まっしろな夏と、黒いかげ③

2019年11月9日

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 僅か小学一年生でこの狡猾さとは……やっぱりちょっぴり将来が不安、というか怖くなったりした。
 なんだかんだで今日のトランプも通算で四勝十七敗だったりするから、そういうのは沙那の方が得意なんだろうな……。
 そして僕がを観念してそのカードを自分の手札に加えたその時、入り口の方から物音がした。

 地面に生えている草をわけてこちらに向かっているような音。
 ここのテントの土台は地面より四、五十センチほど高いところにあり、そこまで四つほどの階段を登ることになる。その手前に誰かが来ている。

「お父さんだー!」

 その音を聞くや否や持っていたトランプを放り出し、おとうさんっ娘の沙那が駈けて行こうとする。その時、

 グァ。

 ――っ!?

「ふぇ?」

 突然耳に届いた妙な唸り声に驚いた僕は、反射的に駆け出そうとする沙那の手を掴んだ。
 そのままぐい、とこちらに引き寄せる。

「おにいちゃん……?」

 不思議そうな顔でこちらを見る沙那を目の端に映しながら、僕はじっとテントの入り口を凝視していた。





 ――何だ、今のグァって?
 まるで動物か何かが威嚇する時に出す唸り声みたいな感じだった。とうさんがそんな悪ふざけする訳ないし……だとしたら、犬か何か――
 考えがまとまらないうちに、そのなにかの影がテント内に侵入してくる。

 丸い輪郭の頭っぽいもの。

 その時点で犬という考えは打ち消される。一瞬だけ、おとうさんの悪ふざけかと思う。
 だけどそれがさらに入ってきて、その後ろの輪郭も明らかになり、僕は喉の奥だけで声をあげた。

 首が無い。というより、首が肩と思われる部分に埋もれている。
 もっというと、両肩の幅が頭三つ並べたくらいある。

「お、おにいちゃんっ。いたいっ」

 脳裏によぎる想像に、恐怖に、沙那をきつく抱き寄せてた。背が低いから僕のお腹辺りに顔を埋めている。

 だけど僕はそれどころじゃない。

 あの大きさ、あの体の形、まさか……

 最悪の予想が像を結ばないように、必死に考えるのをやめようと頭を振る。
 だけど視界に映る影は無慈悲にその姿を現した。
 見た瞬間、僕は衝撃で沙那から手を離していた。

 おとうさん……ではない。その倍はあろうかという巨大な質量の体躯を持つ黒い何かが、そこにはいた。

 丸くて小さい黒い瞳が、無感情にこちらを見つめていた。

 それとほぼ同じ形、大きさの突き出た鼻。全身を覆う茶色い毛並み。両手に生えた長い灰色の爪が外の日差しを反射し、その頭からは二つの丸い耳が飛び出していた。

 それは――熊、だった。


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