入学式②

2019年10月11日

最初から読みたい方はこちらへ! → 初めから読む
___________________



 ひと目見ただけで、三歩は後ずさりたくなる濃さ。

顔と髪が脂でべったりとテカり、体もいやらしいほどに大きく、ずんぐりとしている。
 屈み込んでこちらを覗き込んくる姿にはかなりの圧迫感。

 それに男子生徒――神薙遥(かんなぎ はるか)は、キツい双眸をさらに細める。

 この男――大島育伸(おおしま いくのぶ)のせいで、遥の毎日は陰鬱なものとなっていた。
 高校で一緒のクラスになってからずっと、大島はちょくちょく遥にちょっかいをかけてきた。
 休み時間に子分たちと周りを囲み、冗談めかして延々と肩にパンチを入れてきたり、掃除時間に雑巾をしぼっていたところ、上から水滴を浴びせられたり──数え上げればきりがない。

「今さァ、せ――――っかく楽しいネタ仕入れてきて、その話に遥ちゃんも入れてあげよーと思ったのに、なーんでそういう態度とるかなァ?」

 大島はダミ声をあげて、教科書を持っていない方の手で遥の肩を、握った。

「づっ…………!」

 馬鹿でかい四指が肉を挟み、筋肉を圧迫し、骨を軋ませる。
 見た目通りのいやらしいまでの膂力に、遥は冷や汗を流し──しかし歯を、食いしばる。

「……フ、フン。楽しいネタ、ねぇ。なんだよ、それ……まぁ、お前みたいな低俗な人間が考えるネタなんて、たかが知れてる、だろう、け、どっ、な!」

 遥が大島を馬鹿にしたような言葉を一つ吐くたび、その握力は強くなっていく。
 それでも遥は意地だけで最後まで悪態を吐ききった。

「は……ははは、はは……。相変わらず、遥ちゃんは楽しいなー……本当、また同じクラスになれた甲斐があるってもんよ。そんなこと言うから、僕もこういうの持って来たくなっちゃうんだけどね……」

 それに引き攣った笑みを浮かべ、大島は教科書を他の子分に渡し、代わりに"それ"を受け取った。

 瞬間、遥の体から血の気が引いた。





 それは、パっと見は薄いグローブのようだった。
 しかしおかしいのは、受け取った時の様子。

 ジャリ、という音と、揺れる大島のデカイ右手。
 これはただのグローブではない。おそらく中身は重い、砂鉄かなにか――

 ぶん、という風切り音と、同時に揺れる前髪。

 そして目の前に突如現れた、でかい拳。

 大島がグローブをハメた方の手で、遥の顔面目がけてパンチを寸止めしていた。

「……なーんてね。ど――――よ遥ちゃん、砂鉄グローブよー。重さは2キロっつってたかな。ビックリしたー? だいじょーぶよー、こんなので頭殴ったら死んじゃうから、そんな事は冗談でもしないよー」

『ハハハハハハハ』

「────」

 子分と共に大笑いする大島を乾いた瞳で見つめる遥のこめかみから、一筋の汗が流れ落ちる。

 ――今のは、危なかった。
 拳と鼻先との距離は、僅かに1センチ。
 風切り音から察するに、当たっていたらただでは済まなかっただろう。
続きはこちらへ! → 次話へ進む
面白かったらこちらをクリック👍
 にほんブログ村 にほんブログ村へ 
 にほんブログ村ランキング   人気ブログランキング