リカルドロペスのホワイトファング!漫画越え衝撃アッパーが相手を場外まで吹き飛ばす!

2024年2月3日

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史上最強リカルド・マルチネス

範馬刃牙でいう範馬勇次郎、ドラゴンボール超でいう破壊神ビルス、鬼滅の刃でいう継国縁壱。

ボクシング漫画はじめの一歩で言うそれが私にとってはリカルド・マルチネスだった。

世間一般的には鷹村守のことを言われることが多いだろうしそのように書かれていることが多いが、実際鷹村守が中心人物の1人でもあり、六階級制覇を目指していることもあり試合数も多く、その全てが圧勝と言うわけではなく、そういう意味では感動するが絶対的強者絶対王者と言う印象はそこまで強いと言うわけではない。

それに比べてリカルドマルチネスは、当初から強さの象徴、たどり着いてしまった達人、そのような描かれ方をされており、主人公でありデンプシーロールの使い手である幕之内一歩がまさかのジャブ1本でそれに全て合わせての勝利と言うやりすぎな神技を見せつけ、日本王者伊達英二との1戦も非常に感動的な展開になりながらも、ほぼ顔面にも腹にもダメージなしで無傷で帰国となっており、その後現れるたびに、全力が出せない、熱くなれないといった、中二病的な発言すら見られるほどの圧倒ぶりだ。

その美しさを完成されたボクシングスタイル、そのモデルとなった、ほぼまんまとも言える名前の、リカルド・ロペス。

以前、その伊達英二との初戦にあたる戦いでの、アッパーカット、その実写版とも言える試合を取り上げさせてもらったが、今回は、1992年10月11日に日本にて行われた、WBC5度目の防衛戦、対台湾のロッキー・リン戦だ。

ロッキー・リンはアマチュアで63戦58勝30KO5敗の戦績を残し、台湾ボクサーとして初のプロデビュー、7戦目で日本ストロー級王座を獲得、その後7度の防衛を経て、WBC世界ランキング1位を獲得し、台湾出身ボクサーとして初の世界挑戦までこぎつけた。

まさしく台湾にとって、その通称通りの、台湾の英雄と言える男だろう。

試合前に前バンタム級世界チャンピオン辰吉丈一郎にチャンピオンリングの贈呈が行われ、固い握手が交わされ、そして試合に移る。

その直前、衝撃の発言が解説から聞かれる。

完全無欠のレコード

「このリカルド・ロペス、強い強いと言われているが、ここまでパンチを受けたことがない」

…そんなことありえるのか?

パンチしか存在しないボクシングで、どこよりも器用に動く腕による、手による、拳だけの打撃に、そのスポーツで、本当に一発も貰わないなんてことが――

それを踏まえて解説の浜田剛が、ロッキーリンに勝機があるとしたら、くっついて、もみ合いにもっていくこと、そう語っていた。

大橋秀幸以来の、2年ぶりの日本へのストロー級のベルト奪還をかけた、正しく大一番。

この時点でリカルドロペスは25歳、30戦30勝21 KO、完璧なるレコード。

対するロッキー・リンはやはり25歳、14戦14勝3KO、KO率こそ大きく水を開けてはいるが、勝率100%、そこだけを見れば決して引けを取らないと言えなくもないだろう。

そしてリング状のレフェリーがマーティン・デンキン、これはWBCのストロー級最初のタイトルマッチでもレフェリーをしており、さらには映画のロッキーで三作に渡ってレフェリーを演じていると言うことで、ロッキー・リンと言うその名前と所属ジムに、似つかわしい配役と言えなくもないかもしれない。

WBCストローのタイトルマッチはこれで16戦目、最短KO記録は3ラウンド1分25秒と言う話だった。

試合開始、リカルドロペスが非常に高いガードで、上下に体を揺らしながら、やはり防御重視でリング中央に舞い降りる。

序盤、お互い届かない前から、牽制するようなジャブの応酬。

ロペスがインタビューで、第一ラウンドは静かなラウンドになるだろう、相手の動きを観察する、その言葉通りの動きを実践する。

しかしその後に、静かな始まりは序曲に過ぎない、その後に必ずKOで決着をつけると付け加えるあたりも、まさに漫画のリカルドマルチネスを彷仏とさせるものがあった。

50秒でようやくリカルドロペスの左がロッキーリンの頭部を捉えて、鈍い男が会場に響く。

さらに左ジャブから飛び込んでの左フック、ここまでリカルドロペスは左しか使っていないが、それで徐々に試合をコントロールし始めている。

と思っていたら飛び込んでの右、彼の動きを予想するなど、むなしい話なのかもしれない。

ロペスの動きは躍動感があり、前後に加えて上下にも激しく揺さぶり、いつでも強いパンチを繰り出せる状況になっており、なるほどこれだと対戦相手のロッキーリンも、うかつに手が出せなくなると言うものだろう。

