先がない人生①

2019年10月13日


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 本気だったのか?

 ふとその言葉が、頭をもたげる。
 それに続いて、こちら側からは疑問が浮かんできた。

「きみは、妖精なの?」

「わたし、妖精なの。きみを、殺しにきました」

 一文一句変わらない言葉が、ぼくに突きつけられる。
 それに、改めて彼女を見る。

 一切の音が消失した夜の世界で、妖精と名乗る美しい少女が、ぼくを、殺しにきた。

「遼は、生きていたい?」

 同じ言葉、同じ質問。それにぼくは、

「殺してくれても、いいよ」

 ぼくの答えに、彼女は動揺したかのように微かに口を開いた。
 だけどそんなことは、瑣末な事だった。

 ぼくはここに来て、待ちわびていた機会を得たのだ。

 ぼくは本当に言いたいことを、相手に告げる。

「殺してくれてもいいから、話し相手になってくれないかな?」

「話し……相手?」

 感情が見てとれる言葉。

 それが、嬉しかった。
 ぼくの言葉が、相手の感情を動かす。
 ぼくが生きている間に、やってみたかったことだった。

 ぼくは今生きている。
 それを、実感できた。

「それって、どういう意味?」

 ぼくは気持を落ち着ける意味で少しだけ息を吸い、

「だって、ぼくはもう――あと1ヶ月の、命なんだ」




 ぼくにはもう、先がない。

 それを知った時は、さすがに正直衝撃を受けた。
 それは死ぬことの恐怖より、先の短さに対する焦燥感だった。

 ぼくは、絆が欲しかった。
 相手を気遣うのではなく、思いやり、時には怒る、仲間。

 焦がれるのは、対等な扱い。

 そして、答えが欲しかった。
 ずっと抱き続けてきた疑問。

 ぼくはこんな風に日がな愛想笑いを浮かべて床に就くために、生まれてきたのか?





 病人だからなのか?

 ならば病人は、ただ病と闘い死までの時間を引き延ばすことしか出来ないのか?

 その解答が知識だけで出せるのか、自信がなかった。

 だから死ぬ間際に彼女が現れたことは、ぼくにとって圧倒的に予想の範疇を越えた出来事だった。

「あら、成海さん。ダメじゃないの」

「あ……」

 考えていたぼくは、不意にかけられた裕子さんの言葉に、思わず反射的に苦笑いを浮かべていた。
 しまった、すいません、という風に。

 そんなぼくの――ベッドに横たわって毛布がかけられた太腿の上には、握力を鍛える器具が乗せてある。
 裕子さんに見つかる直前まで、使っていたものだ。

 裕子さんは器具をつまみあげ、

「運動は、必要な分だけと指示されてるでしょ? 何度も説明を受けたでしょう? なんでしたんです? 自分の身体の事がわからないんですか?」

 畳みかけられる、四度も続けて、ぼくの言い分など求めることなく。
 それにぼくは反論もせず、かといって打ちひしがれて俯くこともなく、ひたすら苦笑いを浮かべ続けた。

 最初のうちは真相や心の裡を語ろうと努力していた時期もあったけれど、もうやめてしまった。

 ひとは、ひとの話を聞かないものなのだと、理解してから。 

「ごめんなさい。ぼくが、悪かったです」

 これだけ――心を殺して言うことが出来れば、それ以上相手と関係がこじれることも、ない。

「まったく、成海さんはやんちゃなんですから」

 裕子さんはそれに仕方ないといった笑みを浮かべ、そう言ったんだ。

「……それって、おかしくない?」 

 そこまで。

 今日の自由時間にあった出来事をいつものように夜にやってきてベッドの脇に座り込むマヤに話したところで、疑問が投げかけられた。
 それに対してぼくは逆に、疑問符を浮かべる。

「なにが、かな?」 

「なんで思ってること、言わないの?」 

 直球な質問だった。
 それに逆にぼくの方が戸惑いを覚えるくらい。

 そんな質問、受けた覚えがない。
 そうするのがあたり前だとさえ、思っていたし。

 だから彼女の瞳を、まじまじと見てしまった。

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