“清廉裂帛”柏木信広 ブラジリアンキック、マッハ蹴りで一撃必殺を体現した空手家!

2024年4月9日

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ブラジリアンキック

柏木信広。

現在までに途中から起動が変化する縦蹴りとも変則蹴りとも、ブラジリアンキックとも、マッハ蹴りとも呼ばれているその蹴りを使いこなす者は、ブラジル勢を除けば日本人の中で、わずか4人。

その希少なる才能を秘めた空手家。

全国区の大会としては第28回、そして第29回大会での全日本ウェイト制大会準優勝や、体重別の世界大会である空手ワールドカップベスト8入賞などの戦績を上げ、小泉英明との延長1対3の惜敗などが見受けられ、さらには第30回全日本大会では、それまで長く垂らしていた髪をバッサリと切り、さっぱりとそのイメージをチェンジ。

未完の大器とうたわれ、世界大会でもベスト4に食い込んでいる、上位入賞の常連である吾孫子功二を相手に、正々堂々正面から真っ向勝負で立ち向かい、開始早々そのマッハ蹴りで上段のクリーンヒットを奪い、それに立て続けの飛び込んでの上段前蹴りで鼻血を出させるなど、鮮烈にして鮮やかなら組み手を披露。

しかしながらそこで技ありまで取れなかったのが痛かったのか、その後はその体格差、パワーの差に押される形となり、残念ながら再延長に敗れる。

しかしその半年後に行われた第16回全日本ウェイト制大会では飛び膝蹴りの1本勝ちなどにより4位に入賞、そして同年開催された、第7回全世界空手道選手権大会に出場。

第7回世界大会

初出場ながら生き生きとした姿を見せ、2回戦スペインのパスクレケナナ選手を相手に、パンチからの軽快な膝で攻め込み、そこから一気に垂直に伸び上がるが上段膝に変化させ、鮮やかな1本勝ちを奪取。

さらにヨーロッパの重量急で無類の強さを誇っていたリトアニアのトーマス・トゥルチンカスを相手に、その体格差をものともしない怒涛の攻めを見せての体重判定勝利。

しかし残念ながら次の4回戦にて、その次の世界大会である第8回世界大会で準優勝にまで輝く、"強いムーミン"の意名を持つ逢阪祐一郎と対戦し、その絶妙な間合いの詰め方と圧倒的な圧力を捌ききれず、本線3対0で惜しくも敗れることになり、最終戦績はベスト16と言う結果となる。

さらに翌年行われた、第17回全日本ウェイト制大会、

満を持して出場したそのインタビューでこう答えている。

「こんな動きこいつするのかな?

他の選手はやらないなって言う、そういうところをちょっと見せたいですね。

もうとにかく顔を狙うって言うふうにしてます。

倒す技で勝負します、はい」

その宣言通り勝ち上がり、ベスト8にて以前破れた第7回世界大会で準優勝に輝いた新保智を相手に、それまでにない怒涛の下段回し蹴りからの、そこから高く抱え上げ変化するマッハ蹴りを顔面に叩き込み、何度もぐらつかせ、突きと膝蹴りで追い込み、延長5対0で破ると言う快挙を見せつけた。

今大会最大の山場とも言えるそこを乗り越えた柏木信弘は、勝利と同時にすさましい勢いで咆哮する。

そして準決勝。

阪本晋治に逆転一本勝ち

対戦相手の阪本晋治は、なんと驚きの、開始と同時に凄まじいまでのラッシュを敢行。

地元の意地にかけて、このラッシュで勝負を決めようと言う覚悟が見て取れた。

それに柏木信弘が顔を歪めながらも、歯を食いしばり、捌きも最低限に、1歩も引かずに耐え忍ぶ。

そしてその怒涛のラッシュがやみ、勢いが衰えた、そこを狙いすましたかのような。

まさに一瞬の稲光のような、マッハ蹴りの衝撃。

会場に戦慄が走る。

まごうことなき、一撃必殺。

絵に描いたような、鮮やかなマッハ蹴り。

あまりの威力に、阪本晋治は立ち上がれず、柏木は斬新を極めながら叫び、硬直し、かつてない時間が壇上に流れ、柏木信広は正座してもなお思いが止め切れないような表情を浮かべ、そして2人は対照的な熱い涙を流していた。

まさに燃えるような闘志を胸に秘めた男、その一幕を見た心地だった。

そして決勝の相手は、"空手革命児"塚本徳臣。

その相手に、まさかの開始直後に上段前蹴りを当て、飛び後ろ蹴りをもらいながらも、さらにかかと落とし気味の上段前蹴りで、塚本徳臣の右目を腫らせる。

あの塚本徳臣に冗談でダメージを与えた人間と言うのは、もしかしたら彼だけなのではないだろうか?

