武尊VS ヨーキッサダー・ユッタチョンブリー、人生を賭けた世紀の一戦を紐解く

2019年11月17日

武尊は強い。

最初にこれは言っておこうと思う。今まで散々那須川天心やら堀口恭司を持ち上げてきたが、武尊は強い。これだけは間違いない。

そして、現在の格闘技界を引っ張っているこの3者に共通している事は、そのベースや格闘スタイルの中心を占めているものが空手である、と言う点で、空手家として誇りに思う。

まず率直に、武尊の強さの秘密。

それは、トータルバランスが圧倒的に優れているというところだ。

最近Twitterでも述べているが、個人名を出して申し訳ないが芦澤竜誠などは、あまりにも地力がなさすぎる。そして木村フィリップミノルなどは、ローさえ蹴ればチャンピオンになれる、とわかりやすく穴がある。

だが武尊にはない。それどころか、必要なものが全てハイレベルでまとまっている。

武尊の戦いの中心は、左の前蹴りだ。

あの前蹴りが、下手なカラテカよりもうまい。まっすぐ最短距離で伸びてきて、しかもスナップが効いていて腹に突き刺さる。距離をとり、リズムをとり、そして決定的なダメージまで与えられる、そういった蹴りだ。

そして次の武器は、インロー。

この技、キックボクサーで使う選手はほとんどいない。内側の太ももを切る形で、地味。しかも昨今のキックボクシングではボディーへのパンチや、尺骨を狙ったミドルキック、そして飛び膝が猛威をふるっているので、ローキック自体蹴る選手が少ない。





そんな中で、武尊のインローキックは実に巧みだ。前蹴りと同じく非常にモーションが小さく、しかも足の甲で弾くように蹴るので、筋肉でダメージを散らすことが難しい。隙も作らず、そして相手の隙を誘発しやすく、同じくリズムをとり、ダメージも与えられる。

さらにその2つほど決定的ではないが、武尊はほとんどの蹴り技を使える。普通のローキック、左右のミドル、ハイキック、後蹴り。それらは相手の注意をそらすことに役立つ。

それらの蹴りで、それこそ将棋のように引いたり押したり、フェイントをかけたり、自分の間合いにしたりして、そしてご存知剛腕フックの連打で、仕留める。それが武尊のファイトスタイルだ。

ある意味でズルイとさえ言える。あれだけの剛腕でありながら、ここまで蹴りが巧みなのだ。その上間合いの感覚が抜群で、ローキックのカットを始めとしたさばきもしっかりする。

そんな私が危惧していたのは、K-1に守られていると言っても間違いでもないほど、危険を犯すほどの強敵と戦っていないこと。

それが破られたのは、タイトルの試合だ。

ムエタイの、現ラジャダムナンスタジアムフェザー級王者。

これが意味することを、正確に把握している人は何人いるだろうか? 元と現は、本当に桁が違う。ムエタイは競技人口と競争が圧倒的なので、ほんの数ヶ月で力の差が圧倒的に離れてしまったりもする。

その中で軽量級の王者は、それこそ神の階級だとさ言われている。

私はこの1戦、陳腐な言い方だが武尊の真価が問われると思っていた。あの那須川天心ですら、ムエタイのトップが相手では薄氷を踏む接戦を制することが精一杯。

試合は、衝撃の展開だった。開始2分、ムエタイはほとんどいっぱつの攻撃も出さなかった。しかしその圧倒的なプレッシャーで、場の空気を制していく。まさに本物。その空気感は、私がかつて見た化け物のようなムエタイ選手と同じものだった。

それに対して、武尊の対応がすごかった。

前蹴りを1発も出さない。

あの武尊が、得意な戦い方を一切しない。出したのは、左のインロー一本槍。それをパチンパチンパチンパチン、と太ももの内側に当て続ける。

知らない人が見たら、わからないと思う。あれは、まさに将棋のようなギリギリの戦いだった。ムエタイは、ひたすら武尊の隙を窺っていた。チャンスがあれば一気に出て、畳み掛けようとしている。

その中で武尊は、一切体制が崩れず、かつ体勢を崩しやすく、ダメージもちまちま耐えられるインロー一本槍で勝負をかけていた。





一ラウンド最後に欲を出したのか武尊が放った後蹴りに対してにムエタイら前に出てきたが、武尊はそれをなんとかしのいでラウンドを終えた。

2ラウンド、展開は変わらなかったが、変わったことが1つあった。

ムエタイは、ダメージを抱えていた。太ももの内側と、精神に。

いらつきが見えた。武尊はほとんど手の内を見せていない。自分だけが一方的に痛め付けられている。それがムエタイに、焦りと、ほんのわずかのおごりを抱かせたのかもしれない。

2ラウンド中盤、ムエタイは強引に前に出た。ミドルキックを皮切りに、パンチを振り回す。それはかなりの重さを持っていそうだった。武尊がインローを出す。それにムエタイは凄まじく重いローを返す。武尊の体がずれる。チャンスと見て、ムエタイは一気にパンチを繰り出そうとした。

武尊は、体をズラされたわけではなかった。武尊はローに合わせて、体を翻していた。

1番得意な、右フックを思いっきり顎にぶち当てる位置取り。

信じられないものを見た。400戦でダウン経験なしのムエタイを、1発で仕留めた。信じられない男だ。

さらにあとで知ったことだが、武尊は試合前、練習を激しくやり過ぎて、右足の甲を骨折していたという。だからさすがに、違和感を覚えていた。いくらなんでも、蹴りが少なすぎると。彼が努力していないなどと考えている方には、この事実を知っておいていただきたい。

だというのにそんな弱気や焦りはみじんも見せず、前人未到の偉業をやってのける。そして試合後、彼は拳を剥離骨折して半年以上の長期休場を余儀なくされた。なのに彼は、笑っていた。ファンのため。K-1の、イメージ向上のために。私はそんな彼の姿に心の底から魅せられている。

繰り返す。武尊は強い。
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