砂鉄グローブ

2019年10月11日

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 ただですら繊細、という文字が辞書にないようなやつだ。
 ちゃんと寸止めですんだことは、幸運だったとしかいいようがない。

「あはあはあは。ビックリしたよねー、遥ちゃん。ごめんねー、こんな事はもう冗談でもしないからねー。だって遥ちゃんは、僕の大事なお友達だから、いなくなったら困るもんねー。だから……」


 
 衝撃が、腹を突き抜けた。



「げ」

 腹の一点が丸くへこみ、その代わりのように背中の一点が丸く膨らんでいる。
 そこを中心として、胃袋が収縮していく。

「ぐっ、ええぇえ……っ!」

 くの字にくず折れる。
 そのまま顔から、机に突っ伏す。痛い。すさまじく、痛い。
 体中の感覚が腹に集結している。胃袋がうねっている。あまりの痛みに、手先が痺れている。ぶわっ、と体中から汗が噴き出す。

「か、かは……」

 息が、息がまともに出来ない。
 痛みという悪魔が、腹の中をめちゃくちゃに暴れまわっている。胃袋がべこんべこんと蠕動する。かっ、と頭が熱くなる。

 そんな時、頭上から笑い声を聞いた。

「あはあはあはあは! だ、だからさ、頭がダメなら、腹に打つのはいいわけじゃん? いくら痛くても死にゃあしないわけだから。いやね、悦弥(えつや)も『これで誰か殴っていいっスか? 殴っていいっスか?』なんて僕に聞くわけよ。で、言ったわけ。『ダメに決まってるだろ? こんなんで人の頭なんて殴ったら死んじゃうだろ? だからボディブローの名手と言われた僕のお手並みを見て、勉強しなさい』ってね。どう、どう? いいパンチだったでしょ、いいパンチだったでしょ!」

 再び大笑いする大島と、その周りの子分たち。
 客観的に見れば残忍な光景だったが、未だお互いをあまり知らない教室の中、それに関わろうという生徒はいない。

 そんな中、

「……もう、我慢できないっ!」

 私は席を立ち、そちらへと駆け寄り――

「遥……!」



「お前らさ、ちょっとやり過ぎじゃね?」



 その前に、立ち塞がる背中があった。

「────」

 途端に、大島たちの笑い声は収まる。

 最初に目についたのが、その長い後ろ髪だった。
 襟足が、肩を越えるところまで伸ばされ、それをゴムでまとめている。一瞬中国人の俳優をイメージする。

 その襟足は、言葉を話す。

「……お前ら冗談でふざけてんだ思って、オレも黙ってたんだけどさ……その、重り入りのグローブつけて腹殴るっつーのは、やりすぎじゃね? あれだぜ、下手したら、内臓破裂とか起こすぜ? そういう事すんの、冗談のはんちゅー超えてんだと思うんだけどさ?」

 長い襟足もそう言って、バツの悪そうに頬をかく。
 どこか優柔不断さをうかがわせる言葉と仕草。

 それに大島は一瞬目を点にして、





「――は。ハハハハハハハ! なに、天寺(あまでら)? お前、遥ちゃん助けようとか、そういう事? なら、勘違いしてもらっちゃァ困るな。遥ちゃんと俺はマブで、今のはちょっとしたおふざけってやつよ。な、遥ちゃん?」

 言って、大島は遥の肩をより強く握り締めた。

「――ぐぅぅ」

 腹の痛みに加えて肩の痛みも増し、さすがに遥も呻き声をあげた。
 それを見て、大島は愉しげに笑う。

 途端、天寺の雰囲気が変わった。

「――痛がってんじゃねーかよ。お前今の、嘘だろ?」

 今までの弱気な態度が消えさり、代わりに一種の冷たさすら宿した言葉、視線が放たれる。
 その姿には、一種の闘気めいたものすら込められていた。

 その変貌に気づき、大島も目を細める。

「――あ? ンなんだよ、さっきから。なにか? 正義の味方気取りか? お前俺を舐めてんのか? 遥ちゃんがいつお前に助けを求めたよ、あァ!?」

「は……な、せ」
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