しかし塚本徳臣の勢いが凄まじく、膝蹴り、左中段廻し蹴りで場外に叩き出され、反撃しようと飛び込んだところは前蹴りでカウンターを決められ、腹を効かされてしまい、万事休す。

そこからの膝蹴りのラッシュを止める術はなく、本戦の判定負けで敗北をしたものの、まさに柏木信広ここにあり、それを知らしめた大会だったと言えるだろう。

翌年、第二回空手ワールドカップ重量級に出陣。

1回戦は、レバノンのアリィムスタファマッキーを左の突きと廻し蹴り攻め立て勝利。

そして2回戦にて、第7回世界大会で塚本徳臣を追い詰めた、リトアニアの巨漢選手であるゲディミナス・タンケヤチウスと対決。

やはりその世界の壁が高く、本物だったようで、塚本徳臣を追い詰めた左右の鉤突きを中心に圧倒的な圧力をかけられ、自らの間合いを保てず、蹴りを放てず、翻弄されながらもその燃えるような闘志で全身で振り回すような胸への突きを連打。

マッハ蹴りがその目と鼻の先をかすめたりもする。

しかしそれでもあと1歩届かず、判定にて敗れたが、どんなに打たれても蹴られても1歩も引かず、結果的準優勝を果たすその相手へ前に続けるその姿に、感銘を受けた者たちはきっと多くいたことだろう。

その後20回全日本ウェイト制大会ではベスト8に進出、しかしやはりそこでも第7回世界大会と同様に逢坂が立ちはだかり、得意のマッハ蹴りもカードされ、下段後廻し蹴りも通じず、その柔らかくも素早く、何より重たい連打に対抗できなかった。

36回全日本大会では序盤から猛烈な中段膝蹴りからの飛び膝蹴りで1本勝ちを奪うなどその凄まじい勢いを垣間見せたが、3回戦にて新保智との再戦を迎え、この対決では膝で攻め立てようとするところはローキックで撃墜される形で勢いを封殺された。

第40回全日本空手道選手権大会

そして2008年10月18日19日に行われた、第40回全日本空手道選手権大会。

37歳を迎えた柏木信広が挑んだ、無差別の全国大会。

初戦、正伝流空手道中村道場の中村征仁を相手通り、その大きく上背が上回る相手に、前足のかかと落としを見せてからの、その連打を冷静にさばき、その間隙を突き放たれた、空気を切り裂く一撃。

マッハ蹴り、再び。

ここにきて、柏木信弘は円熟の域に達しつつあったのかもしれない。

しかしその後の残心の際の咆哮を見るにつけ、その魂はわずかにも錆びついていないことを思わせてもいた。

続く3回戦、全日本ベスト4にも食い込み、ウェイト制大会重量級及び重量級の2階級制覇を達成している森健太を破った安村を、序盤から突き、そして膝蹴りで追い込み勝利。

続く4回戦は第23回のウェイト制中級で準優勝に入り、勢いに乗っている"登り竜"平山竜太郎。

序盤からその勢いで攻め込まれ、厳しい戦いを強いられるかと思った、その刹那。

一瞬の飛び膝蹴りが顎を捉え、平山竜太郎はマットの上に糸の切れた操り人形のように崩れ落ちた。

まさに一撃必殺の体現者。

この勢いは、どこまで続くかと、見ていた者たちは皆期待に胸を寄せていたはずだ。

しかし判定は抱え込みによる注意1。

その後勢いを取り戻した平山竜太郎に攻め込まれ、柏木信弘は敗れるのだが、その裁定が降った際も、判定が決まってしまった際も、柏木信弘は一切抗議したり、不満を漏らしたり、表情を変えることもなく、ただまっすぐ前を向くそれだけだった。

そういうところに彼の人柄、武道性が表れているように私は捉えている。

後進育成へ

その後は第10回世界大会で優勝した塚本徳臣のセコンドとして活躍し、あの伝説的な一戦である準決勝のローマンネステレンコ戦での胴廻し回転蹴りしが決まった時なども、誰よりもその勝利の喜び、最後まで支え続けた。

途中根を張れ、水になれなど、2人にしか通じないその掛け声こそが、絆の深さを表していると言えるだろう。

現在は東京目黒道場を経て、東京山手支部長として後進の育成に当たっており、その武道性、人格者としてのあり方が皆に慕われているといい、そのモットーとして

人間は今一番が若いです。

生まれ変わるなら生きているうちに。

まだまだ進化する自身の精神と肉体を共に鍛えましょう。

と掲げ、後に続く子供たちには、

未来を担う皆さんには、心身ともに強くなってほしいと願っております。

真面目に稽古して努力した人は礼儀正しく、誠実になり精神も強くなるでしょう。

人の痛みを理解できる優しい人になってください。

と教えていると言う。

その華麗なる蹴り、鮮やかな一本勝ちで見るものの心を奪い、その熱すぎる魂、叫び、そして相手を思いやる心で、魅了した、清廉にして裂帛の空手家、柏木信広。

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