ⅩⅩ:聖堂の騎士
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目次
本編
「……お前、名はなんという」
「あ、はい、その……エリュー=オブザードと、いいます」
「ん……お前の職業(クラス)は、『武剣士』だ。通常の剣士としてのスキルに加え、高い身体能力の恩恵も受けているものだ」
「ハッ、だせぇ」
その後ろからの"野次"に、ついにエリューは臨界点を迎えた。
「……お前、なんなんだよ?」
そのエリューの剣幕にクッタは眉ひとつ動かさず、
「さっきも聞いただろ? ここじゃオレは、暴れらんないんだよ。ただ、どうしてもってんなら、表出ろよ」
不意に二人が外に出てきて、マダスカは動揺を覚えた。
「エリュー、と……?」
マダスカはてっきり、最後のエリューはトピロ司教と一緒に現れるものと思っていたため、意表を突かれていた。
えらく軽い印象を受けるその男は、不釣り合いとも似合うともいえる高潔な騎士服をまとっており――
「んで? お前なにか言いたいん……?」
フラフラしていたその視線が、とつぜん一点に固定される。
「――け、賢者オルビナ?」
そしてその緩かった表情まで引き締まり、まるで子どものようにバタバタと駆け寄り、
「ず、ずっと前からファンですっ! ずっと憧れてましたっ! お会いできて、光栄ですっ!」
「お、おぉ……?」
その、前のめりにがっつり迫り両手を握る勢いに、オルビナは押される。
マダスカはその状況についていけず呆気に取られ、エリューはわけがわからず困惑していた。
「な、なに……こいつ?」
「……なんなんだ、いったい?」
だがその的であるクッタは、まったくその空気に気づく――気にする様子もなく、
「そ、それでですね! お会いできたら、是非ともお願いしたいことがありまして!」
「な、なにかね?」
「い、いいんスか? 言って、いいんスか?」
「い、言ってみたまえ」
「ぼ、僕を魔王軍との戦いに、連れて行ってください!」
一瞬場の空気が、静まり返る。
「……魔王軍との戦いに、かね?」
「はいっ!」
その少年のような純粋な瞳で、クッタは肯定した。
「僕、知ってるんですよ! 賢者オルビナさんが、魔王軍をぶっ潰すための組織を結成してるって! 賢者騎士団っていうんでしょ? それに、僕も入れてくださいよ!」
「あぁ、それのことなら……潰れたよ」
一瞬の静寂。
「…………え? な、なにいってんスか?」
「事実だよ。賢者騎士団――レジスタンスの本部は、魔王直属の近衛兵であるエミルネルの襲撃により、壊滅した。その時ほとんどの団員が重体、もしくは重傷を負い、戦線を離脱。残るはここにいるメンバーのみだ」
「う……ウソ、でしょ?」
目を見開き、愕然としているクッタを見て、僅かエリューは印象を改め――
「……なら、僕と組んでくださいよ! 僕、この聖堂の騎士なんです! 絶対に力になりますから!」
「組む? 仲間に加える、の間違いではないのかね?」
「そこの二人のことなら、僕は信用していない」
そして、再度修正し直した。
「……お前、」
「聞き捨てならんな」
抗議しようとしたエリューより先に、マダスカの口から静かで冷たい声があがった。
「ん? なんか用か……おじょーお、ちゃん?」
「お前……なめているのか?」
お嬢ちゃん、という舐めきった、しかも子どもをあやすような口調に、マダスカは睨みを利かせる。
三十センチ以上ある身長差の、下から、上目遣いで。
「おーおー、ちっちゃくて可愛いのに無理しちゃってまぁ……」
と頭を撫でようと手を掲げ――
「…………!」
マダスカの怒りの魔力が込められた一睨みでパン、と弾かれた。
「おー、いてて……あーらら、怒らせちゃったかなー」
それにクッタは心外だ、という笑顔をオーバーリアクションで作り、手をヒラヒラさせたあと、エリューの方も一瞥して、
「……お前ら、スパンブルグに来たばかりなんだろ? くだんねーな。そんな冒険初心者、足手まといもいいところでしょう、賢者オルビナさ――」
「取り消せ」
その目の前に、突然エリューは現れていた。
それにクッタは、片眉を上げる。
「……ほー、動きだけはいっちょ前だな」
「俺たちは、ここまで三人で協力して、死に物狂いで戦ってきたんだ……それをバカにすることは、俺がゆるさねぇ」
「許さないなら、どうだっていうんだ?」
ほぼ10センチの身長差、上からクッタは不敵な笑みを浮かべた。
それにエリューは背を向け、
「…………お前なんか、いらねぇよ」
「教えてやろうか? お前が、どれだけ戦力外なのかどうか?」
「…………」
後ろから挑むように呼びかけられ、エリューはそのまま動かず、代わりのようにマダスカが傍にいるオルビナに、
「……オルビナさま」
「ふむ……やらせるとしよう」
その言葉に、エリューの肩がぴくっ、と震える。
「騎士の力は欲しいが、現在のパーティーを解散するつもりはない……ならば、双方の言い分が納得できるように、一度ぶつける方がいいだろう」
「表出ろ、クッタ」
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