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ⅩⅥ:月下の対話

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 それにマダスカは、かなり参っていた。
 魔術師であり若干15歳の少女であるマダスカは、運動関係は不得手だった。

 それが前提としてあるのに、連日の魔力鍛錬、ほとんど命懸けといっていい実戦修行という組み合わせは、殺人的な運動量だった。

「……大丈夫か、マダスカ?」

 隣りを歩くエリューが、心配そうにこちらを覗き込んでくる。

 気持ちはありがたいが、この男に出来ることはない。
 それになにより、マダスカはエリューと必要以上の関わりあいを持ちたくないと思っていた。

「だ、大丈夫……気にせず、進め」

「…………そっか」

 しばらくしてから、エリューは視線を戻した。
 顔も俯いたままそちらに向けなかったから、さすがにこの男も察したのだろう。

 額に手をやり、汗を拭った。

「――――」

 パーティーの先頭をいくオルビナは一度も振り返らず、ただ前だけを向いていた。
 魔導をゆく身にしてあの佇まいに、自身の未熟を痛感する。
 ゆさゆさと無駄に揺れる自身の胸が、疎ましかった――

 そして、夜。

「では、眠るとしよう」

「はい、オルビナおやすみなさい。マダスカ、おやすみ」

「……あぁ」

 就寝は、エリューが背負い運んでいるテントを張り、その中で眠る。
 ただし唯一の異性であるエリューは外で、樹を背に剣を胸に目を瞑り、眠りと見張りを兼任していた。

 オルビナと枕を並べて、横になる。

「…………」

 最初テントの梁を見ていたが、落ち着かず寝返りを打つ。
 オルビナの方とは逆に、入口の方へ。
 使い込んだテントは黄ばみ、そこに生温かさのようなものを感じていた。

 気になった。

「……エリュー」

「ふぇっ?」

 とつぜんの呼びかけに、エリューはバランスを崩し胸の剣を取り落としかけ、勢い余って後頭部を樹の幹にぶつける。

「てっ! つ、っつー……」

「……どんくさ」

「て、へ? な、なんか言った?」

「なにも」

 呟き、マダスカは傍の岩の上に腰かけた。
 エリューも頭上に疑問符を浮かべながら、再び樹にもたれる。

「――で、なに? なんか用?」

「…………いや、ちょっと」





 そこでマダスカは、口ごもった。それにエリューも右手で頭をさすりながら、左手で剣を抱えなおし、

「? ちょっと?」

「…………ちゃんと眠れてるの?」

「ん、ああ、寝れてるぞ。最初はあれだったけど、これって瞑想の修行も兼ねてるからな」

 そしてエリューは、顔を前方に傾け、目を瞑る。
 そのまま微動だにしない。

 5秒経ち、試しにマダスカは顔の前でパン、と手を叩いてみたが反応せず、さらに足元から砂を掬って顔にぶつけてみたが、それでもエリューは瞑想を中断しなかった。

 さらに5秒後。
 エリューは瞼を開け、

「――とまぁ、こんなもん? なんか、目がしぱしぱするな……」

 それにマダスカは、素直にすごいと思った。

「へぇー……」

 だけど口から出たのは、気の無い返事。
 エリューは特にそれを気にした様子もなく、

「んで? それを心配してくれたのか?」

「…………いや、その」

 そして沈黙。
 満月が明るく照らす中、エリューは特に急かすこともなくただぼんやりと待っていた。

「……辛く、ないわけ」

「へ?」

 聞き返すエリュー。
 とつぜんのしかも小声に、事実聞き取れなかった。

「……辛くないかって、聞いたのよ。毎日魔物と戦いながら、一日何時間も歩いて、修行もして、食べ物も自炊で、外で寝て……」

「あー……辛くは、ないな」

「……なんで?」

「元々俺は、田舎暮らしだから。家では藁を敷いたところで寝てたし、食べ物も獣を焼いたやつとか山菜料理ばっかりだったし、走るのは得意だし……魔物と戦うのは、嬉しいし」

「う・れ・し・い?」

 一文字づつ区切って発音した。
 とても聞き逃せない単語だった。

 魔物との生きるか死ぬかの殺し合いが、嬉しい?

「いっ、いやその、勘違いされたら困るんだけど……戦うのが嬉しいんじゃなくて、その……強くなるのが、嬉しいというか」

 ああ、その気持ちならわかる。
 マダスカは心で呟いた。
 男なら誰でも強いものに憧れるというのを、聞いたことがある。

「なるほど……それで、強くなる自分に酔ってるってことね」

 知らず、自身の口調がキツくなっていることにマダスカは気づいた。
 意図してではないが、自然とこうなってしまう。
 理由はわかっているだけに、マダスカは複雑な心境だった。

「いや、違う」

 だけどエリューは、きっぱりと否定した。

「……違うの? なら、なんで――」

「勇者に、なるんだ」

 何度目かになる、その言葉。

「……勇者になる? 以前から聞いてるけど、それってなんのことなの?」

「オルビナが、言ったんだ」

 それを聞いたなら、聞き逃すわけにはいかなかった。

「勇気持つ、決して挫けぬ者が勇者だって。強いやつに、勇気はいらないって。魔族と戦うには、勇者にならなきゃいけないんだって」

「……つまり、あなたは魔族と戦いたいわけ?」

「倒したい」
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