ⅩⅩⅢ/アレ=クロア①

2020年10月9日

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目次

本編

「うむ、これでいよいよ悪魔と契約した可能性が高くなったな……くわばらくわばら」

「いやいや、嫌な時代ですな。おちおち舞踏会もひらいとられんですよ」

「まったく。今日は女でも激しめに抱いて、早めに眠るとしましょう」

「そりゃいいな。オレも是非ご一緒したいところだ」

『え?』

 それがたまたま殺人鬼がいる廊下の角に差し掛かった、哀れな貴族の最後の言葉になった。
 いや殺人鬼ではなく首斬り公か。

 死体を隠す手間が惜しかった。
 とりあえず手近な部屋に投げ入れ、ベッドの下にでも。
 少しは時間が稼げるだろう。
 なお見つかれば、天命だ。

 廊下を進む。
 あまり時間はないらしい。

 処女かどうか、か。
 最初の会話を思い出す。
 元は娼婦だと思い、一発ヤろうと声をかけたのが最初だったか。
 思い返せば遠くまできたものだ。
 いったい、どうしたもんだか。

 あの初心さから、間違いなく処女だろう。
 しかしあの豹変振りから、悪魔憑きの可能性は拭いきれていない。
 契約、という口ぶりも気になる。
 結局擁護する要素は、ほとんどない。

 だからここに、論理的要素は存在しない。
 だいたいそれなら、この考え自体が余分だ。

 妙だな、とベトは笑った。
 この自分が、色々ウダウダ考えるだなんて。
 やはり迷っているのだろうか?
 それとも怖いのか?
 もしくは自信がない?
 どれもありそうで、どれも確信は持てなかった。

 ただ。

 やっぱり、あの子くらいは守ってやりたいと思ったりした。





 大きな広間に出た。
 誰もいない。
 パーティーホールかなにかだろうか?

 警戒を強める。
 遮蔽物が少ない。
 身を隠しづらい以上、これ以上進むかどうか悩むところだった。

 だが、直感がいっている。

 この先に、なにかある。

「――――」

 気配を、殺す。
 消す以上に、心臓さえ止める勢いで自分の存在をこの世から抹消する。

 そしてすり足で、少しづつ前に進んでいく。
 壁を伝い、柱で身を隠し。
 誰もいない。
 気配すらない。

 それに心臓が、高鳴りそうになる。
 それと戦う。
 向こうのキャットウォークに天窓があり、そこから月明かりが差し込んでいた。

 綺麗だ、となぜか思った。

 まともに月なんて、見たことなかったくせに。
 そんなものに、興味なんてなかったくせに。

 生きて、殺して、食べて、殺して、呑んで、殺して、生きるだけ。
 そんな生き方とも言えない生き方を、選んできたはずなのに。

「アレ……」

 ふと、口元から言葉が漏れた。
 誰にも届かない、発した自分にしか認識できない程度の声が。
 なにを想ったかわからない。
 ただ、出た。

 ホールを、抜ける。
 そこから渡り廊下が伸びていた。
 一本道だ。
 脇には、中庭が見える。

 大きな噴水と、無数の植物。
 そして廊下には巨大な石柱が何本も立っている。

 気配が、まったくない。
 だから進む。
 時間の無駄だ。
 アレが気がかりだ。
 処女検査。
 ろくな取り調べじゃないだろう。
 心配とは違うが、彼女が妙な汚され方をするのは我慢できなかった。

 樫作りの扉。
 今までのモノと違い、それは酷く粗野で汚らしかった。
 離れにある、という時点で妙にキナ臭い。
 だからきっと、ここにいるだろうか?

 押し、開ける。

 なぜか鍵は、かかっていなかった。

「お……」

 声が、漏れた。
 そこは暗い場所だった。
 なにひとつ、視界では捉えられない。

 石牢よりなお暗い。
 とりあえず気配を探る。
 まぁもう半自動で勝手に探っているが。
 じゃないととっくにベトは奇襲や暗殺でこの世を去っているし。

 いた。

 ほとんど、目の前に。

「――だれだ?」
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