【宇宙兄弟】たった一度の弟[日々人]から兄[六太]への人生相談
人生を教えてくれた作品
私はこれまでに本当に、数え切れない位の漫画やアニメを幼少の頃より見てきて、楽しんできた。
そんな私だから、今までは何が1番好きだとか、何が1番傑作だとか、そういうのはあんまり考えずに、と言うよりは決められずに、好きなもの、普通、そうでもなかったもの、そんな感じでなんとなくぼんやりと心の中に浮かんでいると言う感じだった。
だけどそれが、ある日突然覆された。
私の中で、ある日突然そういったぼんやりとした茫洋とした塊の中から、飛び出してきて、そして何よりも高い位置に固定した作品があった。
それが宇宙兄弟だった。
宇宙兄弟は、以前より話に聞いていて、そして私の数少ない友達が以前からちょくちょく話題を出していて、気になってはいた作品だった。
そして名前からなんとなくこんな感じではないか?
それがピタリとあって、そしてくそのクオリティーが、私の想像を遥かに超えた、そんな数少ない、まさに稀な、そして奇跡的な作品だった。
宇宙兄弟に関してその抱いている想い、それを語れば、それこそそれだけで長大な内容となってしまう。
そういうわけで、今回はその宇宙兄弟の中で、数ある名シーンの中で、最初に胸に響く忘れられない、そのシーンを皆さんに紹介したいと思う。
宇宙兄弟には、2人の主人公がいる。
文字通り兄弟、兄である南波六太と、弟である南波日々人だ。
この2人は仲よすぎず、かといって離れすぎない、絶妙な距離感で、そして弟である南波日々人がまっすぐ迷いなく宇宙飛行士と言う夢に向かって、それを叶えて、そして本当はそんな弟を引っ張りたかったが現実に引きずられる形で諦めた同じ宇宙飛行士と言う夢を、逆に弟に感化されて、そして弟とは違う方向で、兄貴らしい、南波六太らしい、謙虚で不器用で自信はないが、確かに裏打ちされた努力と、そして何よりも素晴らしい人間性でそれを叶えていく、ものすごく大まかに言ってしまえばそういったストーリーだった。
しかしそのいつも少し先に行って兄を引っ張っていた南波日々人が、月面探査で起きた事故によりPD、パニックディスオーダー、パニック障害を患ってしまい、それにより宇宙服を着ることができなくなってしまい、二度と宇宙飛行士として宇宙へ行けなくなるかもしれないと言う危機を迎えた。
そんな中、NASAの仲間や、ロシアで知り合った偉大なる先輩イヴァン・トルストイの応援により、少しずつ前に進み、症状を回復していき、ついにその症状が治まったかどうかと言う試験を受けるところまでこぎつける。
そして試験が行われること決まった、南波日々人はタクシーの中、その夢の中で、試験を受けているその光景を見てしまい、それによりパニック障害を引き起こしてしまう。
絶望の雨
ついにこぎつけたラストチャンス、それが、ただの夢で、失敗してしまうと言う、文字通りの悪夢。
「今までやってきた事は何だったんだ…。
頼むから、こんなくだらなねぇ夢で、
発作なんて起きないでくれよ――!」
雨の中打ちのめされて、絶望し、どうしようもなくなったときに、先輩宇宙飛行士である吾妻滝生と墓参りをしたことを思い出し、偉大なる先輩であるブライアンJ、その幻に、雨の中問い掛ける。
「俺はこの先、どうしたらいい…ブライアン?」
「死人やら神様に答えを求める前に、周りをよく見るこった。
生きてる兄貴と話せ」
そこで初めて日々人は、兄である南波六太に、生まれて初めて相談を持ちかける。
やってきた南波六太は、自分がびしょ濡れなことに驚き、それについて畳み掛ける。
それに南波日々人は静かに、
「まぁ…なんでこんなに濡れたかは、話せば長くなるってやつだけど…
今日は…話すわ」
