“城南のハリケーン”八巻健二 肋骨砕く右鉤突、竜巻下段で第17、18回全日本で増田章、松井章圭と激突!

2024年4月9日

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第17回全日本

身長187センチにして体重は100キロを超えてると言う日本人どころか世界的に見ても大変に恵まれた体格。

そして、日本人どころかやはり世界中を見渡しても類を見ないパワーにより世を席巻した空手家。

それこそが今回紹介させていただく、八巻建二である。

21歳にして第17回全日本空手道選手権大会に出場した八巻建二は、2回戦、両手を上に掲げて叩き落としても凄まじい気合を入れて、それに相手の岡崎選手も呼応。

いきなりものすごいばかでかい軌道を描く左上段回し蹴りが頭上を超えて、パンチパンチローキックであっという間に場外に出してしまう。

一発で奥足のローキックを効かせ、さらにパンチも挟んでのロー。

左上段廻し蹴りをもらうも構わず、右の下突きも腹にめり込ませ、規格外のパワーで何度も何度も場外に叩き出し、電車道としての圧勝。

続いての戦いもやはり左上段回し蹴りから始まり、左右のローキックであっという間に相手のバランスを崩す。

右の下突きが強烈で、左中段廻し蹴りが爆音を響かせる。

ややこの辺に、一昨年引退した中村誠の大器を思わせると言えなくもない。

左中段廻し蹴りが炸裂炸裂し、さらに右下突きからの左上段回し蹴りが顔面をかすめる。

その右下突きが相手効いたようで、さらに左中段、右下段も叩き込み、4回戦へ。

そこで相対したが、第13回大会で19歳にして3連覇王者の三瓶啓二と激闘を繰り広げ、第14回15回大会をベストエイト、ヨーロッパ最強の男ミッシェルウェーデルを打ち破り、この全国の舞台に帰ってきた城西の爆撃機、増田章。

今度は左の前蹴りから先手を取り奥足の下段につなげるが、それに増田章も奥足の下段廻し蹴りを返してくる。

それが強烈無比。

今までとは逆に、増田章に右の下突きをめり込まされてしまう。

それに右の下突きからの後ろ蹴りを返すが、奥足下段に連打で腰をひいてしまい、さらに右の下段からの下突き、そして奥足下段8連打でついに膝をついてしまう。

ここまで下突きも交えて徹底した連打を放てるところが増田章の非凡なところと言えるが、八巻建二は首をひねりながら立ち上がり、しかし追撃の奥足下段3連打で2つ目の技ありを奪われ、ここで1本負けを喫してしまうことになった。

ついて出場した第18回全日本空手道選手権大会。

第18回全日本

この時八巻建二の体重は110キロにまで至っていたといい、1回戦、相手の突進にてこずりながらも、内股で崩し、得意の下突きを突き刺す。

その下突きが非常に有効で、さらにやはり奥足の下段で効かせ、そこから下突き下段、内股と言うコンビネーションで硬いながらも初戦突破。

続く戦いは以前のような左上段廻し蹴りが飛び出し、そこからの右下段廻し蹴り、さらに右の下突きはあっという間に効かせてしまう。

そこから竜巻のように左右の下段、そして八巻建二最大の必殺技と言われる右の鉤突きが猛威をふるい、場外にたたき出しまくり、圧勝。

3回戦もやや前のめりなために左上段回し蹴りをもらってしまう場面などありながらも、左右の下段廻し蹴りを効かせ、右の鉤突きに連打、右下段のおまけ付きでは技ありを奪い4回戦へ!

極真史上においてもここまで強烈無比、常時扱える鉤突きを持っていた選手と言うのも珍しいのではないだろうか。

まぁその、試合終了間際胴廻し回転蹴りをもらってしまったりと、ちょいちょい危ない場面も見られるのだが…

4回戦は体がつっぱり気味で硬さは見られるものの、右の下段、そして突進力は常人離れしたものがあり、打たれ強さは後ろ蹴りを跳ね返すほどのもの。

準々決勝で対戦したのは第4回全日本ウェイト制重量級4位に入っている、奥村幸一。

気合満々で前に出てくる奥村だったが、それに八巻建二が左前蹴り、そして右の下段の連打攻撃までうつさせない。

それに左のリードブローも加えて完全なる制空権を確保し、右の下段に左内股も加えて、狙いは完全に左足に集中。

足を弾き飛ばし、体を半回転させ、さらに得意の右の鉤突きき、左の前蹴りも追加。

途中から下段の反撃に合うがものともせず、さらに膝蹴り、後ろ蹴り、多彩な技を見せ、奥足の下段も効かせ、まさしく完勝。

そして準決勝、迎えた相手は大12回から14回までベスト4、15回大会はあばらをへし折られながらもベストエイト、第3回世界大会3位、第17回全日本空手道選手権大会、つもりは前年の大会で優勝を果たしている絶対的な優勝候補、松井章圭。