一瞬の隙をついて、というか近づいた時にロッキーも左フックなどを放つのだが、とにかくリカルドロペスのガードが硬くて、一瞬もその頭部があらわにならないので、決してその拳がウィークポイントを捉える事は無い。

これだけ強いのだからもう少し油断してもいいようなものだが、これだけ油断がないからこそ逆説的に強いと言うことこそ、真実と言えるのかもしれない。

2分、ほとんど拳を引かずに、縦拳のまままっすぐと突き出す、いわゆる直突きのような拳に、会場がどよめく。

完全に間合いを支配し、そしてその場の空気すらも、手のひらの上――手中にしている。

接近したと思ったら左右のフック、常に手を出し、それが速く、1つの技にとどまっていない、弱点が見当たらない、傾向と言うものが存在しない。

非常に落ち着いた1ラウンドの、解説の浜田剛によるとポイントは10対10と言うことで、間違いないのだろうが、しかし間違いなく場を支配しているのは、自分の思い通りの展開しているのは、リカルドロペスだろう。

2ラウンド、ポイントをとられたことを自覚しているのだろう、ロッキーリンが自分から積極的に前に出て左を連打で振っていく。

しかしこの、後ろ足である右足を踏ん張って、左足を大きく踏み込んで、斜め下からニュルっと伸び伸びてくる、このジャブはすごいなぁと思う。

ジャブとアッパーとフックの中間のような感じで、これもおそらく超高等テクニックではあるまいか?

しかし1ラウンドと比べてそれほど積極的ではなく、ロッキーリンの方が前に出てきていて、これはしばらくスロースターターのロペスは様子見が続くと皆が考え、解説もそのように話し、ロッキーリンは今のうちにもっと打っておくべきだと語った、その瞬間だった。

衝撃の逆ホワイトファング炸裂!

バックステップしながら右に回り、1つだけフェイントを入れて間合いを開けて、相手に打たせるようにタイミングを図った、先ほど語った右足を大きく踏ん張り、左足で踏み出し、今度は距離感から体ごと叩きつけるようになった左フックが、ロッキーの顎をとらえた。

皆、一瞬呆然としたことだろう。

それぐらい、誰もがついていけない位の、それは緩急だった。

まともに食ったロッキーリンの衝撃はいかなるものか。

ストロー級のパンチで、ロッキーリンが2メートル位後方に吹き飛ぶ。

そこに右ストレート左アッパー、左フックと猛然と遅いかかる。

まるで野生の獣だ。

ロペスは右ストレートから左アッパー連打する、まるっきりはじめの1歩のヴォルグザンギエフのホワイトファング、その逆バージョンのようだ。

さらにオーバーハンドの右、左ボディからの左アッパー、空振りが天空まで突き刺さるような強烈な衝撃。

あんなもん食ったら、あの世まで昇天してしまいそうだ。

解説も軽量級、ストロー級とは思えないパンチ撃ちますね、左壱発でしたねえーと、その驚愕した様子を伝える。

そして再びの飛び込んでの左フックから、右ストレート、そして悪夢の左アッパーがロッキーの顎を捉え、体が浮き、後方に吹き飛び、リングから飛び出すギリギリのところまで落ち、バウンドして、大の字になり、もちろん二度と動くことはなかった。

逆ホワイトファング。

解説の叫びがこだまする。

「なんとも恐ろしいチャンピオン、リカルド・ロペス!」

会場に歓声はなく、その衝撃にシーンと静まりかえっている。

ロッキーリンは文字通り、何もできなかった。

リカルドロペスの表情にも笑顔はない。

ロッキーリンは未だうなだれたまま、立ち上がることすらできない。

2ラウンド1分46秒、世界最速レコード。

リプレイ、オーバーハンド気味のショッピングライト、そこから体こと振り回すようなさよならフック気味のアッパー。

あまりの衝撃に両足は天を向き、頭はリングの外まで飛び出してしまっている。

驚きの映像、ジャッジがそれを気遣い、その手で頭を支えていた。

10カウントどころの話じゃない、ダウンを取った直後に、その勝利が確定するほどの打撃。

戻るときのロッキーリンの涙も印象的だった。

女で1人で3人の兄弟を育ててくれた、その母親を尊敬する人として迷わず答えた、台湾の初のプロボクサーとして1位まで上り詰めた、しかしあまりにも相手が悪い――いや悪すぎた、最強だと言えるだろう。

賞賛や、驚愕を超えて、ただただ脱帽し、静寂が支配する、正しくはじめの一歩のリカルド・マルチネスの如き、常人にはたどり着けない領域に入るボクサーの、その一端を見たのが心地だった。

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