【極真の精華】山崎照朝vs盧山初雄 天地と前羽の構え 壇上を彩った”花”と”月”の名勝負!
“日大の花"山崎照朝
極真史に燦然と輝く天才空手家。
あの、"スモールタイガー"と呼ばれ、身長差30センチ以上、体重差50キロにも及ぶと言うヤン・カレンバッハに参ったさせたと言う、伝説的な空手家である藤平昭雄ですら成し遂げることができなかった、本場タイのムエタイランカーとの戦いを制することができなかったと言うのに、しかし山崎照朝はその極真空手のキックボクシング挑戦の先駆者として、空手スタイルのままで1ラウンド2ラウンドの秒殺KOを連発、しかもムエタイのトップファイターですら不可能と言えるハイキックでのノックアウトと言う、人知を超えた神業を見せつけた。
極真空手においても第1回大会は圧倒的な強さで優勝し、引退し勤め人となった後まともに練習ができない中大山倍達の命令により出場した大会でも一線を画する異彩を放ち、小さなミスでポイントを奪われ優勝には至らなかったものの、勝利した相手に奇跡のような偶然で手にした勝利であり、決して実力ではないと言わしめた。
その廻し蹴りの威力はすさましいと言われ、一度狙ったら外す事はなく、蹴り足が相手の首にからみつき、その体は一瞬注に浮き、空中で水平になってから床に叩きつけられたとさえ言われている。
そんな彼が迎えた最後の戦いである、第5回全日本空手道選手権大会。
2回戦でムエタイのチャラカンボと当たり、本場ムエタイの元バンタム級チャンピオン、国際式ボクシングでも世界チャンピオンと互角の戦いをしたと言われる顔面ありの戦いの雄を相手取り、膝蹴り2連発からの左上段廻し蹴り2連発での1本勝ち。
準々決勝では3回戦を山崎照朝と同じく左上段廻し蹴り本勝ちしたと言う芦原英幸門下の松友を、その変幻自在の構え、あまりにも硬い骨による肘、膝打ちにより、全く寄せ付けずに勝利。
さらには準決勝では第8回全日本大会王者の佐藤俊和には、ローキックからの対角線上の攻撃でハイキックを当てて、圧力をかけて押し込み、最後は佐藤俊和が放ってきたローキックを脛受けしてその脛自体を破壊しての一本勝ち。
全く相手になっていない。
ここまで試合にならないほどの強さを見せつけた選手は、全日本クラス以上の大会でいただろうか?
そしてその決勝で相まみえたのが、盧山初雄。
“三日月蹴り"盧山初雄
大山道場時代に入門し、指導員として活躍していた頃に先に述べたヤンカレンバッハに大変な敗北を喫し、道に迷っていたところ大氣至誠拳法の澤井健一と出会い、そこから中村日出夫との邂逅を経て、再び極真空手に邁進し、そういった紆余曲折を経て第5回全日本大会に出場。
大氣至誠拳法の、元をたどれば大成拳の立禅、這、それらの練習で鍛え込んだと言うしっかりと腰の落ちた構えで立ち、そこからの強烈な三日月蹴り!
彼の代名詞とも言える、道場では何人ものあばらをへし折ったと言うその蹴りを、2回戦を左上段廻し蹴り1本勝ちしたと言う金鐘元の脇腹に打ち込み、慌てず騒がずじっくり構え、前蹴りを受け止め、お返しの正拳突きをぶちこみ、そしてものすごい下段廻し蹴りが空振り。
そして一旦分けられ再開しての三日月蹴り、正拳突きで場外に叩き出して勝利。
準々決勝では第10回全日本大会で後に一時代を築く中村誠、三瓶啓二の2人を立て続けに破っての優勝を果たす二宮城光を、その廻し蹴りを的確にさばき、カウンターの三日月蹴り、下突き、それを脇腹に正確に同じところに叩き込み、腹を効かせて圧倒。
準決勝ではこの第5回後の第6回大会、その後に開催される第一回世界大会で優勝に輝く佐藤勝昭と対戦し、高い構えの佐藤勝昭に対して低く構え、飛び二段蹴りを顎に受けあわやと言う場面を作られ、多彩な蹴りを畳み掛けられるが、やはり三日月蹴り、それに勝機を見出し、延長にて3対0で接戦を制することになる。
そんな二人の、まさに頂上決戦とも言える決勝。
第5回全日本空手道選手権大会決勝
構えはお互い現在では見られないような独特なもの、山崎照朝が円心気味の竜変の構え、盧山初雄がやや変則の前羽の構え。
そこから山崎照朝が竜変の構え独特の両の腕を回転させる仕草を見せてタメを作り、右の下段廻し蹴りからの左上段廻し蹴り。
対角線上の攻撃。
さらに左上段廻し蹴りのダブル。
それをしっかりと受け止め、盧山初雄が前羽の構えとなり、そこに山崎照朝が左中段前蹴りの脇腹に叩き込む。
激しい音が会場に響き渡る。
そこから山崎照朝は円心の構えに移行する。
盧山初雄は一切手足を動かさず、前羽の構えで待ち構え、下段廻し蹴りを受け流し、左上段回し蹴りを体をずらして威力を殺し、そして止まったそこを見逃さずに右の三日月蹴り!
