Ⅹ/急襲③
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本編
大上段にこちらの背中を狙っていた敵兵の腹に、突き立てる。
鎧を貫き、そして背中に生えた。
狙いと使い方さえ間違えなければ、まだ刃物としての扱い方も可能だった。
戦場では常に360°、全方位に注意を配らなければならない。
それは視覚だけでは当然足りるものじゃない。
聴覚に加えて、嗅覚、さらには風の向きを触覚で感じ、なにより直感を研ぎ澄まさなければならない。
ピリピリとした、緊張感。
色がない世界に来てしまったような、集中力の高まり。
考えるなんて、無駄だ。
「らァ!!」
袈裟に、敵兵の盾の上から打ちこむ。
その重みに敵兵は片膝をつく。
細かい技術がないから、武器に大剣を選んだ。
多少雑な攻撃でも、有効に持っていくことができる。
何より力がモノをいう。シンプルだ。
だからいい。
だから、生き残れた。
「ぐぅう……ああア!!」
さらに上から力を加え、盾ごと相手を押し込み、そのまま地面に叩き、潰す。
敵兵は強烈な勢いで兜ごと頭を地面に叩きつけられ、脳味噌を強烈にシェイクされ、そのまま動かなくなる。
さらに喉に、剣を――
返り血に、目を瞑った。
「ハァ、ハァ、ハァ……べっ」
口に溜まった血と一緒に、吐きだす。
いつ切ったかなどまったくわからない。
気にもならない。
そんなこと、どうでもいい。
次――
「おい、貴様!」
視線を巡らせようとしたベトに、不意に声が掛かった。
別に珍しいことでもない。
そちらへ目を向ける。
馬に乗った大柄な男が、戦斧(バトル・アックス)を肩に乗せてこちらを睥睨していた。
「たかだか傭兵風情が、ようも我が栄光の餓狼兵団(がろうへいだん)の同志たちをこうも殺してくれたものよ……前に出ろ! 一対一の決闘を申し込む!」
ほらきた。
ベトは敵に悟られぬ程度の、微かな笑みをその口元に浮かべた。
大剣を、カチャリと両手で握り直す。
「あぁ、いいぜ……やろうぜ、男の勝負だ」
「おうよ! 決闘こそ男の本懐!」
くす、とベトは笑う。
バカだ。
こちらの狙いに気づくこともなく、バカな幻想に捕われている。
こういうバカは本当に扱いやすい。
大剣を、正眼に構える。
それを開始と見たか馬上の大男は戦斧を大上段に構え、
「では――行くぞォ!!」
馬を駆り、突撃してくる。
まったく、騎馬のくせに歩兵と尋常な勝負もくそもないよな……とベトは嘲り――
思い切り、横っ跳び。
馬の進路から、離脱する。
そして地面を滑り馬とすれ違いざま、思い切り剣を後ろに振りかぶり――
馬の前足を、叩っ切る。
「ヒ、ヒヒィ――――ンッ!」
「っ、お、ぬお、落ち着……ぐぉお!?」
足首の一番細いところを狙った一撃。
何度も何度も練習し、そして実践を積み重ねた熟練の技だ。
馬は当然のようにバランスを失い、倒れ、そして乗っていた大男は、落馬する。
目を回し、頭を押さえている。
それを上からうすら笑いで、ベトは見下ろす。
「――どうした? 随分と戸惑ってるみたいだが?」
それに気づいた大男は屈辱に歯噛みして顔を上げ、
「ぐ、ぉ……き、貴様我が栄光の黒騎士号をよくも……!」
「あの世でも言ってろ」
大剣、一閃。
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