この大会優勝を狙うならば最難関とも言える相手。

場内に響きそうな気合い双方入れて、間合いを詰める獣2頭。

下段が交錯し、間髪入れず松井章圭の左上段回しが飛んでくる。

殺気がこちらまで届くような戦いだ。

松井章圭の下段と八巻建二の下突きが交錯。

松井章圭の後廻し蹴りが掠め、構わず八巻建二が前に出て拳を打ち下ろそうとする。

それを下から両のかかと伸び上げて止める、どこか試合を超えたような、そんなまさにしのぎ合いのような様相を帯びていた。

松井章圭はスピードで速攻を仕掛け、八巻建二が間合いをつめたら猛烈な右の鉤突ききでバランスを崩す。

そんな中、またも松井章圭の後ろ回し蹴りがこめかみをかすめる!

これでややアドバンテージを取った松井章圭が、強烈な胸へのパンチ、下突きで圧力をかけてくる。

右の鉤突ききのチャンスだと言ったが、脛受けのため体を浮かせてしまい、相手の道着をつかんでしまい、それが放てない。

そして左上段廻し蹴り、やはり八巻建二は試合になると前かがみになり、右側頭部のガードにやや難があるように思われる。

主導権を握られ、左右に廻し蹴りで体を振られ、攻撃に体重をかけられず、八巻建二は残念ながらここで判定負け喫することになった。

3位決定戦では京都の強豪、昨年の全日本でもベストエイトに入っている小井義和とぶつかり、巨漢選手同士の派手な打ち合いの中、やはり地力で勝八巻建二が下段廻し蹴りを徐々に効かせていき、やはりというか左上段回し蹴りをもらいながらも今度は逆に左上段前蹴りをぶち当て、奥足の下段を完全に効かせ、場外に叩き出して文句なしの3位を決めている。

勝利したその試合の全てが圧倒的なまでの本戦での勝利を収めている。

しかしその反面、視野の狭さ、動きの硬さ、負ける時の呆気なさ、そのあたりについて、興味深い話があると言う。

八巻建二は試合と練習では全然スタイルが違い、調子が良い時は自ら下がったりサイドに回ったりのヒット&アウェイで、常に出入りを早くしないと一発で効かされてしまった、と言うのだ。

さらには下段廻し蹴りでゴリゴリ押すスタイルとは違い、後廻し蹴りなどもブンブンと飛んできていて、まるで近づけず、実際試合の時は練習の時の半分、一節によると3分の1の力で戦っていると言う話すら聞かれる。

試合になると硬くなってしまい、本来の動きができない。

誰が呼んだか、その様をして、いつしかこう呼ばれるようになったと言う。

城南のハリケーン。

そうだとするならば、八巻健二が本来の力を発揮するためのメンタルトレーニング、そのための試合に向けての取り組み方、それこそが、自分と向き合うことこそが、彼にとっての課題と言えたのかもしれない。

そしてそれだけの力しか発揮できていないにもかかわらずこれだけの強さを誇っていたというのが、まさしく恐るべき、そうとしか言いようがないと言えるだろう。

そんな八巻建二は1987年11月6日から8日にかけて開催された第4回全世界空手道選手権大会に出場。

第4回世界大会

1回戦をカナダの、2回戦インドネシアの選手を相手に全く寄せ付けず勝利し3回戦のトリニダードのバリーを下段廻し蹴りの連発で効かせ腰を引かせて、そこからの上段回し蹴りで鼻っ柱を直撃。