そこから袖をつかんでぶん投げる!
再開後の一瞬を狙っての、軸足への下段廻し蹴り。
山崎照朝、天地の構え。
そこから腕を回転させ、しかしその後の一瞬をつかれて右の三日月蹴り。
まるで突き刺すように脇腹に放たれる。
しかしそれでも山崎照朝は天地の構え。
盧山初雄前羽の構え、動かない、お互い、その動き出しの隙を狙っている。
そして今度は逆に盧山初雄が一瞬体を浮かし、手を上下させての三日月蹴り!
そこを山崎照朝が詰めようとしたところに、下突きのカウンター!
うまい、そして山崎照朝のパターンが完全に見抜かれている。
あくまで融通無碍、その時に応じて動き、自らの空手を追求するものが、対戦相手を研究し、勝ちに徹するか、もしかしたらその違いと言えるかもしれない。
右の下突き、三日月蹴り、そして下段廻し蹴りもあくまで軸足に狙いを定めているのも、中途半端な廻し蹴りなどければ、その鉄壁の受けによりこちらの脛が痛め付けられる、それを見越して、あくまでその天池の構えの穴をついた、見事なまでの戦術と言えるだろう。
山崎照朝の右の下段廻し蹴りに、またも盧山初雄右の下突きのカウンター。
その前の左の掌底が顔面をかすめているあたりが、反則ギリギリともいえる。
さらにダブル、山崎照朝左の前蹴り、そこに盧山初雄の下突き、徹底している。
盧山初雄は、相手に反応する。
徹底的にそこに照準を合わせている。
お返しの山崎照と右の下突き、お互いの下突きが交錯し、掌底が顔面をかすめ、つかみ合いとなる。
山崎照朝得意のスイッチしてからの左上段廻し蹴りも対策が練られ、左の掌底で止められる。
誘導間合い。
頭を下げての下段廻し蹴りを山崎輝朝が躱し、攻撃を加えようとしたところを捉えられる。
膝蹴り、上段回し蹴りも捌かれ、弓張の構えも見せるが動じず、しかし盧山初雄の下突きを脛受けで受けると言う妙技を見せ、前手争い。
しかし山崎照朝の下段廻し蹴りに合わせての右の下突き、再開後の一瞬を狙っての追い討ち。
山崎照朝は3発目を食ってもなお天地の構えを崩さず、左上段回し蹴りを突っ込まれて潰され、初めて盧山初雄が左の上段回し蹴りを見せたところで、試合終了。
判定4対1で、盧山初雄の勝利。
試合が終わり、お互いを讃え合う両者。
後日談として結果的に敗れた山崎輝朝だが彼はその時期仕事が大変に忙しく、マス大山空手スクール実技道場の師範代として週に3回指導にあたる他は、ほとんど自分の稽古ができず、直前まで出ようか出まいか迷っていたと言い、しかし周囲の情勢もあり出場に踏み切り、そういった不本意な状態にもかかわらず目覚ましい活躍を見せ、決勝で敗れても、
「まぁあんなものでしょう」
と言葉少なに語り、次の日館長室の前で大山茂に会った際、ニヤリと笑い、気合負けでした、ダメージはありませんと付け加えたと言う。
その戦いの見事さは主審を務めた大山茂をして、空手冥利に尽きると言わしめ、大山倍達を始めとした極真関係者、各種マスコミは、
完成された神事の激突が大観衆に勝敗の行方を忘れさせ、深い感動の世界に酔わせた。
これぞ極真空手の精華、と絶賛させたと言う。
静と動、先と後、合わせと捌き、突きと蹴り。
花と月、それらが壇上を鮮やかに彩った、極真しに燦然と輝く名勝負と言えるだろう。
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