リアルランディボーイJrのリングアウトKO!マービンハグラーのスイッチが鮮烈で超高度なボクシングを完成させる!
ランディー・ボーイ・ジュニア
おなじみ超本格ボクシング漫画はじめの一歩の愛読者ならば間違いなくご存知の名前だろう。
スイッチヒッター。
主人公幕ノ内一歩のライバルにして、カウンター遣いの宮田一郎の、その父を再起不能にした同じく父親を持つ息子であり、そして両利きの、世にも珍しいオーソドックスとサウスポーを試合中にスイッチを繰り返して、使い分け、対戦相手の距離感もタイミングも狂わせてしまうという、阿修羅の如き描かれ方をされていたボクサー。
曲者ぞろいのはじめの一歩の中でもまさに異彩を放っており、非常に印象に残っており、個人的にはさすがにモデルとなるボクサーはいないのではないかと考えていました。
しかし様々な方からいろいろな話を聞き、自らも調べ、ボクシングの歴史、多数の競技者の中から、実際にそのスイッチボクサーというのが、幾人か存在すると言うのを聞いた。
そしてその中でも、よりランディー・ボーイJr.、その彼のあり方に近いのではないかと考えた人物、それを今回取り上げさせていただきたいと思います。
その名はマービン・ハグラー。
マービン・ハグラー
アメリカはニュージャージー州ニューアーク生まれにしてマサチューセッツ州出身で、1980年から87年までの間に統一世界ミドル級王者として12度の連続防衛を果たし、マーベラス、驚くべきと言う2つ名を冠し、同時代に活躍した"シュガー"レイ・レナード、トーマス・ハーンズ、ロベルト・デュランと並び黄金のミドル級時代を築き上げた、歴史的な名ボクサーだ。
そんな彼の試合の中で今回取り上げたいのが、1980年2月16日に行われた、対ルーシフ・ハーマニ戦だ。
その当時マーヴィン・ハグラーはWBA及びWBCのタイトルを持つ王者への挑戦を、ドローにより惜しくも失敗した直後であり、WBAランキング1位、46勝38KO2敗2分。
きれいに丸めた頭で、あくまで冷静に静かにインタビューに答える様子が印象的だった。
対するルーシフ・ハーマニーはアルジェリアのボクサーで、その時点で24勝12KO1敗、1972年の夏季オリンピックにてライトミドル級で準決勝まで進出したとされており、プロ転向後はABU、アフリカンボクシング連盟のスーパーウェルター級チャンピオンにまで輝いた男だった。
vsルーシフ・ハーマニ
試合開始、お互い軽やかなステップでリング中央に躍り出て、まずはルーシフが鋭いジャブで牽制する。
マービン・ハグラーはまずはサウスポーで右ジャブを繰り出す。
ルーシフが左ジャブを連発、それを軽やかに躱しながら、探り合い。
まずは静かな始まりとなり、その中でマービン・ハグラーは的確なアッパー、そして小さなワンツーを交えて行く。
スイッチすることもなくほとんどジャブだけで1ラウンドが終わり、2ラウンドも静かな始まりとなったが、ここでマービン・ハグラーが強烈なワンツーから、強引に間合いを詰めていく。
右ジャブからの左アッパー、そして右フック、肩でフェイントしながらプレッシャーをかけ、あくまで冷静に沈着に、右フックを引っ掛けてダメージを与え、右ジャブ右フック、左ストレート――そこでスイッチ!
大砲になった右フック、左アッパー、左フック、右アッパーが直撃!
再びスイッチして、右ジャブで詰めて、左ストレートでロープに磔にして、右フック、左右フック、それが正確に顎をとらえ、残虐なまでのダメージを刻み込み、トドメの――
おそらく手心が加えているであろう左フックでしかしルーシフはのけぞり、そのままピンボールのようにロープの外に弾き飛ばされ、リングの外に文字通り全身余すことなく、叩き出されてしまった。
リングアウトKO。
初めて見た。
壮絶としか言いようがない。
場内は騒然、ありとあらゆる関係者がその場に殺到しているように見受けられる。
抱き起こされるルーシフには、体に全く力が見られない。
されるがままで、マウスピースを他人の手により外されている。
よくショッキングな場面や、衝撃KO等とされるが、これを超えるものはそうそう見受けられる事はないだろう。
しかもそれまでの試合展開があまりにも静かで、あくまで探り合いのレベルを超えるものではなかったために、その急転直下の展開に、頭がついていった者はその場にどれだけいたと言うのだろうか。
自らのグローブにキスをして、両手を挙げて、勝利をアピールするマービン・ハグラー。
2ラウンドわずかに1分42秒。
スローモーション。
リングアウトノックアウト
右フックの後の右ジャブで、しかしもともと右利きと言うことで、あまりにも強烈なその一撃でルーシフがよろめき、さらに伸びる右フック、そこで左ストレートを打ちながらその左足を前にして、スイッチ。
さらに大砲となった右から始まる高速の左からの追撃の左フックが顎を貫き、ダッキングしてそのまま伸び上がり様の右アッパーでロープに押し付け、またもその右足を前に持ってきてスイッチ。
そこから飛び込み様の右ジャブ、大砲の左ストレートで顔面を打ち抜き、右アッパーで起こし、左フックで体勢を崩し、右、左フックでトドメを刺し、そのままリングアウトさせてしまった。
あまりにも短い時間に、超高等テクニックが詰め込みすぎていて、とても1度では把握しきれるものではない。
スローモーションですら、その展開の早さ、スイッチ、狙い、それらが凝縮されすぎていて、追いきるのは至難の業だ。
倒されたルーシフは、目がうつろで、傷だらけで、まるで現在の状況がわかっていないかのような様子。
文字通りの、交通事故にあったような衝撃を受けたのかもしれない。
圧倒的と言う言葉では足りない、終わった後のタオルを首にかけ、片手をあげてアピールするその姿には、まるで試合の後と言うよりも、一風呂浴びた後のような余裕が漂っている。
強いと言う言葉では足りない、恐るべきと言う言葉では届かない、ナチュラルなボクサーとしての完成度が常人では届かない領域にあり、その上でスイッチヒッターと言う特性が悪魔的な高みまで引っ張り上げている。
マービン・ハグラー、彼はまさしくボクシングと言う歴史が作り出した、至高の領域の存在なのかもしれない。
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