快調な立ち上がり方を見せていた八巻建二だったが、しかしここで最大の――極真史においても、そしてもしかした彼の空手人生においても、最強の敵を迎えることとなった。

南米の星、アデミールダコスタ。

前回大会である第3回世界大会でも4位入賞しており、第14回全日本空手道選手権大会では世界大会を2連覇した中村誠を破ると言う想像絶するような快挙すら成し遂げている、そして本大会においてもヨーロッパ最強の男と言われている197センチ104キロを誇る、その勝利した戦いの全てを1本勝ちと言う恐怖の破壊力を持つミッシェルウェーデルを破り、すでに述べた通りの極真史上最強の一角に挙げられる男。

双方気合を入れて始まった戦いは、八巻建二早々の右下段廻し蹴りが感触よく、一気に攻め立てられるかと思ったところ、アデミールダコスタが体ごと叩きつけるような廻し蹴りの連打で反撃。

後ろ回し蹴りと後ろ蹴りが交錯し、ブラジリアンキックがひらめく。

右下段はかなり有効のようにも見受けられたが、アデミールダコスタは退くことなく間断なく攻めてくる。

下段、中段、そしてブラジリアンキックの廻し蹴りの波状攻撃。

そして後ろ廻し蹴りが時折顔面を捉えられる。

間合いを制せられ、自らの攻撃を思うように放てない。

得意のパンチをたたきこんでも、柳のようなボディー、受け方で衝撃をいなされてしまう。

延長に入るとアデミールの攻撃は苛烈さを増し、正拳突きに下突き合わせられ、横蹴りで顔面を弾き飛ばされてしまう。

体重を乗せられず反撃しかできない状況が続き、戦いは再延長までもつれ、ブラジリアンキックを顎に直撃させられつつその衝撃には耐え、なんと驚きの下段廻し蹴りで道着のズボンを切り裂くと言う現象を起こしたりもし、それが効いている事は間違いないと思われるも、アデミールダコスタは最後までそれを決定打にはさせず。

体調不良やプライベートの問題などにより体重を10キロ落とした85キロの体であくまで最後まで真っ向勝負を挑んできて、向かってこいと煽りまでされ、判定はアデミールダコスタに二本旗が上がるも主審がとらず引き分けになるが、体重判定110キロの八巻建二との25キロ差を以て、ここで残念ながら敗れることとなった。

そして来たる第20回全日本空手道選手権大会、八巻建二は稽古の際に左腕の親指を複雑骨折してしまったと言い、右腕1本の戦いとなるも3回戦をかかと落としでわざありを奪うなどし準決勝まで進出するも、

そこでマサカリキック、石井豊のステップワークを捉えきれず、飛び上がるように放たれる上段前蹴りを捌ききれず、前回と同じく最終戦績3位となった。

そして八巻建二は徹底したパワートレーニングを行い、話によるとベンチプレス230キロ、スクワット300キロと言うとんでもない重量を上げるようになり、第21回全日本活動選手権大会出場。

第21回全日本

“闘将"木元正資などを破り4回戦まで進出し、そこでウェイト制軽、中量級で優勝や準優勝などの輝かしい実績をあげる山根誠司と対戦。

体格としては41キロ差とあまりに厳しい戦いと言えたが、やはりというか右下段の一発で体をずらし、もう一発で効かせ、鉤突きをめり込ませ、吹き飛ばし、そして止めの下段でマットに沈めた。

戦慄とも言える戦いぶり…

準々決勝でぶつかったのは、その前の戦いで全日本ウェイト制中量級を3度制し、無差別の世界大会で6位に優勝する名選手、三明広幸を破って勝ち上がってきた、1日10時間の稽古で東北大会を制したと言う22歳の競合、滝田巌。

静かな始まりと思っていたのもつかの間、すごい力を入れた左下段の2連発から、全身で振り回すような右下段廻し蹴り!

そこから胸のパンチに繋げ、左ミドル、下段、下段下段下段、場外にもかかわらずものすごい打ちおろしのパンチ!

鬼気迫る猛攻…

滝田も家返してくるが、八巻建二はそれに左足の下段廻し蹴りを連打、効いた!

騒然となる場内、八巻建二は顔に気合がみなぎっている。

奥足の下段が効いたと見るや、そこに徹底集中放火、さらに右下段廻し蹴りも加えて左右に振り、右の鉤突きも追加。

奥足下段も完全に効かせ、胸のパンチ連打で場外にたたき出す!

