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第29話「非日常が作り出す”絵”」

2020年10月8日

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目次
この記事を書いた人
青貴空羽

小説家にして極真空手家。
更に2年間の英国留学不治の病うつ病になった経験、オタク文化を発信する為ブログTwitterYouTubeを始める。

Twitter:@aokikuunovel

本編

 静かだった。

 購買部でパンを買おうと騒いでいた連中もみんなカフェテラスか食堂か屋上に向かったようで、僕の耳に届く喧騒は無かった。
 視界に映るのは最低限の動きだけでパンを頬張る彼女とその間に並ぶ二つのパイプ椅子と右手の手摺と左手の開きっぱなしの吹き抜けとの間を仕切るドアと奥の観客席だけだった。
 何も動くものもない静謐が、辺りを支配していた。

 観客席の上の方にある大きな天窓から、外を見る。

 桜が舞っている。

 ひらひらと、短い命を散らし、有終の美を飾っている。
 だけど、昼休みの時間帯にしては妙に全体が暗かった。

 窓から空を見上げる。
 納得。

 太陽が雨雲に隠れて見えなくなっていた。
 その暗い世界に舞う花びらと、静謐な静けさと、現実離れした少女の姿が相まって、なぜか僕は世界の終わりを感じた。

 だけどそれは、なぜか安心するものだった。
 理由はわからない。
 自分にそういう隠れた破滅願望があるのかどうか。
 少なくとも現時点の僕には理由は見当もつかなかった。

 ただ、なぜか心地よく、先ほどまでの焦燥感は霧散していった。
 それを感じた時、僕は彼女を凝視した。
 それは美しく、同時にどこまでも危うさを感じさせるものだった。

 信じられないくらい、この非日常が作り出す"絵"の中にはまりこんでいた。
 このまま閉じ込めて、永遠に残しておきたいと思えるほどだった。

 似たような感覚だった。

 その時気づいた。
 今まで三度ほど味わった感覚に、これは似通っていた。

 今まで気に病んでいたことは意識の彼方に消え失せ、その子のことで頭の中が埋め尽くされる。
 でも、まだ好奇心というレベルだ。
 まったく喋ってないし、どういう子か知らないから。
 そう前置きして、僕は決めた。

 話し掛けてみよう。

 まず、周りを見回した。
 チェックすべきは二点。

 彼氏を待っていないか。

 友達を待っていないか。

 彼氏がいたらそもそもアウトだし、友達を待ってたりしたら、ちょっと厄介だ。
 女の子と話す場合、相手が一人の方が複数よりも何百倍もやりやすい。

 ただでさえ対人関係は得意じゃないし、女の子なら尚更だし、さらに相手が集団なら正直手も足も出ないじゃなくて声も掠れるしどもりもする。
 今のところ特に誰かを待ってる様子もない。好都合だった。

 さて、どう攻めるか……。

 考える。
 まずは何かいい案を出そうと頭を回し、次に質は置いておいて数を出そうと頭を捻り、最後に何でもいいから何か思いつこうと頭を絞った。
 結果、出たのは一つだった。

 ――よし、普通に挨拶しよう!
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