Ⅴ/傭兵の生活⑤

2019年10月18日

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 しかし、ビクともしない。
 テコでも使っているかのように。
 さらに他の仲間が肩車して男の首に手を伸ばすが、なにもない。

 どうしようもない。
 首を絞めているものが見えず、そして触れないのだ。
 そしてベトは似たような症状をどこかで耳にしたのを、思いだした。

 悪魔憑き。

「ッ……おい! 誰か悪魔払い、もしくは悪魔憑きと会ったことがあるやつはいないのか!? おい、ぼーっとしてねーで答えろッ!!」

 大声で叫び、近くの奴をどつき、周りに呼び掛ける。
 それに呆気に取られていた周囲の人間は我に返り、ざわつき、

「あ、悪魔憑き……?」
「これが、そうか?」
「おい、誰か知ってるか?」
「いや、そんなん噂で聞いたことしか……」

「ぐ、ぐぅえ、え……」

 男が、失禁した。
 ヤバい、失神した。
 くそっ、こういう場合どうしたら――

 ふと、声をかけてない人物に思い当った。

「お、おいあんた!」

「――――」

 ベトが声をかけた時、アレはぼんやりとしていた。
 一応視線は浮いている男にあったが、目の焦点が合ってない。
 そしてまるで壊れた玩具のように、まったく同じような動作、ペースで剣を振り続けていた。
 周りがこれだけ騒いでいるにもかかわらず、騒動にまったく気づいていないようだった。

 その様子に、初日からやらせ過ぎたか? とベトは少し後悔し、

「ちっ……おい、あんた! 目ぇ覚ませ! アレ=クロアっ!」

「――――え」

 三度に及ぶ呼びかけに、ようやくアレの目の焦点が動き始め、それは目の前で身体を揺さぶるベトで像を結んだ。
 意識も、覚醒したようだ。

 それにベトは胸をなでおろしてから、

「見ろ! 俺の仲間が悪魔憑きに遭ってるんだ! あんた、村の伝承かなんかでそういうのに関する払い方かなんか……」

 どさっ、という何かが落ちるような音がした。

「聞いたことないか……って、へ?」

 まさかと思い、振り返る。
 バカな、そんなまさか。

 何度も思いながら、しかし目の前に繰り広げられる光景に、ベトは唖然となった。
 さっきまで宙に浮き上がり失神寸前だった男は、今は地に落ちて仲間に介抱されていた。

 さっきまで引っ張っても首の周りに手をやってもピクリともしなかった彼は、仲間の手によって息を吹き返し、事なきを得て周りを不思議そうにキョロキョロしていたのだ。

 まさか――

「お、おいあんた……」

「え? な、なんですか、ベト……?」

 アレは椅子に身体を預け、ぐったりとして頭を傾げていた。
 そこに今までのことがわかっている様子はない。

 その事実に、ベトの背筋に戦慄が走った。

「あんた、まさか……」

「なんですか? ベト」

「おーい、ベトこっちの後始末手伝ってくれ!」

 遠くから、仲間に声をかけられる。
 倒れた仲間を運んだり応急処置したり服を変えたり失禁したところを掃除したりと、大変らしい。

 それに一瞬ベトは考え、

「……いや、なんでもね。おう、今行くわー!」

 アレをその場に残し、ベトはそちらへと駆けて行った。


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