Ⅷ:【odeon gernika(楽園の、終焉)】

2020年5月16日

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「なんのためらいもなく逃げるとはな……誇りもないのか、人間?」

 じゃり、という硬い音。
 それに振り返ると、ロプロスが残された左の鉤爪で器用に石を掴み、宙に放っていた。

「…………っ!」

 足首をさする。
 ズキン、と跳ねるような痛みが、これ以上まともに走ることが出来ないことを伝えていた。

「ちょこまかと……鬱陶しく動き回ったものだな、人間。だが、これまでだ。これで――」

「……このッ!」

 勢い、エリューは手近にあった太い木の棒を、力任せにロプロスに叩きつけていた。

 派手な音を立てて、それは粉々に砕け散った。

「ほう……威勢がいいな、人間」

 ロプロスの左の翼が伸びて、その鉤爪がエリューの右の手首を掴む。

「っ……ああッ!」

 まだ、抵抗。
 残された左手で拳を作り、ロプロスの胸を打った。

 しかし毛皮で覆われた分厚い筋肉には通じず、跳ね返される。
 それでも何度も、繰り返す。

「ああっ! ああっ! あああッ!」

「……醜いな、人間。せめて死に逝くときは綺麗にとは、考えられんのか?」

「られないッ!」

 叫びは森の隅々まで響いた。

「許さない許せない許しておけない……っ! よくも俺の村を、母さんを、ミレナを……もうお前たちには誰も、殺させないからなァッ!」

 めきっ、という音と共に、エリューの右手首が――握り潰された。

「! ぐ、ああぁ……ッ!」

「……人間が、何を勘違いしたことをほざいている。お前たちは今まで自分のことを、世界の王とでも思っていたのだろう? 他の動物を搾取し、植物でものを作ってきた。それが少しばかりの人間が殺されからといって、なにを……」

「お――お前らにっ! 俺の大切な人を殺す権利なんて……ないッ!」

「その通りだ」

 光の槍が、ロプロスの腹から生えた。





「ご……っ!?」

「油断はいかんね、ロプロス。対象は未だ、沈黙していないのだ。その状態でのんびりと井戸端会議など、不意打ちをしてくれと言っているようなものだね」

「ぎ……き、き、きさ、ま……っ!」

 振り返る先には、いつの間にか回り込んでいたオルビナが、両手で光の槍を抱えていた。
 それにロプロスは、貫かれていた。

 槍の穂先は、掴まれているエリューの手前十センチにまで迫っていた。

「ふい、う、ちな、ど……」

「七対一で戦った相手に、よく言えるね」

 そこで初めてエリューは、オルビナの笑顔を見た気がした。
 口元を微かに緩める控え目なものだったが、そこにエリューは内からこみ上げる嬉しさを感じないわけにはいかなかった。

 それはそれほど、魅力的なものだった。

 そしてオルビナは笑みを湛えたまま、槍を真上に振り抜いた。
 まったくなんの、抵抗もなく。

「ぎゃあ、う――」

「すまないね。まだお相手が、六人もいるものでね。いつまでもきみだけを相手にしているわけには、いかないのだよ」

 ほとんど断末魔も上げる間もなく絶命したロプロスに一瞥をくれることもなく、オルビナは他の六匹に振り返った。
 同時それらは身構えるが、オルビナは悠然とした足取りで、

「行くぞ、有象無象の魑魅魍魎ども。私もかなり限界に近いことだし、全開で行かせてもらうよ?」

 そして再び、三つの魔法陣を展開。
 そのすべてが初めて同時に高速回転し――



【odeon gernika(楽園の、終焉)】



 六匹を囲むように13の様々な光の武器が、まったく同時に現れた。
 絨毯爆撃。

「ぎゃぎっ」
「ぎええええ」
「ぎゅおお」
「きゃああ」
「ぎゅべっ」
「ぎゅうううううううっ!!」

 矢、槍、剣、斧、鎌、ナイフといったそれそれが六匹の鳥人を刺し、斬り、断ち、刻み、その勢いのまま地面までを穿ち、砕き、土煙を上げ、視界を消し去り――そのあと現れたのは手も足も顔も千切れバラバラになり絶命した、残骸たちだった。

「――よし」

 それを確認して、オルビナは魔法陣を解除。片膝をつき、両眼を閉じ、息を吐く。
 そのあと額から、汗が流れる。
 張りつめさせていた集中力を、ようやく解いた。

 そこにエリューが、駆けつける。

「く、はっ……だ、大丈夫ですか?」

 それにオルビナは顔を上げ、片眼を開く。

 エリューは潰された右手首を押さえ、左足のみでケンケンをしていた。
 あちこちに擦過傷が見て取れる。
 額からは冷や汗が流れていた。

「……少年、きみにも迷惑をかけてしまったね。巻き込むつもりはなかったのだが――」

「いえ、全然ですよっ!」

 なのになぜかエリューは、やたら笑顔だった。

「……なぜにきみはそんな満面な笑みなのかね?」

「いやーっ! 痛いのには慣れてますしオルビナさんみたいな綺麗で強くてカッコいい女の子を守るために受けたものならそれこそ名誉の負傷みたいなもんでぜんっぜん気にもなりませんよっ!」

「そ、そうか……」

 まくしたてられ、オルビナは複雑だった。
 今までまったく見たことがない人種だった。
 しかしそれによって、

「――ふむ、気が変わった」

「へ?」

 オルビナは立ち上がり、先ほどまでとは違う対等の瞳でエリューを見て、

「きみの申し出を受ける、と言っているのだよ。私がきみを、魔族と戦いうる"勇者"にしてやろう」
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