ⅩⅩⅣ:決起
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本編
L地区スパンブルグ王国お抱えの一個騎士団が、そこには揃っていた。
「賢者オルビナに、敬礼!」
『ハッ!!』
総勢800名もの号令が、森に響き渡る。
それに目の前に立つエリューは、気圧されていた。
そもこれだけの人間が一堂に会するところを、見たことがない。
村には60人ほどの人間しかいなかった。
まるで森中の樹木が人間に変わってしまったような錯覚すら覚える。
「いや、ご苦労様です」
オルビナが応える。
それに隊から一人が出てきて、
「賢者オルビナ殿、この連隊を仕切る連隊長、ボブ=スミサックであります! 今回の作戦に関して、最終確認をしたいと思いますが、よろしでしょうか?」
「はい、どうぞ」
「目標は、魔王軍発端のスペルの一柱、東部軍最高司令、β(ベータ)。作戦は、第一グループが先行して道を開き、第二グループが一階右手前、第三グループが一階左手前の部屋を制圧。その後、第四グループが――」
作戦が次々と話される中、マダスカは動揺していた。
確かに今まで賢者騎士団にてオルビナは団員を率いてきたが、それは総勢247名に過ぎなかった。
それにみな、オルビナの考えに賛同した通常の剣士や一般人たちだ。
これだけ大勢の、訓練された人間たちを前に、いつもと変わらないオルビナは、頼もしかった。
「――その間にオルビナ殿たちには中央突破していただき、一気に奥の司令室にて目標を撃破していただきたい」
「はい。それでいいです。というより、それしかないでしょうね」
「では、作戦決行は翌日付けの一○:三○(ひとまる さんまる)時で、場所はここで」
「はい、よろしくお願いします」
「ハッ、それでは……各隊、配置につけ!」
『ハッ!!』
命令一下、一斉に兵士たちは持ち場に分かれていった。
それをエリュー、マダスカは呆然と眺め、
「さて、我々は我々で、作戦会議を立てるとしようか」
「はい、賢者オルビナ。御随意に」
クッタだけが、その声に反応することが出来た。
エリューとマダスカは、未だ現状を把握しきれずにいた。
「オルビナ、その……これは」
「神国スパンブルグお抱えの、聖堂騎士団の面々だ。重装備の騎士1人に、軽装備の従士10人という枠組みで、他にも修道士、司祭などを含め総勢約3000名ほどの団員数で構成されている、世界最大級の騎士団の一つだね。そのうちすぐに参戦可能な実動部隊赤隊、白隊、黒隊、緑隊に御同行いただいた、というわけだね」
クッタは苦笑いを浮かべ、
「……これだけ大掛かりな作戦は、騎士団発足以来初めてのことですよ。さすがは賢者オルビナ、発言力が桁外れです」
「いや、これはトピロ司教の広い御心のお陰だよ。私の言葉など――」
「ほんき、なんですね……」
割り込むような形で、マダスカは呟いた。
それにオルビナは、
「――そうだね。この作戦は、今までとは違う。迎え撃つのではなく、敵の懐に飛び込むのだ。迎撃態勢は万全だろうし、敵の数も段違いだろう。それに対するには、こちらも数を揃える必要があるからね」
「自分たちに……出来るでしょうか?」
滲み出る不安は、敵の恐ろしさを身にしみて体感しているからこそだった。
「……やれる、やれないじゃない」
それに答えたのは、今まで沈黙を保っていた人物だった。
「エリュー……」
「やるんだ……やるしか、ないんだ。今まで村を飛び出してきてから、見てきた。みんな、魔物があちこち闊歩して暴虐の限りを尽くしている現状に、困ってた。恐れていた。そして奪われたものに、泣いていた。それに抗する力を持つのが、俺たちなら……迷ってちゃ、ダメだ。俺は――」
「勇者にならなくちゃ、だろ?」
決め台詞をかすめ取ったクッタは、したり顔だった。
それにエリューは不満そうな顔を作り、
「……オルビナ」
「なんだい?」
「やろう……俺たちなら、出来るんだよな? 俺たちは、自分たちが思っている以上に、確かな力を持ってるんだよな?」
「信じなさい」
その笑みは、母親の慈愛を秘めていた。
それにマダスカも縋るように、
「オルビナさま……」
「マダスカ、きみはもっと自分に自信を持たなくてはならない。でなければ、魔法は――特にきみが専攻する具象系魔法は、その像を成さないだろう」
「は、はい」
「クッタ」
「はい」
その二人に比べて、クッタは飄々余裕の体をしていた。
「聖堂騎士団の指示は、君に任せる。全容を把握し、かつ適性を知り的確な指示を出せるのはきみだけだ。頼りにしているよ」
「はい、お任せください」
そしてオルビナは背を翻し、
「さて、各自覚悟を決めて、決行のその時まで身体を休めるとしよう。万全の態勢で事に当らねば、成功はまずありえないと思っておくように」
時刻、二三:四七(午後11時47分)時。
「ハァ……ハァ……」
スパンブルグ聖堂奥の、騎士団の部屋の一角、備え付けの机の前で、息を荒げている人物がいた。
明りすらつけていない、暗い室内。
その息使いだけが反響する様は、相当に不気味なものだった。
「ハァ、ハァ……こ、怖い」
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