刺激の右の鉤突きも効かせ、圧殺とも言える勝利を挙げ、準決勝で迎えるのは過去に1度の対戦で2回とも一本負けを喫しているという相手、優勝候補筆頭と言われている、第4回世界大会3位、無冠の帝王増田章。

試合は八巻建志の右の鉤突きから始まり、そこを連打、増田章は前回倒している得意技であるを奥足下段で対抗。

さらに増田章の下突きのラッシュ、近距離、睨み合う両者。

これは好勝負が期待されると思われた刹那、接近戦で突如放たれた八巻建志の右の上段膝蹴りが増田章の顎を貫く!

ガクッとなりもつれ合い倒れ込む。

再開後、八巻建二は右の鉤突き、増田章が右の下突きを中心に攻め立て、膝蹴りも加えるその様は増田章のお株を奪う爆撃機のよう。

八巻建二もまた増田章の上段前蹴りをくらい、双方顔面から血を流す凄絶な戦い。

しかしそんな中、八巻建二の膝蹴りがものすごい角度、タイミングで腹にめり込む。

延長ではやはりその右の鉤突きが効き、前蹴りで弾き飛ばし、膝蹴りを交え、あの増田章の体をくの字に曲げ、ついに雪辱を晴らすことに成功。

決勝で激突したのは176センチ110キロと言う、その当時106キロの八巻建二すら上回る体重を持つ、田村悦宏。

試合中央がっぷりよつでの、超重量級ならではの見ごたえたっぷりの打ち合いとなり、そんな中でも八巻建二は前蹴りをうまく使いポイントを稼ぎ、後廻し蹴りなども見せ、自らの間合いを保つ。

入ってきたら膝蹴りのカウンターが小気味君よく決まり、珍しく右の鉤突き、胸へのパンチの出る幕がない。

しかし田村悦宏も強引に間合いを詰めてパンチを乱打、お互いのかかと落としが交錯して本戦終了。

戦いは異例の3度目の延長戦へともつれ込み、そこで八巻建志は田村悦宏の左足の膝の上の急所を狙った右下段廻し蹴りを連打!

田村悦宏もものすごい胸への突きで反撃してくるが、その下段が徐々に徐々に威力を発揮していき、巨体を傾かせ、そこから上段回し蹴り、中段前蹴り、上段外回しとたたみかけ、最後は左上段前蹴り、右上段前蹴りと繋げ、その流れで判定勝利、ついに全日本初優勝を決めることになった。

そんな八巻建志を大山倍達はこう評したことがあると言う。

だからこの前タイソンの話が出たときに、うちの八巻とやらせてくれと言ったのよ。

3分もたないよ。

3分うちの八巻にもたないよと。

真意のほどはさておき、それを彷仏とさせるような、そんな想像すらさせるような、正しく圧倒的な力を持つ異彩を放つ存在と言えるだろう。

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冬の時代

向かうところ敵なしと思われた八巻建志だったが、次いで出場した第22回全日本空手道選手権大会から、まさかの冬の時代に入ることとなる。

1回戦から後ろ回し蹴りを炸裂させるさせ、2回戦は鉤突きの一撃で相手を吹き飛ばし、4回戦左中段廻し蹴りと右の鉤突きという左右のボディーでサンドイッチにし、そこから左の下段、右の上段膝蹴りという対角線上の攻撃、最後にはかかと落としを当て、奥足下段を効かせて押し出すなど、むしろ調子の良さを見せているような感さえあった。

しかし、迎えた準々決勝、相対するは北の武士外舘慎一。

191センチの巨体を相手に、裸足で外舘慎一がその身長差を利してのしかかってきて攻撃を加える戦法を選択し、打ち回し踵落としを八巻建志に叩き込むという驚きの展開を見せる。

八巻が下がっていく。

ややうつむき加減に、力無さげに。

戦いが再延長先までもつれ、外舘慎一の突進は止まらず、八巻建志は繰り返したつかみにより注意1、減点1となり、まさかのそこで、敗れてしまう結果となった。

去り際に残したものは、勘弁してくださいの一語。

果たしてその波乱の裏側にあったものはなにか?

