第86話「中指一本拳」

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 再び笑う。

 正治の頭が急浮上し、そのまま後方に仰け反る。
 足まで宙に浮く。

 周りのどよめきが聞こえる。
 真下から、体ごと跳ね上げるような強烈な掌底を、指先がこちらを向くような角度で、かち上げてやった。頭突きは強烈な攻撃手段だが、そのあとのフォローを考えないとあとが恐いぜ?

 正治はたたらを踏んで後退し、なんとか態勢を整え、口を拭ってこちらを睨む。口の内側が切れたのか、血が流れ出していた。

 いくぞ。
 構え、前に出る。
 正治も出る。

 視線を左の方に下げる。
 大丈夫。

 この日普通、サポーターはつけないが、ここだけはちゃんとつけている。
 だから使っても、大丈夫。

 正治の正拳上段突きを、下から左手の甲を跳ね上げ弾く。

 そしてしっかり曲げてある右肘を、体ごと巻き込むように回転させる。
 それを正治は、しっかりとガードした。

 骨と骨がぶつかる音。

 双手の構えは、側面からの攻撃に強い。

 そのまま体を逆方向に捻り、左中指一本拳――通常の正拳から、中指の第二関節だけ突き出しているもの――をガードの間から強引にねじ込み、眉間を打った。

 かつん、という手応え。
 正治が方向感覚を失ったかのように、下がる。

 喰らえ。

 凶暴な笑みを浮かべ、僕はその無防備な顔面に充分に溜めを作った左上段廻し蹴りを叩き込もうとし、


「やめ」

 とうさんの手に、制された。
 ……相変わらず早いと感じた。

 仕方なく戻り、未だよろめいている正治の様子をとうさんが確かめ、中央に戻し、礼をして円の中に戻った。

 黒帯研究会の組み手は、出来るだけ実戦に即したものになっている。
 サポーターはつけず、顔面への拳を使った攻撃や、肘打ちや頭突きまで認めている。
 さすがに目突きや金的蹴りや関節蹴りは禁止されているものの、下手をすれば大怪我をしかねない、過激なものだ。

 だからそれを未然に防ぐため必ず一組づつ、周りを他の道場生で囲んで見張り、とうさんもしっかり注意し、一人一日一試合、試合時間はきっかり一分間。

 これは鉄の掟だった。
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