とある科学の超電磁砲T ちょっと救われたわ…人間の尊厳と世の理を問う

2024年4月11日

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超電磁砲Sは人間の尊厳に切り込んだ作品

無印とは別物の展開

『とある科学の超電磁砲』という同じアニメの続編ながらこれは無印とS、そしてTは全く別物だと感じた。

無印は能力差による複雑な劣等感や差別意識。

それに相反するような友情の強さや人間性の必要性等を追求させながら、主軸はわかりやすい勧善懲悪を主としたすかっと爽快なアクション作品だと感じられた。

しかしその続編であるSでは、序盤こそその流れを受け継いでいたが、本編ともいえる超電磁砲量産(レディオノイズ)計画では、いきなりその中心人物である230万人の人間が住む学園都市の最強であるレベル5の第一位、一方通行(アクセラレーター)と遭遇する。

主人公御坂美琴の完璧な敗北

そしてここで、御坂美琴は自身が持つありとあらゆる能力を総動員して、それこそ今までとは全く違う余裕のない必死の戦いを挑む。

しかしアクセラレーターには、それこそ汗1つかかせることすら出来ず、完膚無きまでの敗北を喫する。

これは実力的には、ほとんど大人と子供といっても差し支えないほどの差がある。

レディオノイズ計画には、アクセラレーターが御坂美琴を128回殺害した先に、レベル6への道があると計算している。

逆にいえば、128回殺害するのが可能だというほどの戦力差ということだ。

そしてレディノイズ編の見どころは、その徹底したリアリティーの追求だろう。

いきなりアクセラレータを倒せばいいではなく、その周辺を探ってみたり、研究施設を潰して回ったり、その大本たる衛星を狙ってみたり、そしてアクセラレーターに敵わないと理解してもなお、計算によって御坂美琴とアクセラレータが戦ったならば50手目に負けるという解が導かれているというのを知り、なばらいきなり一手目で無様に敗れればこの計画自体のずさんさを露呈すると自らの命を賭けてでもと、それこそ本気で必死でこの計画を止めようとあらゆる可能性を模索する。

その上で、上条当麻は御坂美琴を助けようとする。

クローンの人間性と、愛情

正直最初、入りはこのレディノイズ計画編は、多少抵抗があった。

そもそもがクローンの話。

見た目が完全に御坂美琴と同じ女の子の話だし、しかも20,000体もいるし、その上みんなミサカネットワークという電気の能力で情報共有しているから、本当に喋り方から記憶から何から何まで全く同じ。

不謹慎を承知の上でいわせてもらえば、御坂美琴のキャラが薄まると思ったし、2万体もいると正直邪魔だなぁと思ったし、別にいなくなっても同じなんじゃないかというかそっちのほうがいいんじゃないかとさえ感じられてしまった。
弁明させてもらえば、それこそ現状現実世界でクローン技術の倫理的な部分が取りざたされているその根幹的な問題によるものだも感じられる。

しかし――必死になって。

自分が原因となった人殺しを辞めさせようと、だけどその根幹には自分が原因になってしまったという後ろめたさ、そして多少はあったと思われる自分のクローンに対する嫌悪感。

しかしそれが、最終盤。

上条当麻と共闘している最中で、クローンであるシスターズたちの姿を見る。
ヒドイ扱い受け、自分がただ研究のために必要なモルモットであることを認め、その上でなおオリジナルである御坂美琴を自分たちの姉であるとただ真っ直ぐに純粋な瞳で慕うシスターズたち。

そこで相対するアクセラレーターが問う。
なぜ邪魔するのか?

自分と同じ同じ顔をしたのが壊されるが面白くねぇのか、自分より先にレベル6が生まれるのが面白くねぇのか、こんな実験の発端を作ってしまったことへの罪滅ぼしか?

それに彼女は吹っ切れた爽やかな笑顔でこう語る。


「妹だから」


その瞬間、全てが1つにつながった気がした。

クローンだからとか、たくさんいるからとか、同じだからとか、そう考えてしまいがちだけれど、だけど今この瞬間そこで生きている彼女にとっては、どこまでもその時感じていることや行っていることが全てで、彼女だけのものなのだと。

超電磁砲Tはキャラの裏面まで描く真実のキャラアニメ

大覇星祭そっちのけの暗部暗躍

そしてとある科学の超電磁砲T。

正直これにはやられたと思った。
最初は大覇星祭という学園ものにはお決まりの学園祭イベント。

といっても個人的にはお祭り大好き人間だし、わかりやすいイベントのオンパレードで、ごちゃごちゃした感じも好みだし、待っていましたとそんな心境だった。

しかし始まってみれば、学園祭イベントはそっちのけで学園都市の暗部の暗躍を止めるための戦いに突入する。

思惑と思惑が激突する手加減なしの頭脳バトル!

