ムエタイ幻想の正体〜極真空手家が15年研究した末の真実〜
ムエタイ最強神話
よく聞く、フレーズ。
地上最強の立ち技系格闘技。
これもよく聞きます。
そして真実に近いとも言われています。
私としては少々複雑ですね。
地上最強は元々は極真カラテの専売特許だったはずなんですが(笑
それはともかく、ムエタイが強い事は厳然とした事実であり、動かしようのない真実です。
しかし私は長い間不思議でした。
ムエタイの強さが、どうもつかめない。
ボクシングや空手の強さとは一線を画しているような気がしてなりませんでした。
ボクシングは、そして空手は、要は強くて、速くて、巧い選手が強いとされています。なんか定食屋の売り文句みたいですが(笑)
これさりげなく出しましたが、極真カラテの創始者である大山倍達の名言だったりします。
ものすごく端的に、多少誤解を含みそうな表現と言うのを前提として言ってしまえば、相手を圧倒したほうが勝ちです。
他の格闘技との相違
しかしムエタイの強さはどうもおかしい。
なんかソロソロしてるし、必死さがないし、相手を追い込んだりしない。
だけど強い、それだけは間違いない、だけど何が強いのかがわからない。
これってなにげに格闘技が好きな人が全般的に思っている事だったりすると思います。実際格闘技を20年以上やって、見続けている私がそう感じていたくらいですから。
それが最近、ずっと見続けてきたおかげと、最近ムエタイに関する書籍をいくつか拝見させていただいた結果、その強さの正体にようやく気づいたので、ここに紹介させていただきたいと思います。
ムエタイは「引っ越しバイト」?
一言で言えば、ムエタイは「引っ越し」なんです。
はいわけわかりませんね、申し訳ありません(汗
しかしこれは冗談ではなく、結構本当なんですよ。
タイと言う国では、ムエタイは格闘技ではあるんですが、主にいくらか金を稼ぐ手段として国民全体がちょいちょいやる、いわゆる日雇いの仕事みたいな感覚のようなんです。
だから残念ながらムエタイと言うものは、タイと言う国ではあまり憧れの職業ではありません。
そのかわり、出たら、大体みんなが見ていて、試合後に一斉に口出しするみたいです。お前この前の試合これが良かった悪かった俺だったらこうやった今度はこうしろ、みたいな。
だからムエタイを専業にしてる人は、尊敬の対象にはなりません。
それがギャンブルで成り立っているからです。
元々のムエタイは、拘束されて武器を向けられたムエタイの達人がその技で窮地を脱したことで国の英雄となり、それによって国技となったほどの素晴らしい格闘技でした。
だから昔のムエタイは1つの純粋な素晴らしい格闘技でした。観客も純粋にその素晴らしい技術を見に来ていました。
しかし月日は流れ、徐々に技術だけ見に来る観客が減っていきました。仕方ありません。本当に強い人は一握りなので、それだけでつなぎとめるのは難しいというのが現状です、現実です。格闘技ブームが去った日本に近いものがあるかもしれません。
その結果、元締めやムエタイを主催する興行主や胴元はどうしたか?
タイ人はギャンブル大好き
タイの人は老いも若きも男も女も、ギャンブルが大好きです。そのために、ムエタイをギャンブルの対象として、技術としてよりも、お金を賭ける対象として再構築して、復活させて、現代の体系に持ってきたのです。
これはもちろん賛否あるかもしれませんが、日ごろから私はTwitterで言っていますが、好きなもので食べていくのは簡単ではなく、戦うだけで暮らしていくのは本当に厳しいものなのです。
事実として確かに選手は強さや名誉も望みますが、まずはそれだけで食っていけることを目標として頑張っています。
だからそれが日々の生活を得るための手段だとしたら、それを非難する事は誰にもできないと思っています。
ギャンブル化したことによる競技性の変遷
変遷した選手の狙い
元は対武器においてこちらが素手の場合を想定しての、対抗手段としての戦闘技術だったムエタイという格闘技。だからこそ当社のムエタイは素手の肘も含めた、非常に激しい、いっぽ間違えれば──いや間違えなくても死人が出るような危険極まりないものでした。
それが時代の変遷とともにギャンブル化したことによって、どのような変化が起きたのか?