試合前の控え室、満面の笑みで、両手でピースを作るその姿からは想像もつかないといえたが、八巻建志はプライベートの方で自身と身内に大きな不運が見舞われてしまい、悪いことが重なり、それで精神的に落ち込み、空手に身が入らなくなってしまったという。

空手を辞めることばかり考え、本人曰く幽霊状態でただ練習を消化し、既に決まっていたために世界大会出場だけは、そして外国人を止めることそれだけを考えて迎えた第5回世界大会。

2回戦を得意の右鉤突きからの左下段、3回戦も巨大な外国人相手に同じ戦法で圧倒し、気持ちが思いながらも勝ち進み4回戦ではさらに自らよりも長身の相手トレバーマリオネットを相手に飛び込んでくるところに上段前蹴り、そして奥足下段をたたき込み、さらに右の下段に繋げ、その長い手足を逆に完全に棒立ちにせしめる!

そして5回戦、八巻建志は最大の難敵を迎えることになる。

4回戦にて、前回準優勝のスイスの英雄アンディフグを破ったブラジルの新星、フランシスコフィリオ。

フランシスコフィリオとの決戦

まさに実績、強さともに、今大会空手部国日本にとって最大の脅威となったその男を相手に、八巻建志は普段以上に慎重に構え、左の前蹴り。

しかしそこに返しの、アンディフグを葬り去った左のブラジリアンキックを襲う!

フェイントの応酬、ヒリヒリするような緊張感。

接近しても左右下段、そして引き込んでの膝蹴り。

後ろ回し蹴りを見切り、どうやら八巻建志は左の下段に照準を合わせたいようだった。

ブラジリアンキックがあわや右の首筋を襲うと場面もあったが、事なきを得て、戦いは延長へ。

そこではガッツリとした接近戦になり、八巻建志は左の下段に加えて右の鉤突きも追加。

それにフランシスコフィリオは左の中段廻し蹴り、さらには右のブラジリアンキックを顔面にぶち当ててくる!

まさしく地球上最強決定戦。

八巻建志も胴廻し回転蹴りで答え、相手の目をじっと見据えただただ前に前に。

再延長戦でもフランシスコフィリオの右ブラジリアンキックがひらめくが、中盤、左足のブラジリアンキックをさばいての右の鉤突き、左の膝蹴り、左の下段廻し蹴りが効果を発揮!

さらに右の外回しまで繰り出し、ラッシュを敢行、体重判定でも決まらず、戦いは異例の再々延長に突入。

八巻建志の狙いは完全に右の鉤突きに絞られており、フィリオがだんだん打ち合いに付き合わなくなっていく。

顔面殴打も飛び交う激しい戦いはついに判定4対0面、八巻建志の勝利、最大脅威である外国人勢を止めるに至った。

果たして引き続き激突したのは格闘マシーン黒澤浩樹。

序盤から八巻建志がゴリゴリに追いかけていく展開となり、黒澤浩樹がこのような戦いとなるのは非常に珍しいといえる、黒澤浩樹の左上段回し蹴り、八巻建志の胴廻し回転蹴りが交錯。

気持ち的な問題も関係しているのか戦いは掴みが大きいものとなり、なかなかお互い有効打が話せずにいた。

その中、八巻建志も徐々に右の鉤突き、左の下段、右の膝蹴りを繰り出し黒澤浩樹を追い込んでいく。

連打につく連打、まさにハリケーン。

黒澤浩樹がこれだけ下段を放てないというのも繰り返しになるが本当に珍しい。

再延長では下突きの乱れ打ち、内回しが黒澤浩樹の顔面を襲い、脅威の攻撃力を世界に見せつける。

これで本人としては幽霊状態というのが信じ難いといえるだろう。

しかし最後まで旗は上がらず、16キロの体重差をもって八巻建志は世界大会ベストエイトに甘んじることとなった。

そして翌年出場した第24回全日本空手道選手権大会。

3回戦の船橋選手との戦いでは、右の下段で崩しておいての左の下段で顔面をえぐるというまさに実戦さながらの強烈なコンビネーションを見せつけ、その後の右の下段で完璧なる一本勝ちを奪ったりもするも、4回戦の共に世界大会に出場した加藤丈博との一戦では上中下の蹴りを叩き込まれて苦戦。

下段を効かせ、胴廻し回転蹴りをヒットさせ勝利するも、続き準々決勝では第21回全日本大会決勝の再現となる、田村悦宏との戦い。

戦いの行く末は再延長戦までもつれ、前蹴りを中心に打ち込むも、八巻建志は猛烈なパンチをその胸に受けてしまう。

ボディーに、下段はやや効いているような印象は起きるが、しかしそれ以上に押し込まれているような感は否めず、畳み込まれ、2対0、再々延長となり、しかしそこでも挽回するには至らず、5対0の判定でリベンジを許す結果となってしまう。