お前が俺に相談とは金環日食並みの珍事だな、とパスタを食べながら話す兄貴に対して、まずは南波日々人はPDってわかるかと尋ねる。
それに南波六太は直前まで観てたアニメ、プリティ・ドックかと答える。
それに対して、Panic Disorderの名前を出す。
一気に南波六太は、その言葉の重みに引きずり込まれる。
そして、南波日々人は自らの思いを語る。
「ぴんとこないだろうけど、結構…辛い。
俺の復帰をかけた、その直前だってのに…
帰りのタクシーで見た夢なんかで、発作が出ちまったんだ。
このまま試験で、うまくいく気がまったくしない」
そんな口元を抑えて沈みこんだ弟に、南波六太は食べていた皿を差し出し、
南波六太の応え
「まあ食え。
今日は俺のおごりだ、酒も遠慮すんな」
そんな優しさを見せて、私は南波六太が、どんな言葉を弟にかけるのか、正直想像もつかなかった。
世間一般的になぐさめると言う事はないだろうと思っていた。
南波六太はグラスを傾け、語る。
「でもさ…意外だな。
PDなんて1番無縁そうなお前が…
俺みたいな繊細な心の持ち主がなりやすいもんだろ。
それをお前のような大雑把な人間がなっちまうなんて、この先俺は…俺のことが心配だ」
と1回場を和ませてから、
「もし俺なら…多分…逃げそうな気がするけど…その試験から」
南波六太は1度も、弟と目を合わせる事はなかった。
「でも大雑把なお前は迷っても結局やるんだろ。
そういう奴だ、俺がここでやめとけっつっても絶対やるんだよ
心の中に、絶対を持ってるやつだからな」
そのある程度の距離を保ち、無理矢理寄り添うことがなく、忖度しない、その兄の言葉だからこそ、その言葉が弟に深く深く染み込んでいったように見えた。
そして別れ際、南波六太は笑顔で告げる。
「そうだ日々人!
もし今後PDの発作が出そうになったらこう呟け。
来たなこのPD野郎、プリティードッグめ!ってな」
かなり酔ってんなぁ、と笑う日々人に対して、そうすればいやでも家で飼っている犬、APOの間抜け面を思い出すだろうと嘯く南波日々人。
そしてそっぽ向きながら、何でもないことにのように自らの頬をかきながら、南波六太は何でもないことのように語る。
同じ宇宙への憧れ
「あとあれだ、タクシーで発作が出たことで不安になってるだろうけど
俺はそれを聞いて、逆にちょっと安心したぞ」
なんでだと尋ねる弟と、いちどだけ目線を合わせる。
「宇宙服着てるかどうかは、発作と関係ないってことだろ?」
ハッとしたような顔を見せる日々人とまた目線を逸して、
「子供もん頃からの、憧れだったじゃねーか
宇宙服は、俺らの味方だ」
思い出させる、気持ちを。
これは共に、長い道のりを経て、宇宙に憧れ、宇宙に立ち向かい、そして宇宙に飛び出そうとしている、飛び出した、そんな2人だからこそ出来た、そんな奇跡のようなやりとりだったのだろうと思う。
その帰り、絶望的な顔色だった行きとは打って変わって、南波日々人はタクシー運転手に今日乗せた客の中で1番ご機嫌な様子だ、と笑顔を向けられる。
それに対して日々人はたずねる。
「PDって知ってる?」
「PDっつったらあれか!
パニックの、あれだろ?」
それを聞き、南波日々人は楽しそうに笑う。
「いや、そっちじゃなくて、プリティドックの方だよ」
こんなやりとりもあるのか、こんな勇気の付け方、後押しの仕方もあるのか。
奇跡のような漫画、私がありとあらゆる漫画の中でナンバーワンと位置づける、その宇宙兄弟でも、胸に響く、深い深いワンシーン。
共有してくれたら、そんな嬉しい事は無い。
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