第68話「発作」
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本編
僕は痛む頭を両手で押さえ、目を瞑ったまま地面に片膝をついた。
耳鳴りがし、意識がぼやける。
それを頭を振って抑えてなんとか顔を上げて、瞼を開き、そこで僕は動きを止めた。
彼女が猛烈な勢いで頭を掻き毟っていた。
目を堅く瞑って俯きながら、がしがしがしがしと両手をその長い髪の中で暴れ回らせる。
何本も髪が抜け、そこには爪が食い込んだのだろう赤い血が付着していた。
彼女が膝をついた。
そのまま地面に額を叩きつけた。
僕は言葉を失った。
何度もごんごんと頭を叩きつける彼女。
帽子は落ち、長い髪はカーテンのようにその顔を覆い、だけどその地面には真っ赤な血が付着していく。
「げええええっ」
僕は目を剥いた。
彼女がいきなり吐いた。
そしてそのまま地面に転がり、白目を剥いて痙攣を始めた。
彼女の長い髪が、黒装束が、砂で、吐瀉物で、白く汚れていく。
そこまで見て、僕は動いた。
自分でも圧倒的に遅かったと思う。
「暗戸さんっ!」
叫びながら駆け寄り、肩を掴んで引き起こす。
いきなり彼女が思い切り目を見開いた。
突然のそれに、一瞬心臓が止まるかと思った。
なんとか自制心を働かせ、彼女に呼びかける。
「暗戸さん、しっかりしてっ。落ち着いてっ」
彼女はぶんぶんと頭を振り、体を折り曲げうずくまろうとする。
それでも僕は根気強く言葉をかけ続けた。
それ以外、やるべきことがわからなかった。
突然彼女の動きが止まり、体の力が抜ける。
「暗戸さん!」
呼び掛ける。
あまりの唐突ぶりとぐったりした様子に、一瞬死んだのかと思った。
左手の脈を取る。
ちゃんと血は流れていた。
気づくと、周りに人だかりが出来ていた。
無理もない。
真っ昼間に往来の真ん中で叫んだり倒れたりすれば人も集まる。
でも、今はそれを気にしている余裕はない。
彼女がとりあえず落ち着いたことに安堵して、顔を見る。
心臓が跳ねた。
彼女は泣いていた。
彼女の頬には、ハッキリと涙が伝っていた。
……何が、
彼女は虚ろに目を開き、以前のような無表情でこちらを見ている。
……何が、あったんだよ。
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