鈴木国博との二連戦

正しく本人が語る通りの不遇の3年間を過ごした八巻建志だったが、その約半年後、1993年6月20日に開催された、第10回全日本ウェイト生カツオ選手権大会にて、決勝で後の第8回世界大会王者となる鈴木国博を破っての、優勝という形での復活を果たすことになる。

特にその決勝は得意の奥足下段を連打、左右の下段廻し蹴りでの圧倒的な一本勝ちで決めており、その全盛期の強さ――いや、それ以上の燃え上がるようなもの。

まさしく死の淵にて自ら炎の中に飛び込、体を焼き、そして蘇り、不死鳥の如きそれは復活劇だった。

続いて八巻建志は同年に開催された第25回全日本大会に出場。

4回戦まで勝ち上がったそこに待ち受けていたのは、そのウェイト制大会決勝の再びの再現である、鈴木国博。

低くがっちりと構える八巻建志の左の政権が鈴木国博の胸を狙い、そして前蹴りが中断、冗談を襲う。

鈴木国博はいつものようにぴったりと張り付き、大山倍達張りの回し打ちを連打する。

間合いの勝負。

張り付かれながら、しかし八巻建志右の下段廻し蹴りを返す。

細くなったように思われる八巻建志のボディーに、鈴木国博の強烈な拳が突き刺さる。

八巻建志はボディーに連打の連打を食らいながら左下段回し蹴り、そして起死回生の右の下段回し蹴りを叩き落とす。

下から覗き込むようなそこから左の突、右の下段。

ついに鈴木国博の牙城が崩れ始める。

だが八巻もやや右の下段を嫌がっている模様。

延長では八巻建志が左のリードブローを使い的確に距離をとり、そして右の下段が脛受け事吹き飛ばす破壊力。

鈴木国博のペースに付き合わず、前蹴り、回り込みも用いて、最後は前蹴りの連打で判定勝ちするも、準々決勝で激突したウェイト性重量級の4度の優勝の本部の怪物七戸康博に敗れ、やはりベストエイトの壁を突破する事は叶わなかった。

そんな中八巻建志はまさかの映画出演などを果たし迎えた、世界大会代表選抜戦として、そして後に起こる分裂直前のある種最高レベルともいえるものとして開催された、第26回全日本空手道選手権大会。

第26回全日本空手道選手権大会

2回戦、左右の鉤突きからの下段回押し入れが怒涛の勢いで相手を攻め立て、3回戦では上原選手の突きのラッシュを捌き、やはり左のリードブローからの左下段回し。

さらに前蹴りがボディーをえぐり、右の下段廻し蹴りが叩き落とされる。

かと思った瞬間だった、

その瞬間、視線が下に行ったそこを狙い済まされた、増下から垂直に突き上げられた膝蹴りが、上原選手の顎を貫く。

技あり。

さらに4回戦では2度にわたる全日本大会入賞や、全日本ウェイト制大会重量級準優勝などを果たし、後にK-1にわたりジャパングランプリで優勝を果たすことになる富平辰文と対戦し、

まるでボクシングのストレートのようにのびのびと肘の限界まで伸ばされた左右の突きで突き放し、そこから遠心力をたっぷり使った右の下段回し蹴りを叩き込む。

要所要所には前蹴りを用いて、さらに左下段も追加。

左右の胸のパンチの破壊力は申し分なく、さらに鉤突きが脾臓をえぐる!

