あ、あのさ! 横、すわって、いい? かな……」
___________________
続きはこちらへ! → 次話へ進む