入学式①

2019年11月22日


 負けたくない。



 ずっとわたしは、想ってきた。

 負けるのが嫌だった。徒競争から、給食を食べる量とかまで、なんでも。
 とにかく女だからとか、そういう納得いかない理由で差別されるのが、我慢できなかった。

 ずっと男の子たちに反発してきた。殴りあいで顔を腫らして帰ったのも、一度や二度じゃない。
 お母さんにもよく怒られたし、お父さんにも笑われた。
 だけど全然直す気なんてなかった。偉そうにしてる男の子の方が悪いと思ってた。

 だけどそんなわたしも、高校に上がる頃には静かになった。

 私が変わったわけじゃない。
 変わったのは男の子の方で、突っかかってくることがなくなり、こっちは何か言っても反発されることが少なくなった。

 その代わり、妙な猫なで声で話しかけてきて、こちらのご機嫌でもとるようになった。それもわたしには、気に喰わなかった。結局対等に見ていないという意味に、想えて。

 そして現在、わたしは――

「オイ、遥(はるか)ちゃんよォ?」

 こんな風に威張り散らす男たちが、一番許せなかった。




 四月八日。

 堆守(たいもり)高校の2-D教室は、喧騒に包まれていた。
 入学式などの諸行事を終え、生徒たちはお喋りに興じたり、割り当てられた初めての教室を物色したりしている。

 そして教室後方窓際では、席につく一人の生徒を、四人の男子生徒が取り囲んでいた。

 楽しく歓談している様子、ではない。

 囲まれている生徒は、顔の前に教科書を掲げていた。 読んでいると言う様子ではない。
 まるっきり、バリケードのようにそれで顔を覆っているよう。

 そこに囲んでいる生徒の1人が、声をかける。

「オイ、何隠れてんだよ。こっち向けって」

「…………」

 しかしそれに、男子生徒は微動だにしない。答える素振りすら見せない。
 ほとんど目と鼻の先な距離感、聞こえていないと言う無理がある。

 それに声をかけた方の男子生徒は、

「オイ、こっち向けって言ってんだろ? 無視してんじゃねぇ。てめえふざけてんのか……って、聞いてんのかってゴラァッ!!」

 合計五度に及ぶ呼びかけにも反応がないことにイラだち、その教科書を取り上げる。

 露わになったその顔つきは、どこか鋭利な刃物を思わせるものだった。





「…………」

 目つきが鋭く、ただまっすぐに前方だけを見つめており、髪の毛もハリネズミのように尖っている。
 その様は、まるで小動物が敵に対して威嚇をしているかのよう。

「……返せよ。人が勉強してんの、邪魔すんなよ」

 発せられた言葉も重く、生徒はその鋭い目つきで男子生徒を睨み、取り上げられた教科書に手を伸ばす。

「――っと、」

 しかしその教科書は男子生徒の手には戻らず、さら後ろの人物へと手から手に渡ってしまった。
 その人物は教科書を弄びつつ、ニヤニヤと粘着質に笑う。

「あい――――っかわらず! 遥ちゃんは堅いなァ、ダメだよー、そんな事じゃァ? 今は昼休みなんだよ、ひ、る、や、す、み。わかる? そんな時間にお勉強なんて、ダメ、ダメ。モテないよー、そんなんじゃあ」
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