ⅩⅩⅤ/国王エリオム十四世①
最初から読みたい方はこちらへ! → 初めから読む
___________________
目次
本編
国王はぴくりとも、反応すらしなかった。
「フィマール――なんだ、この茶番は?」
「は……ハッ。こ、このたび謁見を賜らせていただいたのは、他でもありません。このフィマール、裁判長として進言が――」
「なんだ? つまらぬことなら――斬って、捨てるぞ?」
傲慢、そして残虐性。
それをベトは、見た気がした。
その時湧いた感情を、ベトは苦い思いで感じた。
まるで、自分のようだと。
「い、いえ、その……」
「わたしの名前は、アレ=クロアといいます」
その極限の緊張状態ともいえるさなか、アレはただ一人平然ともいえる面持ちで踏み出した。
どくん、とその光景に、ベトは心臓がわしづかみにされたような錯覚を覚えた。
それに、自分がこの子に手助けを申し出た理由を、理解した。
危ういのだ。
この子は。
「なんだ、お前は?」
冷ややかな視線にも、アレは怯むことはなかった。
というより、理解しているのか不安になった。
アレにとって王国の知識は、余りに少ない。
「わたしは、その、世界を……」
「なんだ、と我が聞いておるのだ。答えんか」
ビリ、と重圧をこちらが感じるほどの、高圧的な問いかけ。
それにアレは明らかに、うろたえた。
ここまで相手の話を聞かない――存在を認めない存在という者に、出会ったことがないのだ。
それでもアレは、どこまでいってもアレだった。
「あ、は、はい。わたしは、その、国王陛下にお話を聞いて欲しく……」
「ふざけているのか、貴様?」
「い、いえっ……そ、そんなことは、ないですっ。ただ、わたしは話を……」
「フィマール」
「は、ハッ!」
とつぜん名前を呼ばれ、フィマールは慌てて返事をした。
エリオム十四世は表情、格好こそ変わってはいなかったが、あきらかに不興をあらわにしていた。
「貴様、我に無駄な時間を取らせおって……相応の覚悟はしておるのだろうなァ?」
「い、いえ! この娘は、ただの娘では、ございません……!」
頭は下げたまま、決死の思いといえる面持ちでフィマールは叫んだ。
「なんだ? この娘が、この戦争を終わらせるとでも言うのか? あ?」
「終わらせます」
二人の会話に、アレは割り込んだ。
初めて、エリオム十四世は微かにだが眉をあげた。
「――なんだと?」
「終わらせます。わたしが戦争を、終わらせてみせます」
いつもの落ち着いた様子に、アレは戻っていた。
というよりも、見せかけていた。
ベトは気づいていた、その胸の内が、信じられないほどのプレッシャーに押しつぶされそうになっていることを。
握りこんでいる左手の、僅かに震える小指から。
それを抑えつける強さは、なんだろうと考えた。
尋常ではないそれは――言っていた、一度死んでいるという想いに起因しているんだろう。
一度死に、そして神に救われたから、その使命にすべてをかける。
だからこそ、彼女は命懸けで行動しているのだろう。
だからその行動は、心を打つ。
「ほう……」
初めてエリオム十四世は目を細めた。
それにぞく、と嫌な予感がベトの背筋を駆け抜けた。
それはその場にいる者たちすべてが近い想いのようだった。
ざわつき、戸惑っている。
しかしその最中、アレだけは真っ直ぐにエリオム十四世を見つめていた。
睨んでいた、わけではない。
瞳に力を込めて、その姿を視界に収めていた。
負けないように。
想いが届くようにと。
「貴様が、戦争を終わらせる?」
「はい」
「どうやってだ、あ?」
「わかりません」
「ふざけるなよ、貴様」
ふい、とエリオム十四世は右手を振り下ろした。
その意味が、アレはわからなかった。
ただなんだろう? と首を傾げていた。
その瞬間、ベトは飛び出していた。
___________________
続きはこちらへ! → 次話へ進む