Ⅵ/ありふれた傭兵①

2020年10月9日

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目次

本編

 なにも読みとれない。
 それはわかりやすいバカな生き物と認識していたベトにとって、初めて味わう体験だった。

 初遭遇以来の、興味が湧いた。

「……そういえば最初会った時足怪我してたけど、なんかあったのか?」

 長い沈黙があった。

「…………」

 今度は今までのスルーしているのとは、わけが違うようだった。
 じっとこちらを見つめるその視線から撒き散らされる明らかに考えている気配はほとんど暴力的に周りが話しかけるのを抑えつけ、そして注目を強要した。

 1分経った。

 そんなに経った後だから、最初アレが話し始めた時ベトはまるで時が針のように動き始めたように錯覚した。
 カチリ、と。

「わたしは……生まれた時から、外の世界を知りません」

 運命の針が、動きだしたような。

「外の世界……って?」

 ある意味聞いたのが、間違いだった。

 そこから、アレの独白が始まった。

 ベトしてみれば始まってしまったというべきか。アレはそこから今まで、自分が生きてきた人生をベトに話して聞かせた。
 生まれて初めて、自分のことを誰かに語って、聞かせたのだ。
 それは当然、大変な苦労を要するものだった。
 普段ひとは当たり前のように会話をしているが、そこは抑揚や、構成、流れ、さらには相手とのキャッチボール、その反応に合わせた臨機応変の対応、その上時間や間といった要素まで考えなくてはいかず、それを長年の経験の上で無意識に行っているのだ。

 もちろんアレにそんなものはない。

 ただ言葉を綴るというだけでも、実は多大な労力を要する。

 祖母とのやり取りにおいて、主に聞き役だったからだ。

 必然その最中アレの額には大量の汗が浮き、言葉は上づり、さらには途中で喉が渇いたのか掠れ、聞き取りづらいものになり、話の焦点は流れに流れ把握しづらいモノになってしまった。
 しかしそれでもアレは懸命に、ただ必死に、説明を続けた。
 それをベトは食い入るように、というかむしろ挑むように、必死に聞きとり続けた。
 これもまた、長年女相手に面倒な後輩相手に聞き役に回った成果だった。

 終わった。

 もはや時間の感覚は、とうに消えうせていた。
 というかほんの少し前までどこにいるのか自分が何者なのかさえ忘れていたくらいだった。
 こんなにひとの話に真剣にというか死ぬ気で聞き入ったのは、ベトには初めての体験だった。

 思い切り、ため息をつく。

 肩の力を抜く。

「ハァ…………」

「と……というわけ、わけ、で、わ、わたし、わたわたし、し、は……ッ!」

 終わっていなかった。
 まだなんか喋ろうとしてる。
 というかもはや言葉になってないけど。

 ベトは慌てて、両手を掲げる。

「ん、う、うん、わかった。歩けないし、知らないし、恐いってね。うん、わかった、みなまで言うな。お兄さんホンっとよくわかったから、ていうかもう勘弁してくださいマジで……ッ!」

 両者とも、必死だった。

 ゼェゼェと、息を荒げる。
 インターバル、インターバル……とベトが考えていると、

「――ほぉう。お嬢ちゃん、あんた苦労してんだなァ」
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