ヴァイオレットエヴァーガーデン 美しさ、憧憬が心に光射す物語り
美しき映像、そして物語り
初めて『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のCMを見た時、なんて美しい映像なんだと思った。
そしてエヴァーガーデン、ヴァイオレットという花の名前――和名はスミレということから、きっとそれは男子禁制の花園の名前でその作品はそこに住まう少女たちのお話なのかなと想像していた。
しかし実際観て、驚いた。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンというのが女性の、主人公の名前だった。なかなかに、というか初めて聞くタイプの名前だったからだ。
そしてその女性が元軍人で、兵器に近いほどの常軌を逸した身体能力を持つということに、想像とあまりに雰囲気が違っていて意表をつかれた感覚だった。
ヴァイオレット・エヴァーガーデンを一言で表すならば、それは美しい物語だ。
この作品の最も秀逸なところが、ヴァイオレットエヴァーガーデンが手紙の代筆をしていると言うところだろう。
手紙の代筆、自動手記人形――ドール
自動手記人形――通称ドール。
この響きが、そしてこういった職業が本当にあったのではないかと思わせるほどの、それはリアリティーを伴っていた。
実際、想いを伝えると言う事はそれだけ難しい。
日常会話ですら、言葉で伝わっているのは表情やイントネーション、発せられたシチュエーションなどを除くのなばら、たったの7%だと言う。
それが手紙となればなおさらだろう。
現在のSNSですら誤解やすれ違いや誹謗中傷で溢れていて、言葉の無力さを感じずにはいられない。
その中にあった元孤児で、人の気持ちというものを察する術を身に付けずに、結果的に親代わりとなった心優しき軍人の少佐であるギルベルトに愛情を受けて、しかしその意味がわからずに、その気持ちに報いようと自らも軍人となり役に立とうとするが最終的にギルベルトと殉職する場に立ち会うことになり、彼女自身もその両腕を失い、義手となる。
わからない感情、愛情――愛してるの意味
その間際にギルベルトは彼女に愛してる、という言葉を贈る。
しかし元孤児で、兵器として扱われていた彼女にその意味は初めて贈られた言葉であり、感情であり、愛情だった。
受け取るためのあらゆるものが欠けていて、彼女はただ困惑し、戸惑うことしか出来ずに永遠の別れとなってしまう。
そして彼女はギルベルトの友人であり上官であったホッジンズに郵便社にて手紙、そして依頼人の代わりに気持ちを紡ぐ自動手記人形という存在を知り、それを通して彼が遺した言葉の意味を見出すために代筆を始め、その中で様々な人々との交流の中で、人生というものの意味や、それがもたらす感情、そういったものと触れ合う中で、彼女は相手の言葉の裏側にある本当の意図に気づいていく。
印象に残る鮮烈な憧憬
同僚の地元に同行し、ヴァイオレットが相手の気持ちを読めないがためにいき過ぎた行動をとったと時。
同僚が責める言葉を一切否定せず、自分の非を認め、その結果としてお互いの妥協点を図る工程によって、同僚自身が自分の勇気のなさを自覚させられ、それが家族や地元の仲間たちとの和解を促す結果へと導かれることになったシーン。
流星群を共に見て、ヴァイオレットのことを好きになり、しかしその気持ちを打ち明ける事はせずに同じように旅に出て、いつの日か巡り合う確率が、200年周期で巡るアリー彗星をもう一度見上げるほどの確率だろうか? と想いを遠くに馳せ、それでも躊躇うことないと勇気をくれたヴァイオレットを見送る写本家の笑顔。
死にゆく者と接する際、戦場で育った彼女だからこそ真実真摯にその意味を受け取り、意図をくみ取ろうと相手を尊重し、余計な事は言わず、しかしそれゆえにその所作、仕草は見ている我々の心を打つ。
山小屋で、タイプライターもなしに手紙を代筆するその姿に、背筋が凍る想いがした。
戯曲家の、落ち葉の上に乗って湖を渡りたいと話した今は亡き娘に騙った、傘を使って風を利用すれば出来るかもしれないという言葉を尋常ならざる身体能力に任せて実行し――それによって彼のわだかまっていた気持ちを解き放った、その天使にも似た無邪気な崇高さ。
心に光射す作品
この作品の根底にあるのは、自らの無力さ、世間の残酷さ、物事の儚さ――だけどそれでも前に進もうとする諦めにも似た、そんな人間本来持ち得ているかもしれないどうしようもない気持ちなのかもしれない。
上官であり、親代わりであり、彼女が慕い、心の底から愛したギルベルトが、彼女のことをヴァイオレットと名付け、そしてエヴァ―ガーデン家に預けられた為につけられたこの名前が、本当に作品に色を添えて、作品そのものを形作っていると言っても過言ではない。
思い出しても、見ている時も、まるで心に、空の光が差すような気持ちにさせられる。
美しいアニメと言われれば、最初に思い浮かぶかもしれない、これはそんな作品だった。
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