まず、選手たちの目的が、KOではなくなりました。
ムエタイは、ラウンドごとにどちらが勝つか、そして金額をいくら賭けるかを変えることが可能なギャンブルとなっています。
ムエタイギャンブルの仕組み
序盤の1,2ラウンドだけではなく、最終直前の4ラウンドまで。
だからこそ、まるで競馬のパドックのように、2ラウンドまではそれぞれの力のお披露目のような側面があります。
特にまだ賭けが始まっていないような2ラウンドまでで相手をKOしてしまえば、ギャンブルがそもそもが成り立たなくなってしまいます。
だからムエタイでは、1、2ラウンドは選手も様子見です。じっくりと構え、軽く前蹴りやミドルキックを出して、お互いの癖や、間合いを把握します。
そして3ラウンドあたりからギアを上げます、それも急激に、4ラウンドでトップギアです。そしてご存知の5グラウンドは流します、もう賭けも終了しているので。
この極端な戦い方を嫌う人もいるかもしれませんが、文字通り彼らは食べるために戦っています。
そして彼らの戦歴は、日本の格闘技界では想像もできないようなものです。
100戦200戦は当たり前、1週間おきに戦うような化け物も普通にいます。それなのに基本的にノーダメージ。
彼らは相手を倒すために、痛めつけるために戦っているわけでは無いのです。
ムエタイはライフワーク
それはいわば、ライフワーク。
我々が仕事に行って、生き延びて帰ってきてまた明日も仕事に行くように彼らもムエタイの試合に出向き、生き延びて帰ってきてまた次の試合に出るのです。
だからこそ、彼らの防御テクニックは計り知れないものがあります。
最も有名な首相撲もそうです。
接近戦で殴り合うことほど危険なものはありません。顎にもらっての脳のダメージは抜けることがなく、将来的に必ずパンチドランカーになります。それは何より最優先で避けなければならない事態。
だからこそ彼らは組み付き、そしてむやみやたらに膝蹴りや肘打ちをするのではなく、振り回してコントロールします。
彼らはあらゆる攻撃を、しっかりと脛と肘でカットします。そこに根性論はありません。
彼の動きは恐るべきほどに柔らかく、完全に理にかなっています。無理が全くない。
幼い頃から日常的に戦ってきたことで、体が最適化されているのです。それは日本人が、形だけ真似て習得できるような浅いものではありません。
それこそ生活、日常そのものを、ムエタイに捧げなければ到達できない領域です。
まさにタイという国そのものが作り出した、システムといっても過言では無いのかもしれません。正しく地上最強の立ち技格闘技と言う名にふさわしい至高の領域と言えるでしょう。
誰も紐解けなかった技術体系の真髄
相手がいて自分が食える
大前提として、相手にダメージを残さないと言うものがあります。
ムエタイでは、相手がいて自分が食えると言う暗黙の了解があるようです。
相手を倒してのし上がるのではなく、相手がいて、自分がいて、そして賭ける人がいて、そうやって自分が生計を立てる、そういうシステムができているようです。
ムエタイでは、メインイベントと言う概念が無いそうです。有名どころも初出場も、全く同じ演出で、スモークなどが叩かれることもなく、観客もそれ目当てと言うわけではなく、純粋に賭け事のために来ている──最近では少々事情も変わっているようですが、それはまた次の機会に。
ムエタイではローキックがほとんどない
だからこそ、本場のムエタイでは、ほとんどローキックが見られません。
ローキックのダメージは、その試合中はおろか、ひどい時は1ヵ月近くダメージが抜けない時すらあります。
だからムエタイで、ローキックでのKOを狙っているような選手は、少なくとも私はほとんど見たことがありません。
そして顔面にもパンチの連打もほとんどありません。理由は前回述べた通り、脳のダメージは深刻な結果をもたらすからです。
そしてムエタイのルールでは、高い芸術的な蹴り、それが非常に試合の勝敗を分ける重大なポイントになります。首相撲のうまさも同様です。
だからこそ彼らは、ダメージにならず、蓄積もしない、ガードの上を狙った左ミドルキックを中心に据えているのです。接近したら首相撲。
そして倒すとしたら、肘による一発ノックアウトか、切り裂いてのTKO。
これを知ったとき、愕然としました。
空の王者、鷹
私は、無意識に空の王である鷹を連想しました。
爪と、牙を使い、縦横無尽に飛び回り、その姿は決して捉えられる事はなく、一撃必殺で獲物を刈り取る。
まさに無駄のない、研ぎ澄まされたその姿を。
スポーツ化した他の格闘技とは、まさに一線を画しています。
だからこそ、その技、リズムを崩されたとき、もろい一面が顔を出すのかもしれません。
2人の超戦士による劇変「ブアカーオ・ポー・プラムック」〜

近代ムエタイ
前回までに、ムエタイの成り立ちから、ギャンブル化しての変遷、そして技術の移り変わりまでお話しさせていただきました。
そしてお話はさらに近代ムエタイへと移っていきます。
まず大きな変化が、K-1と言う舞台の出現でした。
そこに、1人のムエタイ選手が送り込まれました。
ブアカーオ・ポー・プラムック。
遠距離からの上段前蹴り