そして迎えた準々決勝。

対するは後の全日本大会5度の優勝、世界大会最年少及び最年長記録での優勝とという金字塔を打ち立てることになる空手革命児、塚本徳臣。

こののちに袂を沸かつことになる絶対王者、極真史上最強クラス同士の戦いは、まずは八巻建志が先手を取り、左下段からの突、右の下段、左とつなげる。

それに塚本徳臣は得意とする膝蹴り、そして前蹴り、飛び膝蹴りと対抗。

八巻建志の胸への突きが非常に有効のようで、制空権を確保する。

そこから放たれた下突き、膝蹴りで塚本の表情が歪む。

この直前に行われた塚本徳臣V七戸康博の1戦で、そこで勝利はしたものの塚本はその強烈な鉤突きにより左の肋骨を骨折していた。

そしてよりにもよって八巻建志が最も得意とする必殺の技は、その右の鉤突き。

20歳の塚本徳臣は吠えて、そしてノーガードで間合いを詰めればそこに八巻建志は右の胸への突きからの左下段。

塚本徳臣は左中段回し蹴り、しかしそこに右の鉤突きが襲いかかる。

うめき声が会場に響き当たる、さらにそこに鬼の膝蹴りの連打。

凄絶な戦い。

八巻建志は右鉤突きからの左下段回し蹴りという対角線上の攻撃、さらに胸への突きと左下段と塚本徳臣を左右に揺さぶるが、倒れず、流し、もたれ掛かり、膝蹴り、前蹴りと反撃し、かかと落としと反撃。

ダメージは圧倒的差なのだが、終盤それを盛り返し、なんとほぼ互角に打ち合うという驚愕の展開。

後のその活躍の片鱗を見せる革命児を退け迎えた準決勝。

パワー空手

そこに立ち塞がるは増田章の後継ともいわれる、破壊力抜群な連打により7度の全日本大会入賞を果たし、世界大会においても大変な活躍を果たす、市村直樹。

延長早々に放たれた左中段回し蹴りと下段の連打、それが刻んだ激しい音がその破壊力を如実に物語っているかのようだった。

しかし八巻建志も左の正拳突き、左下段廻し蹴り、前蹴りと鮮やかなコンビネーションで返す。

市村直樹の強烈な左上段回し蹴り。

そして全身で振り回すような正拳突き。

それに八巻建志は左の膝蹴り、左の下段回し蹴り。

前蹴りで突き放す。

市村直樹の左の下段回し蹴りが効果ありのように見受けられるが、八巻建志も重い右の下段回しで対抗。

パワー空手。

その単語が頭をよぎる。

そしてそのパワーが徐々に市村直樹の体を侵食していく。

市村直樹の破壊力をものともしない頑健な体躯、理論に裏打ちされた技術、そして全てを粉砕する膂力。

のっそりと間合いを詰めて、八巻建志の右の下段回し蹴りが炸裂する。

それに右の膝も加えて、その2つの放題を武器に、八巻建志が突進していく。

底知れぬパワーを観衆に見せつけた八巻建志が迎えた、決勝戦の相手。

初出場となった前々年度準優勝、そして前年の優勝者である、現代の侍数見肇。

円の動きを得意とする数見肇に対して、相手の攻撃を全身である種受け続けてきた八巻建志の方が、ダメージとしては大きかったのかもしれない。

壇上に上がる際の足を引きずる仕草にも、そこは見受けられたのかもしれない。

しかし開始直前、礼をする数見肇の、その開始線より遥か後ろのその立ち位置。

それは果たして一体何を意味していたのか──

数見肇の動きは非常に速い。

まずはお互い得意技の交換。

そこから八巻建志が間合いを詰めての右の鉤突き。

数見肇が右の上段回し蹴り。

しかしそこから徐々に八巻建志のものすさましい破壊力を誇るバズーカのような胸への突きが炸裂。

そこから右の鉤突きに繋げ、数見肇の表情が必死なものとなる。

しかし数見肇の右の下段回し蹴りも会場に大きな音を立てる。

後ろ蹴りと後ろ回し蹴りの交錯。

さらに左下段廻し蹴りの応酬から、八巻建志の右の下段廻し蹴りに数見肇の体が揺れる。

前蹴りからの胴廻し回転蹴り。

数見肇の左中段回し蹴りからの内股で体が崩れるが、仁王の形相でにらみつけ、胸の正拳突きを叩きつける。

左中段廻し蹴りと内股を浴びても前蹴り、延長では前足への下段回し蹴りを堪えて胸の正拳突きが威力を発揮。

そしてついに必殺技、右の鉤突きが炸裂!

それを回り込みながら繰り出し、間間に左右の下段回し蹴りを挟み、胸への正拳突き、前蹴り、元来の異名である城南のハリケーンの如きたどり着いたコンビネーションを見せ、しかし培った努力によりあの数見肇を翻弄し、試合終了。

2度目の全日本大会制覇を決めたのは、極真空手の機関紙であるそこに言葉を連ねる、正しく極真を代弁すべきパワー空手そのものであった。

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