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#12「クリスマス③」

2020年10月7日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 不意にかけられた、無機質な声。
 ぼくは思わず、顔を上げる。

 嘘みたいだった。

 昼なのに、彼女がいた。

「マ、マヤ……?」

「泣いてるの?」

 その言葉にぼくは我に返り、慌ててごしごしと目元と鼻を拭い、啜った。
 そして息を整え、

「いや、その……これは、ちょっと、ぼく風邪気味でね」

「そうなんだ。風邪、大変だね」

 嘘みたいな応えに、嘘みたいな返し。
 どうしようもなかった。
 というか、どうしたもんかだった。

 彼女がなにを考えているのか、なにひとつぼくにはわからなかった。

 彼女は無言で、いつもの定位置に腰掛ける。

 それにぼくはいつものようには横にならず、上半身を起こしたまま見つめる。
 というよりそうするしか、なかった。

 蛍光灯に照らされ、彼女の全身が露わになっている。
 その言い方は少しいやらしいか?
 だけどなぜだろう、彼女には夜が似合っているような気がした。

 あの静寂で、どこか浮世離れした空間が。

「今日は、どうだった?」

 一週間続いてきた会話だった。
 いつの間にか彼女は、ぼくの一日の報告を聞くような立ち位置になっていた。

 そこに意味があるのかはわからない。
 だけどその在り方に、今ではぼくは尊敬に近い念すら抱くようになっていた。

 意味を探り続けてきた結果が、いまのぼくの体たらくなのだから。
 もし意味がないとするなら、彼女の在りようはぼくの理想像といえるだろう。

 まぁ、逆説的に見れば、という話だが。

「ん、今日は……」

 思い返す。

 だけど今日は、いつもほど何かがあったわけでもなかった。
 裕子さんはクリスマスの準備で浮かれてそればかり話し、ぼくは相槌を打っていただけ。晩ご飯はターキーが出てきた。そうそう、なぜか赤飯だったな、お昼は。

「なんだか、わくわくするね」

 彼女の声、ぼくは我に返る。

 あれ?
 ぼく、思ってることそのまま口にしてた?
 そんな無防備で危険な真似を、このぼくが?

「遼、大丈夫?」

 マヤが心配そうに振り返り、ぼくの顔を覗き込み――額にその小さな手を、あてた。

 それは冷たく、だけどどこかほの温かかった。

 ひとの温もりが、そこにはあった。

「あ、うん……だい、じょぶ」

「風邪、悪いの?」

 軽く、動揺した。彼女はぼくのさっきの嘘を、まともに信じているのか。

 そんな子なのか。そんな子が在り得るのか。
 というかぼくは自分で言っていたが、本心を語ることのどこに危険が生じるというのだろうか?

 バカバカしい。心底思った。

「うん、だいじょうぶ。ごめん、心配させて」

 そこで思いきって、にっこり笑ってみた。
 口の端を吊り上げるような感じじゃなく、めいっぱい、無防備に。

 すげー気持ちよかった。

 胸が切り開かれ、心が思い切り深呼吸したみたいな。

 するといつも無表情な彼女も、

「ん、よかった」

 にぱっ、と会って二日目に見せたみたいな無邪気な笑顔を見せてくれた。

 心を開いたから、彼女も心を開いてくれたのか?
 まるで幼児に読み聞かせるみたいな絵本の話だった。じゃあぼくの精神レベルは幼児並みなのだろう。

 それを見ながらぼくは、あと残り少ない時間だけでも心を開いて生きてみたいと、願った。
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