とある科学の超電磁砲T全体に対していえることではあるのだが、正直いってこのシリーズ、出てくるキャラ出てくるキャラどれもこれも、最初の印象は正直最悪な印象の奴らばかりだった。

食蜂操祈はそもそも能力が人を操ったり記憶をいじったりと個人的には受け付けない感じだし、本編では御坂美琴の大事な親友を手のひらで転がしている感じがあったし、この野郎! と御坂美琴と一緒になって怒り爆発だった。

しかし相手が無印の主犯である木原幻生だとわかり、共闘をしている中で、彼女の事情を知り、そして木原幻生との超高レベルの頭脳バトルに至って気づけばすっかり彼女のことを応援している自分がいた。

外は外で、御坂美琴が木原幻生によって乗っ取られたミサカネットワークから抽出された力によってとんでもないチートパワーになって操られて、それを止めようとなんでも打ち消す上条当麻となんでも根性の削板軍覇がタックを組んで弾幕バトルしてるし、ある意味ではお祭り状態だった。

削板軍覇もこいつはこいつで最初は根性根性の頭の中お花畑野郎と若干蔑んでいたが、あまりにも中心に硬くてゆるぎない太っとい信念を持ってるから、もう正直途中からめちゃくちゃ好きになってたし。

特に食蜂操祈の、何でもできる万能人間のくせに、腹黒対決では木原幻生に勝てないと冷静に見極めて、その上で自分が負けた後のプランを練るとか、あまりにもお決まりのパターンは逸脱していて正直脱帽だった。

その後の現れた遠隔攻撃タイプの敵である警策看取にしても、粘着質で独善的で破滅的で正直いけ好かず、テレポーターの白井黒子との戦いで掌底を鼻っ柱に食らって鼻血を出し、さらに追撃の後ろ回し蹴りを後頭部に直撃され、とどめにテレポートを使った空中からドロップキックをまともに食って気絶した後は、そのまま放置されてればいいとさえ思っていたが、その後彼女自身も実験対象であり――食蜂操祈の過去に出てきた投薬実験によって命を失った少女ドリーを、実際は見捨てたわけではなく、逆に助けようと動いた結果拘束されていたと知り、彼女なりにこの学園都市を改革しようとした結果の行動なのだと。

そしてドリーの妹と再会した後の行動を見てしまった後は、すっかり共感してしまっている自分がいた。

少しの救い

そして最後の話である、天賦夢路編。

途中はそれこそ弾幕バトルを超えた大怪獣バトルにまで発展して、ここまでくるとちょっとどうなんだと思わなくもなかったのは、しかし話の本筋はそれではなかった。

個人的な今回のテーマは、哀愁、気づき、そして作中の登場人物たちも言っているが、少しの救いだと思っている。

基本的にはずっと、完璧なハッピーエンドは無い。

レディオノイズ編は結果的にシスターズたちは1万人近く殺されてしまったし、生き残った彼女たちも健康状態やその他の理由で入院して、クローンゆえの短命という問題も解決していないし、社会にどうやって適応させていくかなど課題が山積みだ。

大覇星祭編も結果的にはドリー本人は死んでしまっているし、全て共有しているとはいえ妹は別人である。

そしてそんな御坂美琴たちの暮らす学園都市のその構造や、裏側、目的などのその根本的な問題は全く解決したわけではない。

そして天賦夢路編の最終盤では、研究者である操歯涼子をいちどバラバラにして機械と合成して2人に分けてしばらく生活した後にまた元に戻して人間とサイボーグの2つに分けて、そして魂の生成が可能かどうかという非人道的な実験をした結果――

サイボーグの方は自分が人間ではないと気づいてしまって、そして自分には魂がないと理解してしまって、その絶望から、自らの破壊を望んでしまう。

やるせない、切ない結末だ。

しかし最後の局面で、内臓を損傷した操歯涼子オリジナルに自らのものを提供して、そして夢の中でサイボーグは彼女に自らの知識を提供して、共に研究を先に進める展開となる。

そこに科学的な根拠はなく、完璧なハッピーエンドではもちろんありえないのだし、彼女自身がそれを自分の単なる夢だと否定しきれないと認めてはいるが、しかし最後に御坂美琴がいったように、それはやはり少しの救いになっている。

やはりこの物語は、単純な結末ではなく、こちらに考える余地を残す、そして登場人物たちにこれから先を考える余地を残す、そんな物語だといわざるを得ない。

だからこの考察も、そんなふうに締めくくりたいと思う。

あなたはあなたが感じるまま、彼女たちの境遇やその結末をでありのままに受け止めてほしい。

それはきっと、彼女たちと生きた証だから。

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