それまで幾人ものムエタイ戦士達が様々な外の舞台へと降り立ち、そしてルールの違いに対応できずに敗れていきました。
しかしブアカーオは違いました。遠距離からの上段前蹴り。これが、他のムエタイ選手との大きな違いといえます。
ほとんどジャブのようなスピードとノーモーションで放たれるそれに、対戦相手はまともにもらって、のけぞり、バランスを崩されました。
そこから飛び込んでのローキック、しっかり首相撲でロックしてからの膝蹴りの嵐。
肘打ち無しのハンデなど、もはや感じさせないほどでした。
初出場のその圧倒的強さの為、K-1で首相撲が禁止になったと言うのはあまりに有名な話。上段前蹴りも禁止になったのではないかと言うほど、それ以来ブアカーオは前蹴りを出さなくなりました。
しかしそのルールの変化にも対応してしまったのがブアカーオ。
左ミドルキックの速射砲と、強烈無比な右ストレート
前蹴りの代わりに、左ミドルキックと言うムエタイの代名詞とも言える技を、それこそ速射砲のように放って放って放ちまくって、それこそ相手の腕を壊すような勢いで、完璧に試合をコントロールしてポイントをとってしまいました。
そして肘打ち、首相撲の代わりに会得してしまったのが、強烈無比な右ストレート。
2006年のグランプリなど、ムエタイ選手にもかかわらず準決勝と決勝と連続でパンチでKOを収めてしまうほどでした。
世界に飛躍したスーパースター
ブアカーオは結局、その余りにも鮮烈な活躍によって、日本どころか世界中にも知られるほどのスーパースターとなってしまい、その名声や実力は、初出場から15年が経った現在すら陰りや衰えを見せることはありません。
実際彼の名を冠した大会や、彼がプロモートする大会が世界各地で行われ、大盛況を博しています。
そして彼の最も強烈な武器を封じられた日本とは違い、海外では強烈な首相撲からの膝蹴りでノックアウトの山を築き、肘打ちで何人もの顔面を切り裂き、リングを血で染めています。
実際K-1の煽りでも言っていましたが、選手の多数が貧困のためにムエタイを選ぶ状況の中、彼は純粋に強さを求めてムエタイをやっていました。
そしてK-1で活躍したことで、そのあまりにも華麗な戦いぶり、そして男の私でも惚れ込みなほどの甘いマスクによって、想像を絶するような人気を博しました。
それまでの単純なギャンブルとして国内だけで行われていたムエタイという、その体質を崩した、大いなる1人と言う事は間違いなくいえるでしょう。
2人の超戦士による劇変「センチャイ・PK・センチャイムエタイジム」〜

生ける伝説
現代、そして歴代最強の、生ける伝説とまで言われているムエタイ選手です。
あまりに強すぎるため、同階級の体重同士では試合が組まれず、2から三階級上の体重の相手と戦うことを常としています。
ある時などは、対戦相手もムエタイのトップ選手であったにもかかわらず、前半3ラウンドと後半2ラウンドを別々の選手で戦うと言う、実質的な2対1マッチまでありました。
変則跳びハイキックである、自信の代名詞とも言えるセンチャイキックを始めとして、独特の前後のステップワーク、相手の体を駆け上るようなクリンチ、縦横無尽な肘打ち、ムエタイと言うよりも空手に近い突き刺すような前蹴り、
そして何より、KOを量産する強烈なパンチ、膝蹴り、そして真下から天空に突き上げるようなハイキック。
壱発もまともに貰わないような、神がかり的な間合いのコントロール。
私的には彼の戦いは、武道を極めたレベルにまで足していると言っても過言ではないと思っています。
衰えない神業、熱狂する世界
その技術についてはまた今度詳しく書くとして、その圧倒的なレベルは世界に轟いており、自分が知る限り、現在39歳と言うかなりの年齢にもかかわらず最近までふた月に一回くらいのハイペースで試合をこなし、そのほとんどがタイ国内のムエタイではなく、世界各地の高名な格闘イベントであり、もちろんそこにはギャンブルが存在せず、ムエタイそのものを、彼の神業を見にたくさんの人々が集まっています。
そしてこの2人が出現したことにより、K-1を始めとして、日本のRIZINや、アメリカのONE、そして世界各国のイベントに、ムエタイのトップ選手たちが召集される事態になっています。
常住坐臥、戦士そのものの在り方
日本でも有名なONEのチャンピオンになったロッタン、KNOCK OUTのチャンピオンであるヨードレックペット、那須川天心と死闘を繰り広げたスアキムなど然り。
そして現在ではタイ国内でもファンが出てきていて、純粋に彼らを見たいと言う意向も相まってか、先日行われたルンピニーのロッタンとセクサンの試合では、なんとほとんど首相撲が行われず、その打撃の7割が顔面へのパンチと言う、今までを考えたら異常事態と言う内容でした。
個人的に言わせてもらえば、本物は必ずどこかで誰かが見つけ、そしてそれは必ず世界的に広がる。ムエタイは、それの結果に過ぎないと思っています。
200回も300回も戦って、その結果何も生まれないなんて事は絶対にない。
彼らはまさに、常住坐臥、いつでも戦いに赴く、戦士そのものです。
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