ミルコvsヒョードル PRIDE頂上決戦の明暗分けたのは一瞬の駆け引きだった!
総合格闘技の頂上決戦
格闘技史上最高のベストバウトといえるものが、個人的に6試合ある。
極真空手から2試合、総合格闘技から2試合、顔面の立ち技格闘技からの2試合だ。
今回はその中からすべて確かに甲乙つけがたいのだが格別にスリリングだったと言える試合を紹介させていただきたいと思う。
エメリヤーエンコ・ヒョードルVSミルコ・クロコップ。
この試合は、まず試合にこぎつけるまでが紆余曲折あった。
K-1からの侵略者としてミルコ・クロコップが総合格闘技の試合にやってきて、プロレスラーの藤田と戦い膝蹴りで勝利して、PRIDEにやってきて当時の三強の一人ヒース・ヒーリングに左ミドルキック一発で勝利。
そこからイゴール・ボブチャンチン、ドス・カラスJr.を衝撃の左ハイキックKOで葬りチャンピオンのヒョードルとの試合が決まりかけ、しかし拳の怪我により延期となる。
そこから三強の一人アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラに腕ひしぎ十字固めでタップアウト負けしたり、絶対の優勝候補として挑んだPRIDE GRANDPRIX 2004 開幕戦でケビン・ランデルマンに左フックからのパウンド連打で失神KO負けしたりとか色々とケチがつき、一時は実現しないのではないかとさえ言われた。
それが遂に実現となった時、格闘技ファンの熱、そして会場のボルテージが極限まで高まっていた。
しかもそれぞれの煽りが熱い。
氷の拳VS炎のハイキック。
超人VSロシアンラストエンペラー。
それぞれの得意技技――コマンドサンボ&パンチVS左ミドル&左ハイキック。
まさに異色な対決、究極の頂上決戦、私自身もこの対決を胸躍る心地で観戦していた記憶がある。
実際どうなるのだろうと、心沸き立っていた。
実際戦って、しかしその攻防は第一ラウンド開始5分までだった。
一撃必殺の緊迫感
緊張感が、えげつなかった。
お互い、初っ端から狙っている。
右ストレート、もしくは右フック。
左ハイキック、もしくは左ミドルキック。
一発で終わる。
比喩ではなく、本当にいっぱつで決まってしまう。
よく言う煽りじゃない、こう言ったらなんだかアナウンスが盛り上げるために破壊力を持ってない格闘家に対して使い過ぎの言葉だと思うが、この2人に関しては、全く大げさではない。
ミルコは距離をとり、周りを回る。
一挙手一投足で攻撃が届く応用間合い。
緊張感は半端ではなかった。
正しくヒョードルの動きは獣のそれ。
対するミルコは、文字通りの精密機械。
ヒョードルの秘策、脛受け左ミドル潰し
そして有名な話だが、ここでヒョードルの秘策が炸裂する。
強烈なミルコの左ミドルキックに対して、腕ではなく、足を高く上げですねでガードした。
それにより、ミルコは脛を足首付近の足の甲で蹴ってしまうことにより、明らかに足を痛めてしまった。
総合格闘技の選手はタックルを狙う、もしくはタックルの対策のために重心を下げてすね受けをしない選手が多いため、こういうパターンはほとんどなかった。
そして恐るべきは、ミルコの回避能力だ。
左ミドルを封じられた形のミルコは、攻撃を出すことなくサークリングを続けて、そしてヒョードルは左右のフックを振り回すのだが、それが当たらない。
ギリギリのところで躱し、余計、距離をとり、すべてその攻撃は空を切る。
ガードではなく、こうやって外してしまうそういう目の良さが、ミルコが総合で上位に上がれた大きな1つの要因と言えるだろう。
そしてパンチが当たらないことにしびれを切らしたヒョードルが、ローキックを出したところに、逆に左ストレートを当てる。
ヒョードルは顔の肌が切れやすいと言うことが、唯一の弱点と言われていた。
そしてヒョードルの動きが鈍くなったところで、強烈な左ミドルを近い距離で足首ではなく脛を当てる形で見舞ったが、ヒョードルはそれを待ってましたとばかりにワンツー。
お互いがお互いの攻略を見つけて、そして次の瞬間にはその攻略法をぶつけると言う、非常に高いレベルの攻防戦。
さらにショートの4連発を完璧に躱して、さらに膝蹴りを含めた4連打も躱したところで、タイミングと距離を見計らっての左ハイキック!
完全にガードを通り越してこめかみをかすめたが、ヒョードルはギリギリのところで躱して、逆にタックルの要領でロープの外に押し出そうとする。
ここでストレートに出ようとしていたヒョードルの脇腹に、ようやくミルコの左ミドルキックが直撃、明らかに動きが鈍る。
この試合初のクリーンヒットと言えるかもしれない。
しかし消耗していたのはミルコと言えるかもしれない。
クリーンヒットこそさせていないが、パンチの連打で、主導権を握り、技の手数が出ていたのは、明らかにヒョードルだった。
勝負を分かった一瞬の攻防
しかしここでやや油断の見えた表情の顔面に、ミルコの左ジャブが直撃。
バランスが崩れたところにさらに左ジャブの3連発!
ここが勝負の分水嶺だった。
ここでミルコが落ち着いて冷静に対処して詰めていれば、勝機は十分にあった。
しかしここで大きすぎるほどの右のオーバーハンドでミルコの冷静さを奪ったヒョードルがさすがとしか言いようがない。
ミルコはここで左ハイキックを出すべきではなかった、出すのならば、左ミドルキックだった。
顔面は警戒されている、やはりこれはヒョードルの圧力によって、出させられた、早く決着をつけたいと言うふうに誘導されたと言うべきだろう。
ここで緊張の糸が切れたのか、足腰が限界に来たのか、まるでもつれるようにミルコは自らヒョードルに抱きついてしまい、そのままテイクダウンに持っていかれてしまう。
残念だった、この勝負は、ここまでだった。
確かにミルコはここから先もKOをされないようにうまく立ち回り、防御していたと思う。
しかしグラウンドが不慣れなミルコは、その防御で、残っていた攻撃のための大切なスタミナを全てロスしてしまった。
スタンドから始まる2ラウンドになっても、動きに全く精彩がなく、攻撃する気力も体力も残されてはいなかった。
ダメージを与えることができず、何とか倒されないのが精一杯。
あっさりとテイクダウンをとられて、後は防御一辺倒。
勝負と言うものは、まさに一瞬、とことんまで追い詰め、追い詰められた時、その時のほんのわずかな行動が、全てを左右する。
そんなまるで真剣で切り合うような、究極の戦いの機微を見せつけられたような、そんな胸にも心にも残るような、至高の頂上決戦だった。
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