第68話「発作」

2020年4月4日

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 僕は痛む頭を両手で押さえ、目を瞑ったまま地面に片膝をついた。
 耳鳴りがし、意識がぼやける。
 それを頭を振って抑えてなんとか顔を上げて、瞼を開き、そこで僕は動きを止めた。

 彼女が猛烈な勢いで頭を掻き毟っていた。
 目を堅く瞑って俯きながら、がしがしがしがしと両手をその長い髪の中で暴れ回らせる。
 何本も髪が抜け、そこには爪が食い込んだのだろう赤い血が付着していた。

 彼女が膝をついた。
 そのまま地面に額を叩きつけた。

 僕は言葉を失った。
 何度もごんごんと頭を叩きつける彼女。

 帽子は落ち、長い髪はカーテンのようにその顔を覆い、だけどその地面には真っ赤な血が付着していく。

「げええええっ」

 僕は目を剥いた。
 彼女がいきなり吐いた。

 そしてそのまま地面に転がり、白目を剥いて痙攣を始めた。
 彼女の長い髪が、黒装束が、砂で、吐瀉物で、白く汚れていく。

 そこまで見て、僕は動いた。
 自分でも圧倒的に遅かったと思う。

「暗戸さんっ!」

 叫びながら駆け寄り、肩を掴んで引き起こす。


 いきなり彼女が思い切り目を見開いた。
 突然のそれに、一瞬心臓が止まるかと思った。
 なんとか自制心を働かせ、彼女に呼びかける。

「暗戸さん、しっかりしてっ。落ち着いてっ」

 彼女はぶんぶんと頭を振り、体を折り曲げうずくまろうとする。
 それでも僕は根気強く言葉をかけ続けた。
 それ以外、やるべきことがわからなかった。

 突然彼女の動きが止まり、体の力が抜ける。

「暗戸さん!」

 呼び掛ける。
 あまりの唐突ぶりとぐったりした様子に、一瞬死んだのかと思った。

 左手の脈を取る。
 ちゃんと血は流れていた。

 気づくと、周りに人だかりが出来ていた。
 無理もない。
 真っ昼間に往来の真ん中で叫んだり倒れたりすれば人も集まる。

 でも、今はそれを気にしている余裕はない。
 彼女がとりあえず落ち着いたことに安堵して、顔を見る。

 心臓が跳ねた。

 彼女は泣いていた。
 彼女の頬には、ハッキリと涙が伝っていた。

 ……何が、

 彼女は虚ろに目を開き、以前のような無表情でこちらを見ている。

 ……何が、あったんだよ。
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