ツレがうつになりまして 生き辛いと考えてる人に捧げる”割れないで”生きて――
堺雅人と宮崎あおいの印象的なポスター
最初の出会いは、書店だった。
その時煌めく宮崎あおいが印象的だった。
今でこそ半沢直樹を始めとして様々なメディアに出ずっぱりの堺雅人は、その時はそれほど印象に残っていなかった。
うつ病になる約1年前ほどか。
その時から、1ヵ月半に1度、1週間から10日ほど自分でうつ期と呼んでいた、どうしようもなく何もかもが嫌になって、無気力になって、人から距離を取りたいんだけど人にかまって欲しいと言う時期のその辛さに悩まされていた。
いわゆる、うつ病予備軍だった。
そのポスターに、私は惹かれた。
ただなんとなく、宮崎あおいの方がうつ病になって、それを堺雅人が支える話だと勝手に想像していた。
なんとなくそんな配役だと、女性の方がそういう風になった方がなんか素敵だと。
だが実際は逆だった。
後に一緒に見た母も、それは意表をつかれたと言っていた。
私は、声を失うほどに引き込まれた。
途中3度は泣いた。
これまでに、おそらく10回以上は見ているだろう。
人は皆、哀しい
人は皆、哀しい。
この映画を見ていて、いつも思うことだ。
誰も悪い人はいない、一生懸命生きているだけで、誰かの役に立とうと、社会の歯車になろうと、なんとかしがみついてお金を稼ごうと、そんなふうに必死になって生きているだけ。
だけどその結果やった事は、誰かを追い詰め、自分を追い詰め、結果的に1人の人間を壊してしまった。
なぜなのかは、映画の中に答えが語られている。
人は結局、人の縁が一番大事なかもしれないと思わされる。
堺雅人演じる主人公のツレは、結果的に奥さんであるハルの楽天的で前向きな性格に救われる。
仕事を辞めたツレは、昼間ゆっくり休むことすらできなかった。
ちゃんと働いている人がいる中、世の中に顔向けができないと言う理由だ。
正直、心当たりがありすぎて、胸が苦しくなる。
学校では一生懸命、必死になって、自分を削りながら頑張る術ばかり教えられるが、自分を幸せにするために、自分をリラックスさせてm自分を大切にするやり方は教えてもらえない。
そんなツレを見て、ハルさんはまず畳でごろごろしろと言う。
しかしツレは畳の上にでなお、体をまっすぐに突っ張ってしまって、リラックスすることができなかった。
そんなツレの心を、焦らせることもなく、じっくりとゆっくりと、ハルさんをほぐしていく。
リアルなディティール、うつ病の生々しさ
この映画の最も評価すべきところは、その生々しさだ。
この作品は、劇中でも語られているが、実際にうつ病患った連れが綴っている、日記をもとに構成されている。
それゆえに、些細なことや、細かいところのディティールが、まさに芯に迫ってくる勢いなのだ。
自分が、ゴミ捨て場に捨てられているゴミ袋よりも無価値に感じる。
今まで出来ていたことが、お弁当が作れなくなる。
電車に乗ることができず、ホームのトイレで吐いてしまう。
帰宅した途端に何もできずにベッドに倒れ込んでも、仕事を辞めることなんてできないと思い込む。
うつ病と言うものを知らない人にもぜひ見てほしいと思う。
その人の気持ちが、状況が、切実に分かってもらえると思う。
本人が1番苦しい。
頑張りたいのに頑張れない。
特に印象に残っているのが、仕事を辞めて、1番症状が厳しい時に降ってきた雪を、庭でくるくる回りながら見つめて、もっと降れ、もっと降れ、降って降って積もって積もって、電気も止まって、電車も止まって、全部止まってしまえ、と笑っているシーンだ。
自分を置いて、自分だけがどうしてもなくなった状況で、狂気の黒い闇に引き込まれた主人公を見て、奥さんは涙を流す。
そして決意する。
頑張らないぞ。
ただ二人、幸せに生きていく
ただ2人、幸せに生きていく。
現代日本の社会で、それがどれだけ難しく、そういったことができるパートナーと巡り会えたことが、どれだけ幸運なことかと言うことがこの映画を見ているとよくわかる。
そして彼の、世間的に見ればとても小さなものかもしれない一歩一歩の成長が、どれだけの勇気と忍耐と努力によって得られたものかと思うと、私は自分の心の琴線が揺さぶられるのを感じてしまう。
うつ病と言うものは、精神疾患ではなく肉体疾患であり、さらにはウイルス性の影響があるものと言う研究結果がようやく発表し出された。
本人の心の弱さや、さぼり病などと言う誹謗中傷にさらされた時代から、この原作小説や映画によって救われた人は多々いると思う。
かく言う私が、その当人なのだから。
最後、ありがちに完治する事は無いけれど、それでも少しずつ少しずつできるようになってきたことに自分の誇りを取り戻しながら、前を向いて歩いていこうと言うエンディングを迎える。
この映画は、きっとあなたの救いになる。
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