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#47「純化」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 沈黙がおりた。
 それも当然だった。
 こんな質問、答えようがない。

 ぼくはただ天を仰ぎ、雪を見つめ続ける。
 そこに昇っていけるのかと、考えながら。

「わかった」

「?」

 一瞬なにがわかったのか、わからなかった。
 ぼくが視線を下ろすと、彼女は真っ直ぐにぼくを見つめていた。

 それに、意味を知る。

「わたしが、連れていってあげる」

 彼女はゆっくりと、ぼくに近いづいてくる。
 それをぼくは、ただ見つめる。

 まるで最初の出会い。
 それを、思い出していた。

 なにが起こっているのか、そして起こるのか、まったくわからない。
 ぼくはそれが、不安で不安で仕方がなかった。
 だから考える余裕も、なかった。

 だけど今は、少しわかった。

「きみも……不安、だったんだね」

 ぼくに伸ばされる手が、止まる。
 雪が、降っている。
 とめどなく。

 それになにもかも、浄化されていく。
 純化、されていく。

「さみしかった……」

 手をこちらへと差し出した姿勢のまま、彼女はぽつりと、つぶやいた。
 その一言には、万語にも及ぶ意味が込められているようだった。
 それはぼくにわかる範囲だけでも何百という可能性が受け取れたことからも予想できたことだった。
 だからぼくは何も言わず、微笑んでいた。

 彼女のために。
 強制されてのものではなく、ただ彼女のために、そうしたかったから。

「そうだったんだ……気づいてあげられなくて、ごめんね?」

 サインはいくつも、いくらでもあった。
 その筈だった。

 だけどぼくは、気づけなかった。
 最初から最後までぼくは、自分のことだけで悩んでいた。
 ぼくという存在の、魂の範囲から、一歩だって抜け出していなかったんだ。

 ぼくらは既に、降り注いでは溶けていく雪で、濡れていた。
 足も、肩も、頬も。

 だから気づくのが、遅れた。





 泣いているのはぼくではなく、彼女の方だということに。
 なにもかも、手遅れだった。

「遼は……死にたいん、だよね?」

「きみに、それをどうにか出来る力が、あるの?」

 力なく、首を横に振るマヤ。
 だと思っていた。
 そうでなければ、質問が最初からすり変わっていたはずだった。

 彼女がぼくに告げたのは、ただひとつ。

「なら……殺してくれ」

 実際のところぼくは彼女の正体に、薄々ながら見当をつけていたのかもしれない。
 それを事ここに至って、思った。
 思い知った。

 だからといって、なにが変わるというわけでも、ないのだけれど。

「なに……言って?」

 空を見上げたままのぼくの言葉に、マヤは驚いたように目を白黒させた。
 それに対してぼくは、笑いかけた。

 きっと残酷な笑みを作れたと、確信できる。

「言った、よね? 最初に会った時、ぼくを殺すためにきたって。ぼくはそれに、殺してくれていいから、話し相手になってくれないかって聞いて……きみはその通りに、してくれた」

「そ、れは……」

「満足だ。ぼくは、きみになら殺されても、いい……」

 凍りつく彼女の言葉を、ぼくは遮った。

 病気に幕引きにされたくないという想いは、いつもあった。

 病気なんかに、突然降って沸いた脇役なんかに、成海遼の物語を終わりにされたくないという想いは、いつでもあった。

 ひとはいつか死ぬ。
 それは避けられない。
 だったらせめて死に方ぐらい、選びたいと。

 彼女は、瞳を揺らしていた。
 これじゃあどっちが死にそうなのかわからない。
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