【イリヤの空、UFOの夏】 世界系の最高峰!超感動SF至高のボーイミーツガール!
至高のライトノベル
正直大学に入るまで私は小説と言うものにそれほど造詣深かったわけではなかった。
なぜか現代文だけは満点とっていたけれど、文章と言うものに抵抗があり、それよりはゲーム、そして漫画に熱中して、そればかり漁っていた。
そんな時、田舎から上京して、東京の大学で知り合った今までになかったタイプの友達に勧められるがままに購入したのが、このライトノベルだった。
ライトノベル、ラノベ、それも市民権は得て久しいと思うが、知らない人のために一応本当に軽く説明してしまうと、漫画のような内容を小説にしたような感じの、そんな媒体と言うところだろうか?
しかし最近も、すっかりライトノベルのほうも文章力が上がったり、逆にウェブ小説からの逆輸入もあってそちらは形式が違ったり、かなり棲み分けがなされていて、正直一言二言では話せないような事情にはなっているのだが――
そしてこのイリヤの空、UFOの夏を最初に手に取ったことにより、結果的に私は小説家を志すことになった。
ナンバーワンのライトノベルはと聞かれたら、私はこの小説だと答えるだろう。
おそらくありとあらゆる作品の中で、最も見返した作品と言って間違いは無い。
その文体、深い設定、練り込まれたプロット、本当に生きているかのようなキャラクターたち。
私にとって、1つの到達点であり、いつか辿り着きたい場所のような、そんな作品だ。
そしてそんな作品の中で、今回私は、最も胸が掻きむしられ、価値観が反転したような、そんな衝撃を与えられたシーンを紹介したいと思う。
絶望の中の問いかけ
それは全4巻の中でも、クライマックスに差し掛かったあたり、そんな重要な場面。
主人公である浅羽直之が、夏休みの最終日に出会った不思議な少女伊里野加奈、その彼女の不思議さ、違和感、そして徐々に弱っていく様、世界が戦争に向かっていく、そういう緩やかな非日常に転がり落ちていくかのようなそんな日々の中で得た確信。
伊里野加奈は、未確認飛行物体であり、今この国に行っている戦争の、その敵と戦っているフーファイターと呼ばれる幽霊戦闘機、最大戦力――ブラックマンタの、パイロットだ。
その事実を彼女を監視しているであろう大人、榎本、椎名真由美に突きつけて殴り合いまで行ったが、しかし打ちのめされ、何もできず、無力感に家据えられてただ彼女は壊れていくのを見ることしかできない、そんな自分、そんな現実に、ただただどうしようもなくなっているその中で、
運動神経抜群にして、頭脳明晰、大人をもしのぐその行動力と万能とも言える能力により、スーパーマンみたいな人だと信じていた同じ新聞社の部長、水前寺邦弘が、消息不明になった。
そしてそれを思い知らされた部室で、髪が真っ白になって、一時的に視力まで失っていた伊里野加奈が自分の背中側、部室の入り口に立ち、そして彼女を招集する意味合いもある第二次空襲警報が鳴り響いた。
伊里野加奈はベソかいていた、
彼女は、その少し前まで浅羽直之が自分のどうでもいいような持ち物――ちびた消しゴム、ジュースのおまけのキーホルダー、二等辺の三角定規など、細かいものがなくなる事態が発生しており、本人も大して気になっていなかったが、その犯人は、伊里野加奈だった。
それを告げるために浅羽直之がいる部室に現れ、それを先回りして浅羽直之が怒ってなんかいないとまくし立てるが、しかし伊里野加奈はしゃくりあげるように涙をこぼし始めた。
「いまっ、いまっ、までっ、なかっ」
「いまっ、までっ、いちどっ、おまっ、なかっ」
今まで1度もなかった。人のものをとるなどと言う事は今までなかった。
そんなふうに言っているのかと思った。
違った。
「いまっ、おまもりっ、なんてっ、いちどもっ、ほしっ、おもっ、なかっ」
今までお守りなんて1度も欲しいと思ったことがなかった。
ブラックマンタのパイロットである彼女がお守りを欲しがらない、最も過酷な前線で戦う兵士が幸運を望まない。
つまり彼女は、今まで生きて帰りたいなどと思っていなかった。
それが第二次空襲警報のために、一時的に泣き止み、そして部長がいない事実に打ちのめされ、それを受け入れ、そして浅羽直之は、考える。
かつての伊里野には、生きてよかったと思うことなど1つもなかったから、死ぬ理由こそがあれ生きようと思うだけの正当な理由などない1つなかったから。
しかし今は違う。
なぜなら――
「伊里野、あのさ、」
「こんなこともう二度と聞かないからさ、」
浅羽直之は自分に言い聞かせる。
「今すぐ基地に帰りたい?」
勇気を振り絞る。
「それとも、ぼくに助けて欲しい?」
伊里野はうなずいて、うなずいたまま、子供のように大声を上げて泣いた。
決まった。
逃げてやる。今日から伊里野は基地には帰らない。伊里野が自分から帰りたいと思うまで帰らない。
肉体を削り、覚悟を示す
だけど伊里野加奈はダメ、捕まっちゃうすぐと言う。どうしてかと聞くと、浅羽には虫――つまりは発信機が埋められているためだと言う。
そしてトイレに駆け込み、救急箱を床に置き、タオルを口にくわえ大きく口を開けて、奥歯に届くまで深くかみしめる。
工作用のカッターナイフと使い捨てライターを手に取る。
5センチほど刃を出して、ゆっくりとライターの炎で炙っていく。
そして他に何か忘れている事はないかと探して探して探して、何もないことに気づき、本当にやるのかと言う思いが湧き起こり、もう一度深呼吸して、迷って、この瞬間に発信機が溶けてなくなってしまえばいいと思い、右手を動かして切っ先を当てて余熱を感じるだけで目の前が暗くなり、体中から汗が吹き出し、
彼女が部室で待っている、
痛いのは嫌だ、
と言うその言葉が浮かんでは消えて、焦り、
動かした瞬間に口元から餌をねだる子犬のような声が上がり、
膝がガクガクと震え始め、恐ろしくて動かすことすらできず、さらに進めると恐怖の悲鳴が上がり、唾液がこぼれ、まさに最悪の恐怖に囚われ、なんでこんなことをしているのか分からなくなり、
さらに進めるとまっ白な苦痛がきて、タオルが口から落ちて、うわあ、うわあ、うわあ、とまるで幼稚園児のような泣き声がほとばしり出て、血みどろになり、刃が折れて、もう嫌になって、やめたくなって、その傷口に、手を――
こんなに生々しく、えげつなく、心に迫る形で、覚悟と言うものを、それを乗り越えるための苦行と言うものを、描いた作品があっただろうか?
かっこいいだけではなく、さらりとしたものだけではなく、こういうものがあるからこそ、覚悟を背負うと言うこと、誰かを守ると言うこと、立ち向かうと言う事、その真実の姿、そういうものを初めて知ることができたような気がした。
結果的に浅羽直之は、自らの下着を濡らすという代償の末、その発信機を取り除いた。
しかしその後、伊里野加奈がドアをぶち抜いて入ってきて、その勢いのまま彼女はは1台のスクーターの鼻っ面にナイフをドカリと突き立て、しかし何とかギリギリのところで運転だけは浅羽直之が受け持って、2人は逃避行に身を投じる。
本当に、等身大の中学2年生のそんな男子と、過酷な運命に翻弄されていた女の子が、足りない部分を補いながら寄り添い、必死に生きていく。
今でも色あせることがない、私にとって唯一無二のボーイ・ミーツ・ガールが、ここにあった。
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